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「先ほどの話の続きですが、今王都にある薬店は4つになります。うち2店舗は、医師が診察をして処方するお店になります。残りの2店舗が同族経営のお店になり、同じ品揃え、同じ価格で販売されています。ですが、効能は悪く値段が法外なんです」
「急に上がったってこと? なんで分かったん?」
「それが、急に上がった訳ではないんです。お恥ずかしい話、薬は高価なものだと思っていました。しかし、アユカ様に薬のことをおうかがいしてからは『手に入りやすい薬草なのに、どうしてそこまで高いのか』と疑問になり、王都以外や他国の薬を調べたんです。宮廷医にも話をうかがいしました。それで、恐ろしいことが判明したんです。値段が他の地域の倍だということに」
倍かー。
ぼったくりもいいとこやんて思ってまうわ。
「それは4店舗ともなん?」
「いいえ。医師が処方する薬は、必ず診察とセットになります。薬代だけだと同族経営のお店よりは安いですが、診療代もとなると高額になります。そして、その値段に合わせるように同族経営のお店は高額なのです」
「どっちに行っても高いんか。でも、分かったんなら注意したんやろ」
「値段の設定をしているわけではないので注意は難しいんですが、商業ギルドに調べてもらいました」
そっか。
冒険者ギルドがあるんやから、他のギルドがあってもいいよな。
「結果、特別な薬草と製法を用いているので高額になるそうです。しかし、詳細は教えてもらえなく、本当に特別な薬草と製法なのかまでは分かりませんでした」
「でもさ、薬草を冒険者ギルドに依頼してたら依頼料も含まれるやん。それに、他の国や街から取り寄せてるとかなら、それで高くなる可能性は?」
グレコマとエルダーの驚愕している顔に、シャンツァイ以外は「どうして驚く?」と頭の上にハテナを浮かべている。
「あのアユカは偽物っす」
「え?」
「俺も一瞬そう思ったが、時々頭の回転速くなるだろ。今もその現象が起きてんだよ」
現象って……うち、アホちゃうよ。
高校も偏差値高い学校やってんで。
ただ、今は心の赴くままに行動できるから、少しハメを外してるところが目につくだけやと思うねん。
「グレコマとエルダーは不敬ですよ」
「それは、クレソンが長時間アユカ様と一緒にいたことないから、そう思うんだよ」
「そうっすよ。ものすっごいお転婆っすよ」
お転婆とアホは、イコールちゃうから。
それに、うちは頭のいい高校に通えてたからー。
「元気で健康なことはいいことですよ」
そうやんな。もっと言ってやって。
「将来、出産されるときに体力がないと大変でしょうからね。元気な王子様を生んでもらいたいですしね」
うんうん、そう……出産?
うちが子供を生む? 王子様を?
ってことは、シャンの子供ってことで……
あわわわわわ! こ、こどもってー!
あの肉体美に触るってことやろ?
まぐわうってことやろ?
あー! やら、やらしい!
クレソンはスケベ確定やわ!
「ククッ。王女も欲しいな」
シャンツァイに耳元で囁かれた。
手で耳を隠して距離を取りたかったが、手を繋いだままなので飛び跳ねるだけという意味不明な行動になってしまった。
シャンはドスケベ確定やわー!
全部がやらしすぎる。
楽しそうに肩を揺らしているシャンツァイの振動が手から伝わってきて、面映くて顔を上げることができない。
「いつものアユカっす」
「ああ、意味不明な生き物のアユカ様だな」
「あの、話を進めてもよろしいでしょうか?」
は!? そうやった!
こんなコントみたいなことしてる場合ちゃう。
数分間のことは忘れることにして、クレソンの言葉に大きく頷いた。
林檎以上に真っ赤になっているアユカを、シャンツァイはまだ笑っているし、グレコマとエルダーは呆れている。
そして元騎士隊の5人は、この光景に早くも慣れ、心穏やかに眺めている。
「先ほどアユカ様が仰られた価格が上がってしまう理由は、どうしても付き纏うものです。それもあって、販売価格の規制などは行っておりません。そもそも行えるものでもありませんしね」
それもそうやんな。
牛乳1本、卵1パックでも、スーパーによって値段が違うんやもんな。
「それらを加味したとしても高すぎるのです。地方では風邪薬1つ2500ベイが5000ベイですので。子供にしか薬を買わず、親は自然に治るのを待つ家庭が多いそうです」
風邪薬が5000円?
5000円やなくても2500円?
嘘やろ?
「な、なぁ、それって何回分の薬なん?」
「何回分とは? 薬は1回分毎のはずですよ」
そうやんな。
うちが錬成する薬も、それぐらいの量やもんな。
前世では高い風邪薬って1500円くらい?
それでも数日分入ってての値段やん。
え? こっわ! どこぞの悪徳業者よ。




