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「着いたぞ」
「え? ここ、どこ?」
「クックック」
「なんで笑ってんの?」
「いや、ずっとキスの妄想してたんだなと思ってな」
「しししてへん!」
今日ずっと見ているはずのシャンツァイの甘い微笑みが、やけに恥ずかしくて全身が熱くなる。
顔が赤いんだろうなと、手で頬を触った。
「あれ? クレープは?」
「しっかりと食べてたぞ」
ここに着くまでの間、シャンツァイが話しかけても上の空だったアユカだったが、クレープは黙々と食べきっていたのだ。
美味しかったと思うけど、全然味覚えてへん。
初デートのクレープやったのに勿体無いことしたわ。
「それで、ここはお店?」
「ああ、まだ開店準備中だがな。アユに会わせたい人たちがいて、ここで待ってもらってるんだ」
たぶん到着するまでに教えてくれていただろうことを、もう1度説明してもらったのに、全く面倒くさがれへんなんて。
さっき言ったとかも言わへんし。
シャンはマジで優しい。
カッコよくて、優しくて、筋肉美で、完璧すぎるわ。
中に入るシャンツァイに続いて、アユカも入った。
すると、椅子から立ち上がっただろう音が聞こえた。
商品が1つも並べられていないガランとした明るい店内で、5人の男性が頭を下げている。
「かしこまらなくていい。頭を上げろ」
全員引き締まった体をしているが、2人片足がなく、1人片腕がない。
「シャンツァイ陛下、その方が……」
「ああ、聖女アユカだ」
感極まったように涙され、今度は「ありがとうございました」と深く腰を折られた。
何が何だが分からず、シャンツァイを見ると説明してくれた。
「こいつらは元々騎士隊員だったんだが、魔物に酷くやられてな。手の施しようがなかったんだ。でも、アユがくれたポーションでここまで回復した。それで、お礼を言いたいって言われてな。場を設けたんだよ」
「はい。どうしても直接お礼を伝えたかったんです」
「もう騎士ではない我々は、王城に行くことができませんので」
「どうにかならないでしょうかと、シャンツァイ陛下に相談をしていたんです」
ってことは、シャンが「明後日都合をつけよう」って言ったのは、ここにみんなを集めるためやったんやね。
「別に気にせんでよかったのに。わざわざ集まってくれてありがとうね」
「い、いいえ! こちらこそお越しいただき、誠にありがとうございます!」
もう1度頭を下げられ、アユカは笑顔を返した。
ハイポーションやったら、無くなった手足も復活するんやろか?
まだ材料が揃わへんのよなぁ。
何々の材料だよって表示されるのに、他に必要な材料は表示されへんから分からへんのよね。
材料が揃った時に、材料の横に星が追加されるんよね。
「そういえば、ここって何のお店になるん? みんなが働くお店になるんやんね。遊びに来られるなら、また来たいし」
「ここは王家直営の薬屋になる」
「ん?」
「アユが作ってくれる薬を売る店だ」
「ええ!?」
「ポーションは争いを生むだろうから販売しないが、それ以外は国民の手に渡ってもいいと思ったんだ」
「はい。聖女様の薬は、どれも効き目が素晴らしいですから」
うーん……いいんかなぁ、それ。
「浮かない顔だな。嫌か?」
「良心的な価格やんな?」
「もちろんだ」
「この街って、他に薬屋あるやんな?」
「あるな」
「その店からしたら『何やねん』ってなると思うんよ」
王宮御用達と聖女ってネームバリューが付くわけやろ。
それが良心的な価格で販売されたら、他の店は商売上がったりやと思うねん。
シャンは王様で、シャンの土地やから「うちのシマに店出しよって」っていう元締め問題は本来ないはずやけど、いい顔されへんと思うねんな。
「なるだろうな」
「いいん? 絶対文句言われるやん」
「言われるだろうな。だから、こう通達するつもりだ。同じ商品を同じ価格で販売するなら卸してやるってな」
「どういうこと?」
「私から説明いたしましょう」
颯爽とクレソンが店内に入ってきた。
グレコマとエルダーも一緒にいる。
「何かあったか?」
「陛下と聖女様が街に来ているかもしれないと噂が広まりました。本日のお忍びは、ここまでになります」
「そうか」
そんな決まりあったん?
まぁ、人が押し寄せてきたら陰から警備ってできへんもんな。
残念やけど、しゃーないか。
「シャン、またお忍びデートしよな」
「ああ」
返事と共に、頭を優しく撫でられた。
ずっと手を繋いでいて、今日はキス紛いなこともしてるのに、頬が赤くなるのを止められない。
クレソンたちは慣れているので耐性がついているが、店内待機していた5人はアユカとシャンツァイの甘酸っぱさにむず痒くなっていた。
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