表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/209

4

「キャラウェイ様、お目覚めですか?」


「うん、聖女は来たの?」


「はい、一応ですが……」


一応で合ってる。

うち、たぶん誰よりも一応の聖女。


「本当に!!」


マツリカの体を避けるように顔を覗かせた男の子と、目が合った。

赤い瞳は大きく、女の子と間違えてしまいそうな可愛い男の子だ。

犬っぽくて愛嬌がある。


うーん……うちさ、恋したいねん。


でも、定番の王子様と恋をするみたいなんは無理そうやわ。

可愛い子やと思うけど、ときめきはない。

それに、あの男の子10歳くらいかな?

年齢でもアウトやわ。


んで、エルダーは同じ歳っぽいけど好みちゃう。

うちより強い人がいいねんな。


となると、緑色のドレッドヘアが今のところ見込みありか?

筋肉好きやしな。


でも、他の騎士たちの体も素敵やからなぁ。


そんな今考えなくてもいいことを考えている間に、キャラウェイが目の前まで走ってきた。

期待を込めた瞳で見られ、笑顔を返した。


「聖女様! お待ちしてました!」


「お待たせしました。遅くなりごめんなさい」


「いいえ! 来ていただけただけで嬉しいです!」


可愛いー。

おやつを欲しがる子犬みたい。

ワシャワシャ撫でたい。


衝動のままに頭を撫でようと伸ばした手を、マツリカに叩かれた。

先程のエルダーとは違い、痛くはない。

ただ少し驚きはした。


「あかんの?」


「馴れ馴れしく触ろうとしないで」


あかんのかとしょんぼりすると、キャラウェイがマツリカの服を引っ張った。


「マツリカ、聖女様に失礼なことはダメだよ」


「しかし……」


「聖女様、思う存分触ってください」


いいん?

めっちゃ睨まれてるけど、ホンマにいいん?


戸惑いながらも欲望には勝てず、キャラウェイの頭を撫でた。

優しく撫でて、柔らかい髪の質感を楽しむ。


癒されるー。


ん? 右の手の甲に模様がある。

これが印か。

ハムちゃんのマークは鳥なんやね。


「へへ」


嬉しそうな声が聞こえたが、頭を差し出されている体勢なので顔は見えない。

嫌がられているわけじゃないと分かって、もっと撫でようとした時、軽く肩を叩かれた。


「聖女様、そこまでで」


止めるよう声をかけてきたのは、常にキャラウェイの隣にいた、灰色の短髪のゾウっぽい青年だった。


言われた通り、ずっと撫でているわけにはいかないので撫でることを止めて、キャラウェイと視線を合わせるためにかがんだ。


「王子様、ありがとうございました」


「いいえ! 僕もありがとうございました」


キャラウェイの頭を軽くもうひと撫でしてから、立ち上がった。

もちろん笑顔は返している。


「とりあえず、推測するに今って夜中やんね」


マツリカではなく、騎士たちに尋ねるように聞いた。

ゾウっぽい青年が答えてくれる。


「そうです」


「何が何だか分からんから色々聞きたいけど、明日の朝にせーへん?」


うちが遅かったせいやけど、みんな休憩した方がいいと思うねん。


「かしこまりました。キアノティス陛下たちに報告し、部屋に案内してもらいましょう」


ようやく儀式をしていただろう部屋から出られた。


へー、漫画とかでよく見るお城の廊下って感じ。


廊下には等間隔に花を生けた花瓶があって、長い絨毯が敷いてある。


ハムちゃんに会ったことも本当で、異世界に来たことも本当なんやなぁ。


辺りを見回しながら歩いていると、着物の袖を引っ張られた感覚がした。

下を見ると、眩しいくらいに輝いた顔をキャラウェイに向けられていた。


「僕、キャラウェイと申します。聖女様、名前を教えてください」


「アユカですよ」


「アユカ様って呼んでいいですか?」


「もちろんです」


「あ、僕にも敬語なしで話してください」


「やったら、キャラウェイ様も敬語なしにしてな」


「分かり……分かった」


マツリカにめっちゃ睨まれてるー。

王子様が敬語いらんって言うから、うちは従ったまでやからね。


宴会場だっただろう部屋には、片付けをしているメイドしかいなくて、キアノティス陛下たちはもう就寝していると教えてもらった。


すぐにメイドに報告されただろう執事がやってきて、支度されていた部屋まで案内してくれた。


キャラウェイたちは少し離れたところに部屋があるそうで、アユカの部屋の前で別れている。


やっと着物脱げるー。


息を吐き出しながら脱いだ着物を、丁寧に畳んだ。

ダサいと思っていても高い着物だと分かるから、乱暴に扱うことができない。

お金持ちの家で育ったが、大勢の組員を養っていかなくてはいけなかったので、節約生活が身に染みついているのだ。


これって、この世界でも売れるんかな?


他の服が欲しいなぁと、下着姿のまま窓際に行き、空を見上げた。


月が2個かー。

三日月と寝待月ってことは、合わせたら満月になるな。

星もめっちゃ見える。


この世界で生きていくのかと漠然と思いながら、期待も不安もないままキングサイズだろうベッドに潜った。


霧島たち、大丈夫かな。

うちを守れんかったって、大目玉喰らうくらいで終わってたらいいな。


みんなと、もっと色んなことしとけばよかったなぁ。

ハムちゃんに写真欲しいって言ったらもらえたんかな。


家族や霧島を思い出し、目を閉じると涙が落ちてしまった。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ