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シミアの森以外にもラバーの森やクトヤダ平原などに出掛けたり、リンデン率いる第1騎士隊とガラムステフの街の瘴気を浄化しに行ったりして2週間ほど過ごした。
今日もラバーの森に行って、帰ってきたばかりだ。
「みんな、忙しそうやね」
「今、大掃除してるからっすね」
「なんかあるん?」
「キャラウェイ様の誕生日があるっすよ」
「そうなん? いつなん?」
「5日後っす」
「5日あればプレゼント用意できるな。キャラウェイ様は何が好きなんやろか?」
「そういえば、シャンツァイ様もだけど、キャラウェイ様も何か欲しいって言わないな」
「聞いたことないっすね」
それは難しいなぁ。
うち、小さい時って何欲しかったっけ?
「ってことで、明日は街に行こう! 初めてのお買い物。楽しみ」
「ダメだ」
「無理っすね」
「なんであかんの?」
「街に行く許可をもらってないからだ」
「シャンがいいよって言えばいいんやんね?」
「そうっすね」
「んじゃ、オッケーもらいに行こう」
ロッククリスタル宮殿に着く手前だったが、踵を返しルベウス城に向かった。
「でも、急に行っていいんかな? 夕食時やとキャラウェイ様もおるからなぁ」
「いつでも来ていいと聞いてるから大丈夫だぞ」
「よかった」
執務の間に着き、ドアをノックすると、開けられたドアからクレソンが姿を現した。
「アユカ様、どうされました?」
「シャンに会いに来たねん。少し時間あったりする?」
「かまいませんよ」
大きく開けられたドアから入ると、中には書類の束を持っているモナルダもいた。
目が合うと笑顔で軽く会釈をされたので、アユカも笑顔で会釈仕返した。
「アユか。どうした?」
「お願いがあってきたねん」
執務机の前まで行こうとしたが、立ち上がったシャンツァイにソファを勧められたのでソファに座った。
シャンツァイが向かいの席に着くと、クレソンがお茶を淹れてくれた。
モナルダたちも一息つくようで、別の机で立ちながらお茶を飲んでいる。
「明日、街デートしよ」
この言葉にシャンツァイ以外が、お茶を吹き出した。
睨むシャンツァイと目を合わせないようにしながら、モナルダたちはハンカチで口元を拭いている。
「シャンと出掛けたのは海へ行った1回だけやん。やから、今度は2人で出掛けたいなぁって」
デートは夢やってん。
クレープ食べながら自撮りして、手を繋いでブラブラして、コーヒー休憩するねん。
この世界で自撮りは無理やろうけど、クレープもあるか分からんけど、それっぽいことがしたい!
「2人っきりなんてダメですよ」
言われると思った。
でも、クレソンに負けへんもん。
「お忍び街デートがしたいねん。シャンよりも強い人おらんのやから2人でもいいやん。毒消しの薬も持ってくいくし、絶対にシャンから離れへんって誓うから」
両手を組んで、眉や目尻を下げて、口も真一文字にしてシャンツァイを見た。
シャンツァイに鼻で笑われたが、優しい顔をしている。
「お忍び風で我慢できるならいいぞ」
「お忍び風って?」
「基本2人移動だが、遠くから護衛たちが見守ってるってやつだな」
「大丈夫! 我慢する!」
「なら、明日は無理だが、明後日で都合をつけよう」
「やった! シャン、ありがとう!」
立ち上がりそうな勢いで喜ぶと、また鼻で笑われた。
「何か欲しいものでもあるのか?」
「キャラウェイ様の誕生日プレゼントを買いに行きたいねん。で、街に行くんやったらシャンと行きたいなって思ってん」
「そうか」
「シャンは、キャラウェイ様の好きなものって分かる?」
「さぁ。俺にはさっぱりだ。一緒に育ってねぇからな」
「え?」
「俺は、なぜか母親に嫌われていてな。母親が死んで、初めてキャラウェイと会ったんだよ。それが3年前だな」
「そうなんや。んじゃ、今度街に行く時はキャラウェイ様も一緒に行って、好きなもの教えてもらおうや」
「そうだな」
少ししんみりした雰囲気が流れかけたが、アユカの言葉と笑顔に温かい空気に変わった。
誰もが柔らかい表情をしていて、「この国に来てくれたのがアユカでよかった」と思っていた。
一方、アユカはというと……
シャンは、母親の愛情を知らずに育ったってことやんな。
よくもまぁ、暴君にならずに、ここまでの肉体美に育ったもんやわ。
うちは、その筋肉をタオル越しやけど触ったんか……触ったんやんな……
この先、直に触ることもあるんやんな。
だって、うち、婚約者やもんな。
明後日初デートやけど、キスとかしたりするんやろか。
あー! うち、何考えてんの! 初デートでキスは早いわ!
でも、シャンは大人やもんな。
夜に夜景が見える丘とかで……
わー! わー! 恥ずかしい!!
と、煩悩にまみれていた。
週明けはデートから始ります。
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