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夕食時、時間通りにダイニングに行くと、既にキャラウェイとニゲラが待っていた。
プレゼントを開ける前のような顔をして待っていたキャラウェイが可愛すぎて、誘ってよかったと笑みが溢れる。
それは、シャンツァイも同じように感じたらしく、ダイニングに入ってきた時、目元が和らいでいた。
アユカはニゲラも一緒に食べようと提案したが、ニゲラに半泣きされたので渋々諦めることにした。
クレソンと同じで、従者兼護衛だそうだ。
だから、どうしても一緒には食べられないと断られたのだ。
「あれ? じゃあ、なんでうちの迎えの時にニゲラはおらんかったん?」
「お恥ずかしいことに、出発時当日の朝に体調不良になりまして……」
ニゲラは、真っ赤になって俯いている。
「そっからずっと体調悪かったん?」
「い、いえ。次の日には元気になりました」
「そうなんや。元気になったんはよかったけど、若いんやからいっぱい食べなあかんで」
「は、はい」
給仕のメイドにおかわりをお願いしながら言うアユカは、ニゲラの煮え切れないような暗い顔に笑顔だけ返した。
何かあるんだろうなと思いながらも、追い込むようなことは言いたくないので、心配そうにしているキャラウェイに話を振った。
「今日の訓練見てて思ってんけど、キャラウェイ様は剣よりも魔法の方が才能あると思うねん」
「そうなの?」
「うん、剣も水魔法で作った剣で戦ったらいいんちゃうかなぁって。魔法の剣やから切る時に伸ばしたりできるやん。剣先向けた時に、剣先から水飛ばすとかさ。意表つけると思うねんなぁ」
新しく運ばれてきたビーフシチューを大口で食べながら、アユカは首を傾げる。
ん? なんで、みんなの時間が止まってんのやろ?
「アユカ様、その魔法を僕は使えるの?」
「キャラウェイ様は、水魔法なんやから訓練すれば使えるよ。それに、氷もできるんちゃうかな」
鑑定がバージョンアップしてから、人物鑑定にも2ページ目以降が追加されたんよね。
それで見る限り、キャラウェイ様は魔法の潜在能力が高いんよねぇ。
やから、書いてなかったけど氷もできると思うんよ。
ただレベル上げな魔力も上がらんくって、魔力がないと無理やろうから練習あるのみやけどね。
「アユ」
「なに?」
「お前から見て、俺はどうだ?」
「筋肉がめちゃくちゃカッコいい」
「間違いありませんが、今の質問はキャラウェイ様みたいに戦いについてですよ」
クレソンさんやい。
間違いやないんやったら、呆れたような言い方せんでもよくないかい?
「うーん……シャンは、うちが出会った中で1番強いからなぁ。でも、シャンも伸び代があるのは魔法の方みたい」
「お世辞なしでシャンツァイ様が1番なんすか?」
「そうやで。シャンの次にキアノティス様で、その次にリンデンで、その次にイフェイオン様とアンゲロニア様が続くよ」
「リンデン隊長……マジか……」
みんなが驚愕している間に、もう1度おかわりをした。
「魔法は、どう伸ばせばいいか分かるか?」
「練習方法は分からんけど、シャンは魔力の圧縮ができるみたいやで。ビー玉みたいな小さい玉でもぶつかったら大爆発みたいなやつとか、小さな火でも何でも溶ける高温とか」
「なるほど。ちなみに、リンデンは何かあるか?」
「リンデンは槍がいいみたいやったよ」
「魔法は?」
「身体強化の魔法を極められると思うで」
今も素晴らしい筋肉やけど、もっと素晴らしくなるんちゃうかな。
「身体強化って、何すか?」
「え? 魔法の定番中の定番ちゃうの?」
「知らないっす」
エルダーの言葉に周りを見渡したが、みんな同意するように頷いている。
えー!
リンデンには【身体強化可能】って書いてたんやけどなぁ。
「あ! でも、リンデン以外は無理っぽいから定番ではないんかも」
リンデン以外には出てこーへんかったもんな。
「そうなんすね。俺はどうっすか? リンデン隊長みたいに特別な何かあるっすか?」
「エルダーは分身作れるみたいやで。頑張れば頑張るほど分身できる人数増えるみたい」
「マジっすか!!」
「うん、相当頑張らなあかんぽいけどな」
「相当っすか……」と落ち込んでるエルダーの肩を叩いてるグレコマにも聞かれ、グレコマは飛ぶことができると伝えた。
「はぁ、飛べてもだな」
「なんで?」
「移動は獣馬の方が早いだろうし、自由に飛び回って戦える場所なんて少ないだろ。空から攻撃できる場所だったら獣馬で十分だしな」
「いやいや、数センチ浮いた状態で移動できたら、足音立たんくていいから見つかりにくいやん」
「なるほど。それもそうだな」
「やろ」
考え込んだグレコマを放っておいて、またおかわりをした。
シャンツァイはどこか楽しそうにお酒を飲んでいるし、キャラウェイは尊敬の眼差しをアユカに向けている。
「そういえば、今日泣いてた新人騎士おったやん」
「いたな」
「あの子、めちゃくちゃ強くなれるみたいやで。それに、姿消すことできるようになるで」
「リンデンに伝えよう」
「可哀想っす」というエルダーの呟きが聞こえたが、みんな聞こえないふりをした。
キャラウェイとは、今後夕食だけ一緒に食べることになった。
朝が苦手らしく、朝食は掻きこむように食べていて、昼食の時間は決まっていないからだそうだ。
夕食だけでも一緒に食べられることに喜んでいるキャラウェイを見て、ニゲラは幸せそうに微笑んでいた。




