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「昼からの飲み物は、うちが作るわ」
「何を作ってくれるんだ?」
「運動のための飲み物やよ。名前はスポドリ」
「シャンツァイ様たちに相談しようと思っていたものです」
「ちょうど横に厨房あるし、材料もらってくるな」
サッと行ってこようと思ったが、全員後ろをついてきた。
ほとんどの者が食べ終わったのだろう。
食堂で話している人たちは少なくなっていたし、厨房は片付けをはじめていた。
「へ、陛下!? どのような御用でしょうか?」
「聖女の付き添いだ」
シャンツァイの声に料理人全員が手を止め、アユカに向かって深いお辞儀をしてくる。
「聖女様、この度は誠にありがとうございます」
「え? なにが?」
「美味しい食材をお教えいただいたことです。新しい食材がたくさんあるおかげで、多種多様な料理に挑戦でき、料理人一同大変楽しく過ごしております」
「そうなんや。新しい料理が成功したら食べさせてな」
「はい、もちろんでございます。それで、本日はどのような御用でしょうか?」
「スポドリを作る材料をもらおうと思って」
「スポドリ……ですか」
「そう、スポドリ。体にいい飲み物やから、騎士のみんな以外にもいいかもね」
「作り方をご教授いただいても……」
スポドリは自分で作ってたから、作り方は完璧に教えられるで。
卵かけご飯とか、ピザトーストとか、そうめんの茹で方とかも聞いてもらっても大丈夫。教えられる。
「いいよ」
「ありがとうございます!」
また料理人一同から頭を下げられて、「そこまで感謝されることちゃうから」と微笑んだ。
なんたって、スポドリの作り方は簡単だ。
水、塩、砂糖、レモンを用意し、それらを混ぜると完成する。
作り方を教えるため、錬成をせずに口頭で伝えながら、料理人に作ってもらった。
レモンがなければ、他の酸っぱい柑橘類でいいことも伝えておく。
「こんなに簡単でよろしいんですか?」
「うん。できれば冷たい方がいいんやけど、氷魔法で冷やしたりってできるん?」
「そんな魔法は聞いたことがないな」
「そもそも氷魔法がないっす」
「んじゃ、氷で攻撃ってないん?」
「ないっすね」
「ふーん。水魔法使える人なら応用で氷無理なんかな?」
「考えてもいいかもしれないな。リンデン、明日時間を空けろ」
シャンツァイの言葉にリンデンは小さく頷いているが、視線はスポーツドリンクに注がれている。
気づいたアユカが、コップに入れてリンデンに渡した。
「大丈夫やけど、毒見はリンデンにしてもらおかな」
「任されよう」
笑っているアユカからコップを受け取ったリンデンは、一気に飲み干した。
鼻から息を存分に吐き出し、コップを見つめている。
「うまい。体に行き渡るようだ」
「よかった」
瞳を輝かせたエルダーが我先にと手に取り、グレコマや料理人たちも続いて試している。
「あ、シャンはまだ飲まんといて」
「……どうしてだ?」
「本当は、砂糖の代わりに蜂蜜がいいねん。やから、シャンの分は蜂蜜で作るわ」
「贔屓っす!」
「贔屓ちゃうよ。シャンは午後から全員相手の訓練をするんやで。美味しいのを飲んでほしいやん」
「それ、上半身裸のお礼だろ」
「そうとも言う」
「「言うのかよ(っす)」」
アユカとグレコマたちのやりとりに、料理人たちが笑っている。
そこにクレソンが戻ってきて、楽しげな雰囲気の理由を聞かれたのでスポドリのことを話した。
「毒見は、私がいたしますね」
「しなくていい」
「いいえ、私がいたします」
一歩も譲らなかったクレソンと説得が面倒になったっぽいシャンツァイに、蜂蜜バージョンを渡した。
1口飲んだ2人は、次に砂糖バージョンも口に含み、飲み比べをしている。
「こちらの方がいいですが、蜂蜜なんですよね」
「モナルダに飲んでもらって意見を仰ぐか」
「それがよろしいかと思います」
蜂蜜バージョンが少し余ったので、エルダーが飲んでしまう前にリンデンに飲んでもらっていた。
リンデンはシャンツァイとクレソンの話に嬉しそうに頷いていたので、蜂蜜バージョンが飲めるようになったら喜ばしいんだろうと分かった。
うちの持ってる蜂蜜はあげられへんしなぁ。
あげたとしても、継続的に飲めるわけちゃうからな。
モナルダが頑張ってくれることを祈っとこう。
騎士たちにも作り方を知ってもらうために、いまだに気絶していたアリクイ青年を起こし、数名の新人騎士を集めて料理人に指導してもらった。
新人騎士たちによって作られた飲み物は、訓練場3ヶ所にある貯水タンクのように大きいウォーターサーバーまで運ばれていく。
そこから各自、コップや水筒に入れて飲むそうだ。
ただウォーターサーバーは、今までの煎じ茶の緑色がこびり付いていて、不気味な雰囲気を漂わせていた。
何を入れても、絶対に緑色になって出てきそうだったのだ。
「そこには入れたらあかん!」と思ったアユカが、3ヶ所全て生活魔法で綺麗にした。
初めてアユカの魔法を見た騎士たちから拍手喝采をもらい、アユカは歯をみせながら笑ってダブルピースを突き出した。
みんな戸惑いながらピースを返してくれていた。