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お昼の休憩時間になり、リンデンも一緒にアユカたちは、訓練場にある食堂で昼食を取ることにした。
ただその際にクレソンだけは、「リンデン隊長がいる間に所用を済ませてきます」と席を外した。
アユカとリンデンは行っていた訓練内容で盛り上がり、食べ終わった後のコーヒータイムで煎じ茶の話になった。
「じゃあ、リンデンも本当に筋肉がつくかどうかは分からんのやね」
「ああ、俺が新人の時から変わらない飲み物だ」
「ちなみにリンデンの筋肉は成長したん?」
「無論だ」
ふーん。やったら、効力あるんかな?
でも、クソまずいしか表示されへんかったからなぁ。
「その材料って見ていい?」
「いいぞ」
ちょうど昼からの分を作っている頃だろうということで、食堂の隣にある大部屋に向かった。
そこに備蓄の薬草があり、その大部屋で調合をしているそうだ。
リンデンがノックもせずに開けたドアから、強烈な草の匂いが襲ってくる。
「リンデン隊長!? お、お疲れ様です!」
アリクイに似ている白い髪の大男が、挙動不審になりながら勢いよく頭を下げてきた。
軽く頷いたリンデンを筆頭に、アユカやシャンツァイたちが部屋に入ってきたからだろう。
アリクイ青年は卒倒しそうなほど体が震えていて、怯えている。
アユカは備蓄されている数種類の薬草を確認して「え?」と溢し、角度を変えて眺めては「嘘やろ」と呟いた。
次に、お茶を煎じている大きな釜を除いて「いや、まぁ、そうやんな」と脱力した。
「アユ、どうした?」
「衝撃なこと言うていい?」
「ああ」
「これ、全部ただの草やねんけど」
「…………もう1度言ってくれ」
「だから、薬草ちゃうくって、そこら辺に生えてる草やねん」
言葉を飲み込んでいるのか、頭を高速回転させているのか、沈黙が流れている。
漫画ならば頭の上に「……」が描かれているに違いない。
アリクイ青年だけは怯えたままだったので、アユカの言葉が耳に届いていないようだ。
「「えええええ」」
グレコマとエルダーの大声に、数センチ跳ねたアリクイ青年は尻餅をついた。
尻餅をついてしまって見上げる状態になったアリクイ青年からすれば、難しい顔をしているシャンツァイとリンデンはさぞかし恐怖だったはずだ。
静かに泣き出してしまったが、誰も気づいていない。
「草って、なんすか?」
「草は草やん」
「そういうことを言ってるんじゃないっす!」
「そう言われても草なんやもん。他に言いようがないやん」
「ただの草を、俺たちは飲んでいたってことか?」
「うん」
溶けてなくなるんじゃないかと思うほど項垂れているグレコマとエルダーの背中を、アユカは柔らかく叩いた。
草飲んでたとか知ったら、そうなるわな。
シャンとリンデンは、小声で話し合いはじめたしなぁ。
グレコマたちの復活とシャンツァイたちの話し合いが終わるまで暇だなと思って部屋を見渡した時に、泣いているアリクイ青年に気づいた。
おったっけ?
ああ! 部屋に入った時に見かけた気がする!
って、ずっと部屋におったんやんな?
影薄すぎへん?
「大丈夫?」
アリクイ青年の前でしゃがんで、ハンカチを差し出してみた。
鼻の頭を真っ赤にしながら何度も頷き、恐る恐るハンカチを受け取ってくれる。
「なんで泣いてんの?」
「こわっ……こわく、て……です」
「まぁ、そうやんね。草飲んでたとか怖いよな」
「え? 草?」
「ん? 草のことちゃうの?」
草じゃないってことは……
アユカが、お腹を抱えて笑い出した。
その声にシャンツァイたち全員がアユカを見て、そして泣いているアリクイ青年に気づいたようだった。
「騎士を泣かせるとか、何したっすか?」
「うちちゃうよ。リンデンが怖い顔してたからやで」
「俺のせいか……」
「隊長、大丈夫です! 見た目がほんの少し怖いだけです」
「怖いのか……」
「ちちちちちがっ!」
「え? リンデンちゃうかったら、シャンが怖かったん?」
シャンツァイが見下すように睨むようにアリクイ青年を見ると、相当恐ろしかったのか白目を剥いて気絶してしまった。
「……悪ノリだったんだが」
ポソっと放たれた言葉に、アユカたちは湧き上がるものをこらえることができず、声を上げて笑い出した。
目尻に涙を浮かべるほどの笑い声がシャンツァイの癪に触ったのか、アユカ以外はたんこぶができるほど強く殴られていた。
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