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「キャラウェイ様、座って休憩されませんか?」
視線をキャラウェイから声が聞こえた方に向けた。
といっても、キャラウェイが駆けてきた方向に顔を上げただけだ。
1メートルほど先に、右側が黒髪・左側が黄色の髪を、坊主にしている吊り目の少年が立っていた。
どこかで見たことがあるような、ないような……
アユカは騎士団の人たちのレベルを見るために、訓練場に入ってからずっと『アプザル』をかけたままでいる。
ニゲラ、12歳。レベル15の雷魔法。
栄養失調に疲労困憊で甘いもの好き。記号は丸か。
何のヒントもないなぁ。
まぁ、子供はキャラウェイ様しか会ってへんからな。気のせいやろね。
てか、栄養失調? なんで?
「でも……もう少しだけ……」
キャラウェイにチラッと見られた。
ニゲラからキャラウェイに視線を戻して、微笑んだ。
「訓練の邪魔はできへんから、休憩中は一緒にいよかな。やから、座って話そっか」
「うん! アユカ様、喉渇いてない? 飲み物あるよ」
キャラウェイに手をもたれ、椅子が置いてある場所目がけて引っ張られる。
椅子がある場所、すなわちマツリカがいる場所だ。
そうやんな。
めっちゃ睨んでくるやんな。
そんなに睨んでばっかやと可愛い顔が台無しやで。
「どうしてあなたがここにいるのよ」
「見学に来たねん」
「話しかけてないわよ!」
独り言やったんか。
話しかけて、ごめんよ。
キャラウェイと並んで座ると、ニゲラがキャラウェイにコップを差し出している。
もう1度言うが、アユカは騎士団の人たちのレベルを見るために、訓練場に入ってからずっと『アプザル』をかけたままなのだ。
アユカが見た主要なモノにかかるから、もちろん飲食物も対象になる。
ん? 煎じ茶って、なに?
しかも【クソまずい】って表示されてるけど、それを訓練中の喉渇いてる時に飲むん?
ある意味、地獄ちゃうの?
「キャラウェイ様、なに飲んでんの?」
コップの中身を勢いよく飲み干して、顔を皺くちゃにしているキャラウェイに声をかけた。
「これは疲労を回復させる飲み物なんだよ。筋肉がつきやすくもなるんだって」
涙目で頑張って微笑んでいるキャラウェイからエルダーに顔を動かした。
「エルダーも飲んでるん?」
「飲んでるっすよ」
エルダーの頭の先から足の先までをじっくりと見てから、キャラウェイに視線を戻す。
「それ、きっと効果ないから飲まん方がいいよ」
「え?」
「ひどいっす! 俺を見てから言うなんて悪魔っす!」
「まぁまぁ、落ち着け」
「それに汗かくんやから、スポドリを飲んだ方がいいと思うねん」
首を傾げるキャラウェイに、スポーツドリンクはないんだと分かった。
「アユカ様、スポドリって何だ?」
「汗で失った水分を補う飲み物やよ。簡単に作れるし、飲みやすいから、そっちの方がいいと思うんよね」
「なるほどな。リンデン隊長に相談してみるか」
「でも、アユカの言ってる飲み物だと筋肉つかないっすよね?」
「そもそも、このお茶かって筋肉つかへんのやから、我慢して飲む意味ないやん」
「つくっすよ!」
眉間に皺を寄せて、エルダーを隅々まで確認するように視線を走らせる。
盛大にため息を吐き出すと、相当ショックだったのか、エルダーはしゃがんで影を背負ってしまった。
「ってか、なんで疲労回復とか筋肉つくとかって言われてんの?」
「さぁ? 昔から飲まれているってだけで、詳しくは知らないな」
「ふーん。誰が作ってんの?」
「訓練をはじめる前に新人が作る風習だな」
「んじゃ、後で材料と作り方見せてもらおかな。んで、シャンとリンデンに相談しよかな」
「そ一一
「今、なんて言ったの!?」
突然のマツリカの大声に、誰もが肩を上げた。
そして、ゆるゆるとマツリカに視線が集まる。
「あなた、今シャンツァイ様のことを何て呼んだの?」
「シャンや一一
「無礼にも程があるわ! あなたごときが愛称で呼ぶなんて烏滸がましいのよ!!」
「そう言われても、呼び方はシャンと決めたことで、ちゃんとオッケーもらったで」
アユカを殺してしまいそうなほどの瞳に、グレコマがアユカとマツリカの間に立った。
「マツリカ、いい加減にしろ。アユカ様は聖女で、シャンツァイ様の婚約者だ。愛称で呼ぶことはおかしくない」
「なにが聖女よ! その女のせいで、ウルティーリは今まで以上に下に見られるのよ!」
「マツリカ! アユカ様に失礼なこと言わないで!」
「失礼なことじゃないですよ。キャラウェイ様も目を覚ましてください」
うーん……キャラウェイ様が可愛いからって、やっぱり一緒に休憩せん方がよかったよな。
マツリカに会わんことが、争いの芽を摘むんと一緒よな。
それにしても、下に見られるって何やろか?
マツリカは、本当によく分からんことばっか言うわ。
「キャラウェイ様。うち、そろそろリンデンとこに行くな」
「待って、アユカ様。もう少し一緒に……」
「じゃあ、夜ご飯一緒に食べよ。時間が合えばシャンもおるから」
「僕もいいの?」
「悪いことなんかないやんか。一緒に食べよ」
「うん!」
人懐っこい笑顔を返してくれるキャラウェイの頭を撫でた。
唇を噛んで拳を震わせているマツリカをフラックスが宥めていて、ショックから立ち直っただろうエルダーが横にやってきた。
「マツリカは、どこでも五月蝿いっすね」
「なんですって!」
「そんなだから嫁の貰い手がないっすよ」
「私は、シャンツァイ様と結婚するのよ!」
「5歳児なら可愛い夢ですが、あなたの歳になると妄言になりますよ」
空気を凍らすほどの冷淡な声が聞こえて顔を向けると、冷めた表情をしたシャンツァイとクレソンがこちらに向かって歩いて来ていた。
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