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朝食前にお祈りをし、いつものようにたらふく食べ、筋肉祭りと浮かれ気分で訓練場に着いた。


訓練場は、王宮に下宿している騎士たちの建物の隣にある。

広大な敷地が何重もの煉瓦の壁に囲まれていて、敷地内にはシャワーブースと食堂兼休憩室が完備されている。

煉瓦の壁に囲まれている理由は、打ち損ねた魔法での被害を壁だけで済ませるためだそうだ。


「壮観! めっちゃいる!」


「そうだな。第3騎士隊まであるからな」


どこを見ても筋肉ばっか。

素敵空間やわぁ。


でも、Tシャツ着てるんよねぇ。

もっとピチッてるTシャツならよかってんけどなぁ。

リンデンに脱いでもらって、帳尻合わせよう。


壁の前には数段高い屋根付きの歩道があり、アユカたちはそこを反対側に向かって歩いている。


「リンデンは、どこにおるんやろ?」


「隊長なら奥で新人をしごいてると思うっす」


「ん? キャラウェイ様の先生ちゃうん?」


「殿下はフラックス隊長が教えてると思うぞ」


「そうなんや」


訓練をしている騎士たちに、チラチラ見られながら進んでいく。


アユカは筋肉を品定めするため隈なく見ているので、騎士たちと視線がぶつかっていた。

すぐに逸らされるが、目が合う頻度は多い。

一緒に海に行った騎士たちに気づき、手を振り合ったりしていた。


「そういえば、次の遠征はくじ引きするそうっすよ」


「そうなん?」


「みんな美味しいものは食べたいっすよ」


「持って帰ってくる量はなかったもんな」


ようやくリンデンの怒号が聞こえてきたが、姿はまだ確認できない。


「俺、足が震えてきたっす」


「お前は基礎がなってなかったからな。誰よりも長く鍛えられてたと思うぞ」


リンデンよりも先にキャラウェイの姿が見えてきた。

綺麗な銀色の髪の毛に、光が反射している。


「キャラウ……うん、どうしよっか……」


「どうしたっすか?」


「マツリカがおるから止めたほうがいいかと思ってさ」


悩んだからか、立ち止まるように足が歩みを止めてしまった。


「あいつ、まだ殿下に付き纏ってんのか?」


「付き纏う?」


「元々マツリカは、シャンツァイ様の婚約者候補の1人だったすよ。で、シャンツァイ様が誰1人として見向きもしなかったすから、標的がキャラウェイ様になったっす」


「取り入れられたら有利って考え方だよ」


「それで、メイドになったん?」


「メイドじゃないっすよ」


「え? キャラウェイ様の専属メイドやから、ずっと側におるんやろ?」


「あの一族が下働きしないっすよ。我が物顔で王宮を歩き回ってるだけっす」


「それっていいん? 誰かが注意したらいいんちゃん?」


「注意したら、元宰相のタンジーが血相変えて乗り込んでくるんだよ。面倒だから放ってんの。シャンツァイ様自体、あの一族はいないものとして扱ってるしな」


「でも、乗り込んできても怒ればいいやん」


「あまりにも鬱陶しくて叱責した結果、宰相の地位から落としたんだよ」


「その頃にシャンツァイ様が倒れたから、サフラワーに手を貸したのはタンジーだと思ってるっす」


「証拠が何か見つかればなぁ」


グレコマの渋い顔に、エルダーもため息を吐き出している。


「でも、なんで我が物顔で王宮を歩けんの?」


「マツリカは一応王族の血はひいてんだよ。陛下たちとは、はとこだな。曽祖父が一緒なんだ」


「この世界、名前だけやから身分階級ないと思ってた」


「ないっすよ。王様と王妃様とその子供だけ偉いっす。それ以外はみんな一緒っす」


「つまりは、マツリカの祖父までは王族なんだよ。もっと詳しく言うと、キャラウェイ殿下は王族だが、その子供は王族ではなくなる。サフラワーは、先先代の子供だから王族だ。だから、仮だとしても王様になれたんだ」


「タンジーもマツリカも王族ちゃうのに、王族と思い込んでいるってこと?」


「そういうことだ。血はひいているからな。そう思ってしまうんだろうよ」


「やとしたら、婚約者として挨拶した時にいてた人らは?」


「隊長や副隊長と一緒で、仕事をまとめる人たちだな」


なるほど。

生まれながらのカーストはなくて、仕事でのヒエラルキーはあるってことか。


前世とほぼ一緒ってことやね。

会社の社長とか偉いし、石油王とかも莫大な富を持ってるけど、王族ちゃうもんな。

王族は特別な身分で、お偉いさん方は地位があるってことやね。


「あ! アユカ様!」


声をかけるかどうか決める前に、休憩に入っただろうキャラウェイに気づかれてしまった。

タオルを首にかけたキャラウェイが、嬉々として駆けてくる。


「キャラウェイ様、久しぶり。会えて嬉しいわ」


「僕も嬉しい。訓練場には何をしに来たの?」


「見学とキャラウェイ様に会いにやよ」


キャラウェイの頬にまだ流れている汗を、首にかけているタオルを使って拭いてあげた。


恥ずかしそうに照れるように微笑むキャラウェイに、自然と笑みが溢れる。


それはアユカだけではなく、グレコマとエルダーもそうだったようで温かい雰囲気が流れた。


「殿下、剣技がしっかりしてきましたね」


「グレコマ、本当に!? 嬉しい! 早く兄上みたいになりたいんだ」


「殿下ならきっとなれますよ」


「へへ、ありがとう」


最近、野生味溢れる高身長の狼を見てたから、小型犬が更に可愛く見えるわ。

笑顔のキャラウェイ様は癒しやわぁ。




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