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ガギやザエを焼いている間に、ウーニン以外は必ず十分に火を通して食べるように伝えると、みんな真剣な顔で何回も頷いてくれた。
真剣すぎて、ちょっと怖いくらいだった。
ガーリックバターとウーニンを混ぜて塗ったパンが先に焼きあがったので、みんなに取りに来てもらう。
そして、第2弾を焼き始める。
大量の焼き場があるが、住民全員に行き渡らせるには1回だけでは足りないのだ。
パンにしたのは、みんなの気持ち的に原型がなく、生よりも焼いた方が食べやすいだろうと思ったからだ。
「いただきます!」
アユカが大きな口を開けて1口食べると、シャンツァイたちも口に運んだ。
「美味しい! 海の幸やわー」
「酒に合いそうだな」
「さすが、シャン。ウーニンもやけど、ガギとザエもお酒に合うはずやよ。うちは飲まれへんから本当のところは分からんけどね」
「大丈夫だ。すでに証明している奴らがいる」
シャンツァイが見た方向に視線を動かせると、グレコマたちがお酒片手に「うまい」と食べていた。
挙動不審になっていたクマおじいちゃんたちが、意を決したように口に含んでいる。
「……なんという、おいしさ」
「うそでしょ……」
「す、すぐに漁の計画を見直すぞ」
他の住民たちにも食べてもらい、抵抗が少し薄れただろうところで、酢飯でウーニン丼を食べてもらったり、ウーニンを海苔で巻いた天ぷらを食べてもらったりした。
お米は麦より消費量は少ないが、ちゃんと流通しているそうだ。
ウニ独特の磯臭さがないから食べやすい。
ウーニン、優秀やん。
アユカがウーニンに夢中になっている間に、続々とガギとザエが焼きあがっている。
ガギの殻を気をつけてナイフで取ってもらい、火傷しないように1口で食べた。
めちゃくちゃ美味しいーーー!!!
次は、ネギとレモンでと。
ああ、もみじおろしを言うの忘れてた。
目を閉じて食べた後、斜め上を向いて空を見上げた。
美味しくて、惚けてしまう。
そんなアユカを見た人たちは、そんなに美味しいのかと唾を飲み込み、アユカと同じように一息で口に放り込んだ。
ぷるんとした食感に、噛めば噛むほど広がっていく風味に、お酒を口に含みたくなる。
お酒を飲んだ後だろう「あー」という声が、色んな所から聞こえていた。
子供は大人の真似をして、水を飲んだ後に「あー」と言っている。
ガギは生のまま取り出してもらったものを、醤油バターで炒めてもらったり、唐揚げや天ぷらにしてもらったりした。
ザエの壺焼きも美味しくて、あっという間になくなった。
それもそうだ。
いくら大漁だったからといっても、この区域の住民が集まっているのだから、みんなで食べたら無くなるのは早い。
まだ海の幸を食べ足りないアユカは、グレコマたちに「本来の目的だった魔魚が食べたい」と伝えた。
アユカ同様に食べ足りなかっただろうグレコマたちは、獣馬で沖まで行ってくれるとのことで、「待っていろ」と笑顔を残して颯爽と出発した。
獣馬って、海にまで入れたりするんかな?
どうやって捕まえるんだろうと見ていると、獣馬が空を駆けたまま魔法が飛び交い、魔魚も跳ね踊り、まるでサーカスのようだった。
アユカと子供たちは、何回も拍手をしていたくらいだ。
とても見応えがあり、声援を送りたくなるような戦いだった。
大量に獲ってきてもらった魔魚も、全員で分け合って食べた。
子供たちを見る限り、貝よりも魚の方がよかったらしい。
食い付きがよく、もりもり食べていた。
モナルダは、食べられる魔物は掲示板で報告するから、他のものは食べないようにと何度も伝えていた。
実際、アユカの錬成以外では食べられない魔魚があったのだ。
クマおじいちゃんをはじめ、みんな深く頷いていた。
大騒ぎだった宴会は夕方まで続き、腫れ物が落ちたような清々しい表情をした住民たちに盛大に見送られた。
あの街は、今後の安全と発展のために、漁業組合とギルトとで漁の話し合いをするそうだ。
詳細が決まったら、シャンツァイに報告書を上げると言っていた。
また今日のことは、中央ギルドにも報告するらしい。
帰り道でシャンツァイとモナルダが「中央よりも地方の方が、抵抗感がある人間は少ないようですね」と話し合っている声を、アユカは夢現の中で聞いていた。
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