35
「海に入るなんて久しぶりやわー」
ズボンの裾を折って、海に足を入れた。
海の底が丸見えで、綺麗な水にテンションが上がっていく。
「気をつけるっすよ」
「そうだ。濡れたら獣馬に乗る時、シャンツァイ様まで濡らすことになるんだぞ」
「魔法で乾かすから問題ない」
「できるのか?」
「できるよ」
「泳げるっす!」
「こら、待て。先に魔物の生け捕りだ」
グレコマが、エルダーの襟首を引っ張って止めている。
変な音を出したエルダーに対してだろう笑い声が聞こえて、振り返ったら第1騎士隊の面々が笑っていた。
「ん? お前ら、どうした?」
「魔物退治ですよね。お手伝いします」
瞳が輝いているし、口元はニヤけている。
食べられるなら食べたいという気持ちを隠そうとしていない。
「そういえば、食べたくて同行を提案してきただろうアキレアは?」と探してみると、護衛のためにアキレアだけはシャンツァイの側にいるようだ。
「大量に獲らないと喧嘩になるかもっすね」
「どんなけいるか分からんし、とりあえず探してみよ」
横1列に並んで、少しずつ進んでいくことにした。
「おらんね」とお喋りしながら、綺麗な魚たちを観賞しては歩いていく。
海に腰まで浸かった時に、海の中から拳ほどの大きさの何かが飛んできた。
目で追える速度だったので軽く避けようとしたが、グレコマがそれを横から掴んでくれていた。
「大丈夫か?」
「問題ないよ。ありがとう」
安心したように微笑まれ、2人してグレコマが掴んだ物を見る。
アユカは、すかさず『アプザル』した。
「なんだ、これ?」
「これがガギやわ。ガギの生け捕りは簡単みたい。海に浸かってなかったら何もできへんっぽい」
「ってことは、今みたいに空中でキャッチすればいいんだな」
「そうやね。ザエも一緒ちゃうかな。ウーニンも海から出せればいい気がする」
「網が必要だな」
1度浜辺に戻り、漁用の網とタモ網を借りることにした。
グレコマたちは海に戻り、アユカはさっき捕まえたガギを手にシャンツァイの元に行く。
「なぁなぁ、今食べてもいい?」
「王都のギルドには説明済みだからな。いいぞ」
「折角の機会ですし、この街のギルドの人間にも食べてもらいましょう。何かあれば、聖女様が治してくださると言えば嫌でも食べるでしょう」
毒ないし、牡蠣みたいやから大丈夫やで。
でも、牡蠣はあたることあるらしいからなぁ。
生で食べられることは言わんとこ。
「これしかないのに……」
「すぐに大量に持って戻ってきますよ。楽しげな声が、ここまで聞こえているんですから」
「全く。あいつらは遊びだと思っているようだ」
怒っているような口調だが、アキレアは優しい顔をしていた。
騎士たちも、美味しいものを食べたいのは本当だろう。
でも、瘴気が浄化できたことの喜びを騒いで分かち合いたいのだろうというのは、アユカから見ても感じ取れていた。
となると、アキレアが分かっていないわけがない。
シャンツァイもモナルダもだ。
だからこそ、仕事を名分に遊んでいることを、誰も怒らないのだ。
みんなの楽しそうな顔や優しい顔に、アユカは「いい日やねぇ」と笑みを浮かべていた。
30分ほど浜辺で足をつけて涼んでいると、グレコマたちが戻ってきた。
担いでいる網の中は、モナルダが言ったように大漁だ。
「やった! やっと食べられる!」
「今から食べられるっすか?」
「うん、ギルドの人たちにも食べてもらうんやって」
今後のためにアユカが錬成するわけにはいかないので、グレコマたちが海に出ている間に網焼き場を準備してもらっていた。
火をつけてもらい、住民たちが固唾を飲んで見守る中、ギルドの人たちと食堂を経営している人たちとクマおじいちゃんを中心に調理法を見てもらう。
実はグレコマたちを持っている30分の間に、アユカのステータスはアップしていた。
食べていいという許可をもらった後に、モナルダに調理方法を教えてほしいと言われたのだ。
当然、「うち、焼き方知らんけどなぁ。殻付きやったとしても、焼かれたものしか見たことないねんなぁ。どうしたもんか……」になった。
そして、悩みながらもう1度『アプザル』したら、画面の右下に横向きの三角形があることに気づいた。
次のページとか?
さっきまで無かったよな?
「次のページ」と念じると画面が切り替わり、ハムスターが表示された。
「祈祷室のお礼だよ」という文字が吹き出しで現れ、また画面が切り替わり、今度は調理法が映し出されたのだ。
ハムちゃん、最高すぎる!
ひまわり飾るからね! ありがとう!
こうして、アユカは調理法を教えることができるようになったのだった。