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ウルティーリ国に来て、1週間が経ったくらいの夕食時。


「明日は、俺も海に行く」


「そうなん?」


「ああ。海に行くのなら、瘴気で使えなくなってしまった海を蘇らせてもらおうという話になった。浄化されるとこを1度見ておこうと思ってな」


「ふーん、分かった」


「住民たちも見に来るだろう」


「ってことは、白い服がいいん?」


「好きな服を着ればいい」


「よかった」


と安心していたのに、朝起きたらチコリに前回とは違う白いワンピースを勧められた。


白を着る着ないの攻防戦があり、どうにか白いTシャツとチノパンという折衷案で落ち着かせることができた。


自分の方が妥協点は多かったのに、ワンピースじゃなくなっただけで戦に勝ったような気分になったアユカである。


朝食後にシャンツァイと一緒に集合場所に移動すると、モナルダも同行するそうで第1騎士隊の数名と共に待っていた。


第1騎士隊は、リンデンが率いる戦闘力が高い隊になるそうだ。

グレコマとエルダーは、元々第1騎士隊だったらしい。


「リンデンは来ーへんのかなぁ」と見回していたら、今回の海の遠征は副隊長のアキレアが指揮をとると説明された。

シャンツァイが王宮を離れる時は、リンデンは王宮から離れないそうだ。

また、その逆も然りとのこと。


初めて会う隊員たちと挨拶を交わし、来た時から気になっていたことを口に出した。


「なぁ、うちが乗る馬車がないんやけど」


「馬車がいいのか?」


「え? 馬車やないと移動できへんのやろ?」


シャンツァイがグレコマたちを見ると、グレコマたちは目を逸らしている。


「俺がいる時は、獣馬で移動できるぞ」


「そうなん? じゃ、うちも獣馬に乗れるん?」


「俺の前にな」


「やったー! 嬉しい!」


万歳をして喜ぶと、頭をなでられた。

シャンツァイの手が優しくて、大人びた微笑みが子供っぽい自分と対照的すぎて、恥ずかしくて斜め下を見てしまう。


鼻で笑われたような気もして、ますます顔を上げられずにいると、急に腰に腕が回ってきた。

そして、空中をぶらついている自分の足が見える。


「へ?」


シャンツァイの脇に抱えられていると気づいた時には、獣馬に座らせられていた。

背中にしっかりとした背もたれ、いや、シャンツァイの胸筋を感じる。


「出発するぞ」


アユカとシャンツァイが乗る獣馬を囲うように組まれた隊列のまま、獣馬は空に向かって駆け出した。


まままま待ってやー!

誰や、獣馬に乗れるって間抜けに喜んだんは。

うちやー。アホやー。


漫画でもよくある展開やろー!

なんで忘れてた! なんで気づかんかった!


って、そんなこと、どうでもいいねん!

落ちへんようにって腕を回されてんねん。

これは後ろから抱きしめられてるんと一緒やー。


付き合って1週間で、これは早すぎる。

えっちっちすぎる。


「怖いか?」


みみみ、耳元で話したらあかん……

どんなけいい声してると思ってんねん……


声に腰が砕けそうになって、緊張という力が体から抜けた。

身を委ねるように背中がシャンツァイに密着し、筋肉の硬さと体温に頭が沸騰する。


「……クッ」


「笑わんでいいやん」


「耳が真っ赤だぞ」


揶揄うような話し方に口を尖らせると、「可愛い」と耳元で囁かれた。


あかん! あかーん!


アユカは両手で顔を隠しているが、目を固く閉じているし、口もきつく結んでいる。

つまり、とてつもなく悶絶しているということだ。


それなのに、シャンツァイがアユカの肩に頭を乗せ、震えるように笑うから、アユカの耳と頬にシャンツァイの髪が触れているのだ。

緊張してしまう部分が多すぎるアユカは「アオハルって恥ずかしい」と叫びたくなったが、何とか耐えた。


周りが「見ている方が恥ずかしいわ!」と、むず痒くなっているなんて気づけるわけがなかった。


気づいていたら、逃げ出したくなっていただろう。

全ての恥ずかしさを受け止めるほどの免疫は、アユカにないのだから。


叫びたくなるような悶絶を1時間もしていれば、疲労もあり、抱きしめられている状況に慣れてきた。


「風圧で乗られへんって聞いてたんやけど、風吹いてないのはなんでなん?」


「魔法だ」


「魔法?」


「獣馬ごと囲うように球体の壁を作っている。だから風を感じないし、どこからか魔法や矢が飛んできても怪我しない」


「そうなん!? すごいやん。シャン、すごいやん」


興奮して顔を見ようとしてしまった。


シャンツァイにもたれているんだから、振り返ったらいつもより近い位置に顔があるのは当たり前だ。


至近距離で目が合い、みるみると赤くなったアユカは、勢いよく前に向き直した。


シャンツァイ独特の笑い声が、耳に届いてくる。

くすぐったくて恥ずかしくて、どこか嬉しい。


周りは「いつまで続けるんだよ」と辟易していた。




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