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もう少し進むと川があるから、そこで休憩しようということになった。


蜂蜜の試食をしようと浮かれ気分で川まで歩くと、獣馬並みの大きさの猪が川の水を飲んでいた。

大きなツノは左右に2本ずつあり、鶏冠のように毛が立ち上がっている。


グレコマに待つように腕を伸ばされたので、大人しく木の影に隠れた。

側にエルダーが控えてくれ、グレコマとアキレアが頷き合い、飛び出していった。


「一瞬やん」


「副隊長2人がかりっすからね」


「隠れる必要あった?」


「一応っすよ」


アユカが3歩歩くくらいの時間で、猪の首が地面に落ち、巨体が横たわったのだ。


グレコマが辺りを見渡し、安全の確認が終わったようで、手招きしてくれた。

「ぼったーん」とスキップしながら近づく。


「これもお昼に食べよう」


「エリュリームも美味しいんすか?」


「うん、めちゃくちゃ美味しい」


「……聞き間違いじゃないのか?」


アキレアは、耳を叩いて調子を確かめている。

「慣れるんだよ」と言うグレコマの声を聞き流しながら、エリュリームを錬成した。


エリュリームは、モンペキングと同じように役立つモノと赤い球に分かれた。


ん? 使えるものの中に骨がある。

何に使えるんやろ?


『アプザル』すると肥料と表示された。

農作物の実りがよくなると書かれている。


貝殻やっけ? 混ぜるといいみたいに漫画に出てくるのって。

それみたいなもんってこと?

まぁ、使うかもやし、粉にしとこかな。


作ってあった木箱を巾着から取り出し、骨と錬成した。

小麦粉のような粉になった骨が、箱に収まっている。


同じように取り出した大きな箱には赤い球を入れ、他の素材も空間収納に片付けていく。


そして、エリュリームのブロック状の肉を、5ミリほどの厚さの塩胡椒焼きに錬成し、机に並べた。


この作業中、アキレアは瞬きさえしていなかった。

起こった出来事に対して、脳の処理が追いついていないのだろう。

漂ってきた香ばしい肉の匂いが、より思考を鈍らせていそうだ。


「いい匂いっす!」


「早く食べよ! ほら、アキレアも。遠慮してたら無くなるよ」


「……あ、はい」


サンドイッチより先に牡丹肉ー!

本当は鍋で食べたいけど、今は無理やからシンプルな塩胡椒で。


1枚口の中に入れると、濃厚な肉の味が口内を支配した。


これやよ、これ。

しっかりとした噛みごたえに、溢れ出す旨み。

脂も他の肉とは違って甘いんよね。

ああ、美味しい!


「なんだ、この肉……」


「牛や豚とは違うっすね」


「猪って食べへんの?」


「俺は小さい頃に1度見かけたことがあるくらいで、食べたことないな」


「俺は見たこともないっすね」


話しているのに、物凄いスピードで肉もサンドイッチも消えていく。

まだ食べていないアキレアに気づき、アユカは肉を数枚とサンドイッチをお皿に取って渡した。


「毒はないから、安心して食べて」


受け取ったアキレアはお肉を見つめた後、ゆっくりと食べた。

1度噛み締めるように動いた口が、高速で動き出し、渡したお皿のお肉はあっという間になくなった。


「うまい……」


「どうして今まで食べてこなかったんだろうって悔しいよな」


「本当っすよね。魔物ってだけで避けてきたんすから」


「これからは魔物を倒すことに、一層力を入れよう」


お肉争奪戦にアキレアも加わり、もう1塊錬成することになった。

それでもあっという間になくなるのは、それだけエリュリームが美味しいということだろう。


食べ終わると満腹感から動きたくなくなり、お腹を休めるためと暑さを和らげるために足を川につけた。

さほど危険な森ではないので、ゆったりしていてもいいそうだ。


小魚が泳いでいるのに目がいき、川に魔物の魚がいるのかどうか聞いたみた。

魔物の魚もきっと美味しいんだろう、という気持ちが湧き起こってくる。


魔魚は湖や海にいるとアキレアが教えてくれ、来週辺りに第1騎士隊と一緒に海まで行こうという話になった。

アキレアは第1騎士隊の副隊長だそうで、隊を動かすなら自分が所属している隊をいうことらしい。


アキレアから自分と同じように食べてみたいという気持ちが透けて見え、アユカは笑顔で頷いたのだった。


休憩後は、夕方までシミアの森を探索した。

出会う魔物はグレコマたちが瞬殺してくれるので、アユカ1人だけは遠足に来ている気分で素材採取を楽しんだ。


夕方まで待っていてくれていた獣馬たちに赤い球をあげ、王宮に戻るとエリュリームや他の魔物肉を厨房に持っていった。

でも、蜂蜜だけは薬にも使えるので渡していない。


エリュリームはモンペキングと同じように試食してもらい、料理人たちを夢見心地にさせた。

今日の夜はモンペキングだそうだが、明日の夜はエリュリームを出してくれるそうだ。


そして、魔物肉とは伝えずに賄いに出す予定だと教えてくれた。

食べてしまえば魔物肉と知ったところで、美味しさに抵抗感なんてバカらしくなるだろうからとのことだった。


「この国って、豪放な人多いんかな?」と思ったことは内緒だ。


厨房を去る前に、アユカはアキレアに頼まれていたことを料理長に相談した。

『騎士団の食堂でも出るようにしてほしい』と言われたから、そこの料理人たちに魔物肉の美味しさを教えてほしいと。


料理長は2つ返事で了承してくれ、明日早速材料を分けに行ってくれるそうだ。


夕食時にシャンツァイの喉を唸らせ、使用人や騎士たちに絶賛された魔物肉は、王宮ですぐに受け入れられた。

「家族にも食べさせてあげたい」と口々に話していたらしい。


シャンツァイは1ヶ月様子をみてから、冒険者ギルドと話し合って魔物肉を市中に浸透させていくそうだ。

ただ魔物肉反対派も少なからずいて、その人たちが邪魔をしてくるかもしれないとのことだった。




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