31
アユカたちは、ロッククリスタル宮殿に戻り、厨房に寄った。
シャンツァイにモンペキングを食べてもらうために、料理長に蛇肉を渡さないといけないからだ。
「陛下よりうかがっておりますが、まことに毒はないんでしょうか?」
「大丈夫やって。グレコマたちも食べたけど、何の問題もなかったんやから」
アユカは料理人たちの目の前で1切れ錬成してみせ、料理人たちの度肝を抜いた。
そして、恐る恐る食べた料理人たちから称賛の嵐だった。
焼く以外の料理法を探りたいと言われたので、持っていた蛇肉を全部あげ、ついでに調味料の代わりになる実も半分渡しておいた。
「全部あげてよかったんすか?」
「うん、今日は魔物退治に出かけようと思うから」
「え?」
「まだ何か予定入ってた?」
「そうじゃなくて、昨日今日で魔物退治に行こうとする神経に驚いたんだよ」
「ダンジョン行きたいって言うよりマシちゃう?」
「ダンジョンは無理っすよ」
「なんで?」
「冒険者に登録してないと入っちゃダメっすからね」
そうなんか。
登録から始めなあかんのか。
無意識に頷いているアユカを見てから、エルダーとグレコマは「まさかっすか?」「ありえるぞ」と視線だけで会話をしていた。
白いワンピースでは動きにくいので、着替えてから王宮に1番近い森に出かけることにした。
昼食には、サンドイッチを用意してもらっている。
「グレコマとエルダーか」
小さな馬車で出発しようとした時、小顔で顔の右側だけが前髪で隠れている細長い男性が声をかけてきた。
髪の毛の色は黒く、目つきの悪さから、黒豹が連想された。
「アキレア副隊長、お疲れ様っす!」
「どこかに出かけるのか?」
「アユカ様とシミアの森にな」
アキレアに見られたので、会釈だけしといた。
同じように黙礼を返される。
「アキレアは休憩か?」
「いや、訓練しに来ただけだ」
「非番なら休めよな」
「別にいいだろ。それより、俺も行っていいか?」
「かまわないぞ。アユカ様に慣れてもらった方がいいしな」
「そうっすね。アユカは変人っすからね」
慣れるって、そっち?
うちがアキレアに慣れるんやなくて、アキレアがうちにってこと?
えー、うち、慣れてもらわなあかんほどの変人なんやろか?
ハムちゃんの恩恵受けてる特別な人間のはずなんやけどなぁ。
納得いかない顔をしていると、グレコマとエルダーに肩をすくめられた。
「リンデン隊長から聞いて興味があったんだ」と言うアキレアは、どこか嬉しそうに見えた。
アキレアも含めて4人でシミアの森に向かうが、アユカだけはもちろん馬車の中だ。
しかし、フォーンシヴィ帝国から戻って来た時と違い、空を駆ける移動にアユカはずっとはしゃいでいた。
15分かからずに着いたシミアの森は、ハイキングにもってこいと思えるほど平和そうな雰囲気が漂っている。
「ホンマに魔物がおるん?」
「いるっすよ。スライムが多いっすけど、ツノがあるウサギのようなジャッカラビーや、毒針があって大きな蜂のビービビーや、足が細長くて嘴が鋭い鳥のアックスルシュがいるっすね」
「ビービビー!? 蜂ってことは、蜂蜜食べたい!」
「そこは一緒なんだな。ビービビーを食べたいって言われたら、どうしようかと思ったぞ」
「さすがにビービビーは食べるところないと思うよ」
「そうっすね」
アユカたちは一歩踏み出したが、アキレアが呆然と立ち止まったままだ。
「どうしたっすか?」
「何の話をしている?」
「蜂蜜食べたいって話やけど」
「そ、うだな。聞き間違いだったようだ」
安心したように1人納得しているアキレアに、アユカたちは首を傾げながらも森の中に入っていった。
入って数分後にスライムに出会い、薬瓶に錬成していくアユカに、アキレアだけではなくグレコマとエルダーも驚いている。
「あの瓶って、スライムだったんすね」
「考えてみれば、アユカ様が瓶持っているっておかしいもんな」
「これは……当たり前なのか……」
薬瓶を全員で集め、薬草などを採取しながら奥に進んでいく。
ビービビーに出会い、巣を見つけ出し、巣蜜を手に入れた。
巣蜜を『アプザル』すると使い道が多かったので、取り残しがないようにしている。
街で売られている蜂蜜は、高級品だそうだ。
ビービビーの針は痺れ薬や毒消しの材料になり、羽は美容パックの材料になるので採取しておく。
それ以外は赤い球にならなかったので、エルダーの火魔法で焼いてもらった。
ブックマーク登録、いいね、ありがとうございます。
読んでくださっている皆様、本当にありがとうございます。




