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「しかし、アユカ様は聖女としての活動で大変でしょう。支えてもらうために、第2夫人や第3夫人の婚約者も必要ではないでしょうか?」


肩までの茶色い髪が緩々とウェーブしているリスっぽい42歳の男性が、にこやかに言ってきた。

名はタンジー。記号がバツの人だ。


「支えるとは、何に対しての支えでしょうか?」


「この国の知識や作法、そして、ゆくゆくは王妃としての仕事ですね。数年後に婚姻だとしても、今から勉強しては到底間に合いません。王妃になるために育てた私の娘なら役に立つことでしょう。名はマツリカと申します。いかがでしょうか?」


マツリカ!?

ということは、あの人が元宰相なんか。

何があって降格したんやろ。

どうでもいいけど。


「それでしたら、社交に関しては我が娘アンゼリカはいかがでしょうか? 物知りでして、陛下や聖女様の話し相手にもピッタリだと思います」


新しく声を上げたのは、こじんまりとした46歳の男性だ。

ライトブルーの髪を丸刈りにしている。名はセージ。

ウサギっぽくて誰よりも赤い瞳が似合うなと、密かに思っていた。

記号が三角の人になる。


「そのようなことでしたら、支えは必要ありません」


残念そうにするセージと違い、タンジーは愛想がいいままだ。


「できないことを認めることは、恥ずかしいことではありませんよ。婚姻までに会得してみせると、意固地になる必要もございません。聖女様はお忙しいでしょうから、聖女以外の仕事は他の者に任せるべきなんです」


タンジーは、どこからどう見ても気遣うような表情や声になった。

でも、タンジーはバツなのだ。

蔑みが含まれているはずだ。


そして、アユカには、嘘の優しさも仮に怒号だったとしても通じない。


「はい。聖女以外の仕事は、シャンツァイ様に任せようと思っています」


「な、なにを仰っておられますか。陛下は、ご自身の仕事が詰まっておられるんですよ」


アユカは、惚けるように首を傾げた。


「あなたは、シャンツァイ様は仕事ができない無能だと言いたいんですか?」


「まままさか!」


「ですよね。私の知っているシャンツァイ様も、とても仕事ができる方なんです」


知らんけど。

うちが知ってるんは、肉体美と遊び人だろうってことやけど。


「それに、モナルダも協力してくれるそうですし。この国の王と宰相ですよ。お任せするには、これ以上ない組み合わせです。そう思いませんか?」


何を言い返しても、シャンツァイが仕事できないと言ってしまうようなものだ。

押し黙ったタンジーに、アユカは笑みを深める。


「それに、私以外の婚約者を迎えるかどうかは、シャンツァイ様が決めることです。私では物足りないというなら致し方ありません。私は身を引かせていただきます」


騒ついたが、シャンツァイは静かなままだ。

ここなら突けると思ったのか、タンジーがまた陳述をしてくる。


「聖女様はご存知ないかと思いますが、この世界は妻を何人も持つことが男の誉れとなっております。陛下でしたら、5人は妻に迎えてもおかしくはないのです」


「そうですか。私は、パートナーを誰かとシェアするなんて考えられません。全部、私のものじゃないと嫌なんです。私1人を選ぶか? 私以外の5人を選ぶか? は、シャンツァイ様が決めることだと思います」


「しか一一


「もういいだろう。そんな話をするために集まったのか?」


シャンツァイが、つまらなさそうに周りを見渡した。

記号が三角やバツの人たちは、気まずそうに目を逸らしている。


「まぁ、いい。妻の話が出たから伝えとくが、俺はアユカ以外を迎えるつもりはない。分かったか?」


「仰せのままに」


モナルダの言葉に、丸以上の人たちが頷いている。


ふーん。派閥がハッキリしてるんやね。

昨日まであった賛成派と反対派の延長なんやろうな。


「挨拶はしたので下がってよろしいですか?」


「い、いいえ、聖女様に相談がありまして。婚約パーティーをされてはどうでしょうか、という話が出ております。聖女様のご意向を聞かせてほしいのです。繋がりを増やすことは、聖女様にとって今後のためになるかと思います」


焦ったように意見するセージに、娘を紹介する場が欲しいんだろうなと察した。


どの記号だからとか関係なく、他の人たちも縁を繋げる場がほしいのは同意見のようで、固唾を飲むように真剣な表情で見つめてくる。


「しないです」


キッパリはっきり伝えると、肩の落としようが目に見えて分かった。


「な、なぜでしょうか?」


「今は、パーティーよりも先にするべきことがあるからです。パーティーは、色んな問題が解決してからでいいんじゃないでしょうか」


「しかし、聖女様がいらっしゃることや、陛下に婚約者ができたことを知れば、民たちは喜ぶと思うんです」


食い下がるセージに数名必死に頷いている。


「うーん……新聞ってあるんですか? 国に何かあった時に、国民に知らせる方法なんですけど」


「それでしたら、どこの街や村にも掲示板を設置しています。そこに魔法で浮かび上がらせ、隅々にまで行き渡るようにしています」


おお!

江戸時代の高札っぽいのに、仕様はネットニュース!


顔が輝いたのか、教えてくれたモナルダを小さく笑わせてしまった。


「掲示板発信でいいんじゃないでしょうか。聖女がいて、陛下が再びシャンツァイ様になったと分かればいいんですから。ということで、私はそろそろお暇しますね」


「ああ、もういいぞ」


「へ、陛下。まだ聖女様の話を……」


「俺が事前に聞いている。問題ない」


顔色を一切変えないシャンツァイを横目で見てから、立ち上がった。

一礼し、グレコマとエルダーを連れて下がる。


部屋から出る時に、腰辺りでリンデンに手を振ると、柔らかい笑顔を返してくれた。


「みんな、驚いてたっすねぇ」


「リンデン隊長が笑うのは、シャンツァイ様が笑うより珍しいからな」


「そうなん? あんなに優しいのに」


「優しい……鬼教官の間違いっす」


遠い目をしているエルダーの肩を、グレコマが慰めるように叩いている。


「それにしても、アユカ様、見直したぞ」


「やろ。うち、出来る子やねん」


「周りに飲み込まれず意見して、勝ったっす」


怖そうで偉そうな人たちに囲まれたところで、萎縮せーへんよ。

前世は、会合とかにも参加させられてたんやから。


「第5夫人とか、いつの話なんすかって感じだったっす」


「そうなん? 当たり前なんかと思ってた」


「そんなこと言ってるのは、昔の考えが深く根付いてる奴らだけだよ」


「自分たちを正当化したいっすからね」


「肩身が狭くなってるからな」


一昔前までは横の繋がりや財力を示すために、第2夫人まで持つ人は多かったそうだ。

だが今は、多情や第2夫人以降を持つことを許してくれない女性が増えていて、1人だけというのが主流になりつつあるらしい。


チコリやグレコマの奥さんもその考えらしく、そんな日が来た時には男としての機能を潰されると、怒った愛しい人を想像したっぽい2人は震えていた。




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