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「アユカ様、おはようございます」
「……んー……ぉはよ」
声をかけられると共に、カーテンを開けられた。
今日も太陽が元気に世界を照らしている。
「チコリ……早くない?」
欠伸をしながら起き上がり、張り切っているチコリを見る。
「朝食の時間から逆算して来ましたので、そこまで早くありませんよ」
「うち、5分で用意できるから。おやすみ」
「私に手伝わせてください」
「んー……やったら、今日の服選んで」
「お任せください」
昨日、シャンツァイに宮殿内を案内してもらった後、チコリとグレコマとエルダーが就任の挨拶にやって来た。
チコリはアユカのメイドになれたことを、エルダーはチコリと一緒なことを、グレコマは嫌々所属していた隊から抜けることができたことを、それぞれ喜んでいた。
メイドは、チコリ以外にも数人ついてくれている。
チコリを筆頭に優秀なメイドたちは、アユカが大浴場に入っている間に生活必需品を調えてくれていた。
入浴の手伝いはアユカが頑なに断ったので、今後の手伝いも無くなっている。
揃えてくれた必需品の大半は洋服だった。
チコリは、今、大量にある洋服の中から今日のコーディネートを選別しているのだ。
時間がかかるだろうから2度寝しようと思っていたのに、眠りに落ちる前にチコリは戻ってきた。
「うち、ズボンがいい。白いワンピースは汚しそうで嫌や」
「しかし、本日は大臣たちとの面会がございます。ワンピースの方がよろしいかと思います」
「大臣と面会? せーなあかんの?」
面倒くさいなぁ。
自由にしていい許可もらってるから断りたいなぁ。
「はい。シャンツァイ様の婚約者としての面会の場になります」
「え? コンヤクシャ?」
カタコトになるのは仕方がない。
恋人になれることには喜んだが、婚約者だなんて聞いていない。
「聖女やから会うんちゃうの?」
「聖女としては、アユカ様の自由を約束されていると聞いております。もし面会があるようでしたら、事前に確認があります。今回は婚約者としてですので、決定事項だとおうかがいしております」
ん? んん?
昨日の会話を思い出せ!
確かに男と女の話になった時に、自由については話してない。
うん。話してないけど、そこって別物なーん?
自由は自由ちゃうの?
そもそも婚約者って、なに?
この世界では、恋人 イコール 婚約者なん?
「分かりたくないけど、分かった。ワンピース着るわ」
「髪の毛は、サイドだけ緩く編み込みいたします」
「チコリの好きなようにして」
「腕によりをかけますね」
はぁ、朝ご飯の時に確認せーな。
婚約者とか大事すぎるわ。
朝食時に確認すると、クレソンから「王の公の恋人なんですから、当然婚約者になりますよ。それともアユカ様は、シャンツァイ様が未来の約束をせずに、女を誑かす不誠実な男だと仰るんですか?」と目くじらを立てられた。
「めちゃくちゃ女慣れしてるやん。うち、何人目の婚約者よ」と思いながらも、クレソンの怒り具合から「滅相もございません」と返すのが精一杯だった。
朝食後に早速顔合わせをするそうで、ロッククリスタル宮殿からメインのお城、ルベウス城に移動する。
「発言は自由にしていいぞ」
「それはやめましょう、シャンツァイ様。アユカ様を自由にさせたら、何が起こるか分かりませんよ」
クレソンの言葉に、グレコマとエルダーが頷いている。
「うち、ちゃんと弁えて発言できる子やで」
「嘘言うのは良くないっす」
「嘘ちゃうよ」
合議の間と言われている部屋が面会場所らしく、アユカたちが中に入ると、全員立ち上がり頭を下げてきた。
威圧的にこられないために、気弱に見えないように、胸を張ってシャンツァイの側を歩く。
シャンツァイが丸い円卓の空いている席に腰掛け、アユカはその隣の席に腰を下ろした。
シャンツァイとアユカが並んで座った両側は、3席分ほどの空白がある。
頭を上げた人たちを真っ直ぐに正面を見据え、『アプザル』を無詠唱した。
円卓にいるのは青年から老人までの男性ばかりで、リンデンの姿もあった。
3分の2が、丸か2重丸。
3分の1には、歓迎されてないと。
三角って人、初めて見たわ。
興味ないとかかな?
「王よ。ご回復され、誠におめでとうございます。我々も皆、喜んでおります」
「色々迷惑をかけたな。これから、よろしく頼む」
全員が、小さく一礼をしてから座っている。
先ほど発言した、アイボリー色の髪をマンバンヘアにしている、アルパカっぽいが青年が進行役なのだろう。
また声を発している。
「聖女様、お初にお目にかかります。私は宰相の任に就いておりますモナルダと申します。以後、お見知り置きください」
頭を下げられたので、頷きで返した。
ここで頭を下げるという下手に出て、舐められるわけにはいかない。
聖女といえど小娘と、掌握できると思われてはいけない。
「聖女様、名前をお聞かせください」
「アユカと言います。シャンツァイ様の婚約者として、聖女として、この国で生きていきます。温かく見守ってください」
すなわち、ご指導ご鞭撻はいらないと言っている。
面白そうに目を細めたのは、モナルダだった。
「何か分からないことや国をあげてやりたいこと、もしくは試してみたいことがございましたら、何なりとお申し付けください」
「分かりました。その時は、よろしくお願いします」
記号が丸から2重丸になったモナルダに微笑んだ。
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