表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/209

27

振り返ると、息を切らしたマツリカがいた。

シャンツァイの姿を見て溢れだす涙を拭わずに、ゆっくりとシャンツァイたちに近づいている。


その後ろで、感極まっているフラックスがいる。


元宰相の娘って言われてたよな。

家族ぐるみで付き合いがあって、兄妹同然に育ったとか?

やから、キャラウェイもマツリカと仲良か……仲良かったか?

うーん……一緒におったから仲はいいんやろ、たぶん。


マツリカが近づきすぎないところで、シャンツァイが声をかけた。


「何か用か?」


「え?」


「わざわざ走ってきて、何か用かと聞いている。大した用じゃないなら後にしてくれ」


「ど、どうして、そのようなことを仰るのですか?」


分かりやすいため息が、シャンツァイから吐き出される。


「俺と話したいなら、その臭い匂いを消してから謁見申請しろ」


ビクついたマツリカが、手で手を覆うように握りしめて震えはじめた。


何か匂いする?

全然、分からんのやけど。


「わた、わたしは、シャンツァイ様のために……」


「マツリカ様」


ふらついたマツリカをフラックスが支えたが、シャンツァイは既に2人を見ていない。


「移動するぞ。アユカ、お前も来い」


「昼食やね。うち、そろそろシチューとかカレーが食べたいわ」


「……て」


「今からは無理だ。夜に用意してもらえ」


「アユカ様……あの……」


「……して」


「キャラウェイ様、いいんよ。うちがもっと早く言えばよかったことやってんから」


「でも、僕がちゃ一一


「どうしてよ!!!」


「マツリカ様、落ち着いてください!」


「どうして偽物の聖女が、シャンツァイ様たちと一緒にお昼なのよ! そこにいるのは私のはずでしょ! どうして野蛮で迷惑でしかない女が、まだここにいるのよ!」


マツリカの目は鋭く吊り上がり、怒りで顔を紅潮させている。


「行くぞ」


おお! この状況を無視して立ち去れるんや!?

肝っ玉強すぎる!

王様には何があっても動揺せーへん、強靭な精神が必要なんやろな。


「グレコマとエルダー、片付けておけ」


「はい」


「俺もお昼食べたかったっす」という呟きが、微かに聞こえた。


歩き出したシャンツァイに遅れないように、アユカも歩を進める。

二の足を踏んでいるキャラウェイの背中を、クレソンが押してした。


マツリカが謁見の間の時のように火を放ってこないのは、シャンツァイがいるからだろう。

関係性が見えてこないが、特にマツリカに興味もないので微塵も気にならない。誰かに尋ねようとも思わない。

ただ、これ以上絡まれたくないと願うばかりだ。


少し歩くとダイニングがあるらしく、昼食はそこで食べるそうだ。


着いた部屋には両側に20人ずつ座れそうな細長い机があり、アユカは「漫画で見るやつ」と心を弾ませた。


王様席にシャンツァイ、王様席の左右斜め前にキャラウェイとアユカが座ると、何人ものメイドが涙ぐみながらカートを押して入ってきた。


前菜が置かれ、さっきまでの殺伐とした雰囲気が嘘みたいな和やかな昼食がはじまった。


「キャラウェイ、半年間大変だっただろ。よく頑張ったな」


「っありがとぅございます」


キャラウェイの涙は止まらないようだが、手で強引に拭いながらシャンツァイが眠っていた半年間にあった楽しい話をしはじめた。

どれくらいの速さなら獣馬を走らせることができるようになったとか、剣術の稽古で褒められたこととか、身長が伸びたこととかを一生懸命伝えている。


シャンツァイは相槌ばかりだが、キャラウェイは気にしていないし、クレソンが微笑ましく見ているということは、元からこういう会話の仕方だったんだろう。


2人の会話を邪魔してはいけないと、アユカは小さな声でメイドを呼び、ステーキのおかわりが欲しいと耳打ちした。


アユカが耳打ちしたにも関わらず、メイドが「じゅう!?」と声を上げてしまったのは、アユカの「後10枚は欲しいねんけど」という言葉のせいだ。


シャンツァイとキャラウェイは会話を止めて、アユカとメイドを見てきた。


「ステーキのおかわりを頼んだだけやよ」


振り子人形のように頷いたメイドが離れていく。

すると、キャラウェイが声を上げて笑い出した。


「アユカ様、たくさん食べるもんね」


「……10枚頼んだのか?」


「うん、10枚は余裕やから。これからずっと遠慮するんは嫌やから、ちゃんと枚数伝えた方がいいと思って」


「これからずっとって……」


「うち、ウルティーリ国の聖女になったよ。やから、これからもよろしくな」


「うん! よろしくね、アユカ様!」


泣いたせいで目元と鼻は赤いままだが眩い笑顔をくれたキャラウェイに、微笑み返す。

室内犬は癒しなのだ。


「そうだ、兄上。アユカ様、すごいんですよ」


「大食漢なのか?」


「それもあるんですが、魔物は食べられると教えてくださったんです。それに甘い木の実やしょっぱい木の実、辛い木の実も知ってたんです」


「……詳しく話してくれ」


ん? まさかシャンツァイも魔物食べるんはあかん派なんかな?

それやったら困るなぁ。

モンペキング以外も食べてみたいんやけどな。


キャラウェイが、ウルティーリ国までの道中にあったことやアユカの住んでいたところの話を、興奮気味に話しはじめた。


シャンツァイは先程と同じ相槌だけだが、瞳に怪しい光が宿っているように思えた。




ブックマーク登録、いいね、ありがとうございます。

読んでくださっている皆様、本当にありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ