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すれ違う人たちが声にならない声を上げていた白亜の宮殿とは異なり、謁見の間があった建物、敷地内で1番大きなメインの城では、ほとんどの人が慌てふためいて右往左往していた。


そんな中、覇気を纏い堂々と歩いているシャンツァイに気づくと、喜ぶ人以外にも震え上がる人や青ざめて膝をつく人もいた。


一際騒然としている場所が目的地と被っていたようで、シャンツァイが喉の奥で笑ったような気がした。


「あそこは?」


「王の私室、真紅の間になります」


真紅の間は人の出入りが激しく、ドアは開け放たれていた。

シャンツァイに気づいた人たちは廊下の端に身を寄せ、道をあけていく。


「これはこれは、叔父上。大変苦しそうにされていますね」


部屋にいた全員の視線が、声が聞こえてきた場所、シャンツァイに集まる。


「ぁ、にうえ……」


キャラウェイもいたようで、シャンツァイを見て、大きく見開かれた瞳から涙している。


サフラワーは息が荒くベッドに横たわっていて、側にベレバリアと、長い眉が特徴的なおじいさんがいた。

薬草らしきものを手に持っているので、たぶん医者だろう。


「シャンツァイ……お前、なぜ……」


「おかしなことを聞かれますね。回復しただけですよ。聖女のおかげでね」


アユカはリンデンの後ろに立っているから、部屋の中にいる人たちには見えていないのだろう。

何よりシャンツァイの存在が信じられなくて、シャンツァイ以外が視界に入らなかったのかもしれない。


リンデンの横から顔を出すと、両陛下の顔はみるみる怒りに満ちていった。


「貴様! 治癒を使えないと嘘をついたわね! 不敬罪よ! 捕らえなさい!」


「待て!!!」


ベレバリアよりも大きいシャンツァイの声に、誰もが微動だにしなくなった。

先に声を荒らげたベレバリアでさえもだ。


「不敬罪? あなたは、もう王妃でもないのに?」


「な、なにを……」


「王である俺が回復したんだ。仮の王である叔父上は王でなくなり、かさねて妻であるあなたも王妃ではなくなる。これからは2人して囚人だ。取り押さえろ」


リンデンたちが動き、抵抗をものともせずにサフラワーたちを捕らえた。


クレソンがアユカの横から「あいつもです。ああ、あそこの者もです」とリンデンたちに伝え、サフラワー側だっただろう人たちが縄にかけられていく。


「私たちになんてことするのよ。親身になっていた叔父に聖女の力を使うものでしょう」


「親身? 玉座を欲した虫けらに?」


「何を言っているのよ。あなたが倒れ、まだ幼いキャラウェイでは難しいだろうと、力の限り統治していたのよ。それなのに、この仕打ちは間違っているわ」


「はぁ、うるさい女だな」


「なんですって!」


「俺が倒れていた理由は、呪いだ」


事の成り行きを見守っていた周りが騒ついた。

廊下から様子を窺っていた人たちからも、動揺が漂ってくる。


「それを、聖女が呪い返しで癒してくれた。今まさに原因不明で倒れていることが、叔父の犯行だと立証している」


「はっ、その聖女が呪い返しを使ったと、どう証明するのよ。デタラメ言うんじゃないわよ」


ベレバリアに睨まれたので、最も腹が立つだろうなと思う満面の笑みを返した。

アユカ自身に争う気持ちはないが、証明やらデタラメやら言われたので説明くらいはと口を開く。


「うちが呪い返しをした証明はクレソンたちが見てたとしか言われへんけど、あんたらがシャンツァイ様を呪った証明はできるで」


「なにを……」


「まず、おばさんも協力してたんやろ。呪い返しの影響を少し受けてる。今、お腹が痛いはずや」


「……たしかに先ほどお腹が痛いから診てほしいと言われました」


無意識に証言してくれた医者だろうおじいさんを見て、笑顔で頷いた。

心の中で、お礼を言っておく。


「それと、呪いの媒体があそこに飾ってる熊の剥製や」


シャンツァイがリンデンに視線を送ると、リンデンは熊の剥製に近づき、剣で縦にぶった切った。


豪快やなぁ。

サフラワーが本当に呪い返しで倒れたんか知りたくて鑑定したら、熊の剥製が「俺、呪い」って出てビビったわ。


真っ二つに割れた熊の剥製から、真っ黒な石が転がってきた。

その石には、お札とシャンツァイの髪の毛と思われるものと、シャンツァイの血が付いているだろう服の切れ端が、紐で縛り付けられている。


「これで言い逃れできねぇな」


「し、知らないわ。誰かが嵌めようとしているのよ」


「くだらない言い訳は牢屋でするんだな。連れていけ」


いつの間に集まって来ていたのか、体躯が綺麗な男性たちが縛り上げている人たちを連れていく。

リンデンが指揮するようで、シャンツァイに頭を下げてから一緒に行ってしまった。


「……兄上」


「キャラウェイ、泣きすぎだ。男だろ」


「兄上!」


駆けてきたキャラウェイを、シャンツァイは優しく迎えている。


大声で泣きながらシャンツァイにしがみつくキャラウェイを見守っていると、廊下が騒々しくなった。


「シャンツァイ様!」




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