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「さて、うちはそろそろ行こかな」


「どこにだ?」


「とりあえずは、1番近い宿屋かな」


「また意味不明っすね」


「お城で不手際がありましたか?」


「不手際なんてないよ。うち、この国の聖女辞退したからさ。お城に寝泊まりするっておかしいやん」


「ちょ、待つっす!」


「なに?」


「なんで辞退したっすか?」


「んー、両陛下と話して嫌やなぁと思ったのと、毒入り紅茶出されたからかなぁ」


「……どうして分かったんだ?」


「うちの特技やねん」


笑顔でピースしてみたが、何やってんだっていう胡散臭そうな目でシャンツァイに見られた。


「アユカ様は、大切なことを見落とされていますよ」


「そうかなぁ?」


「はい。ウルティーリの王は数分後には変わるということです」


「ほんまや!」


「出て行かれる理由はありませんよね?」


「んー、でも、うち恋したいねん」


目を点にしたクレソンが1度目を閉じ、勢いをつけて目を開けた顔が「は?」と読めた。


「街で、どなたかいらっしゃいましたか?」


「ううん、いてへんよ。恋したいけど、相手がおらんから探しに行きたいねん。街なら出会い多いやろ」


さっきと同じ動作、同じ顔をされた。


グレコマやエルダーには白い目で見られているし、シャンツァイとリンデンはこの話に興味ないのだろう。

栄養ドリンクについて話している。


「街に行かれなくても、この城には恋する相手に最も相応しい方がいるではありませんか」


「え? だれ!?」


「シャンツァイ様です」


「……え?」


「シャンツァイ様です!」


「シャンツァイ様かぁ……」


リンデンと話していたはずのシャンツァイには睨まれ、リンデンたちにも理解できないという顔をされた。


「シャンツァイ様の何が不満なんですか!?」


「何がって、筋肉」


「「は?」」


「やから、筋肉少ないやん。リンデンくらい筋肉が美しい人がいいねん」


みんながリンデンを、リンデンは自分の腕を見た。

頷いたリンデンが、腕に力を入れて筋肉を盛ってくれる。

アユカは、「おお!」と拍手しながら飛び跳ねた。


「ぶら下がってみるか?」


「いいん? やったー」


リンデンまで数歩だが駆けていき、腕にぶら下げてもらった。

高身長のリンデンとの身長差で、足を曲げなくてもぶら下がれる。


「おお! すごい! 筋肉硬い! かっこいー!」


「目にハッキリと分かるだけが筋肉じゃないっす!」


「エルダーが何を言うねん。筋肉無さ男やんか。ほんまチコリはもったいないわ」


手を離して着地し、リンデンにお礼を伝えた。

また力を入れて筋肉を盛ってくれるリンデンに、拍手をする。


「エルダーの言う通りですよ」


「そうっす! 俺にもき一一


「シャンツァイ様は、脱ぐと素晴らしい体をしているんです! 目にハッキリと分かるだけが筋肉ではありません!」


クレソンが、ベッドからシャンツァイを引き摺り下ろした。

シャンツァイの眉間には、くっきりと皺ができている。


「……おい」


「この肉体美を見てください!」


クレソンが、シャンツァイの寝着を左右に引っ張って一気に引き裂いた。

「クレソンの悪い癖が……」と呆れている3人とは裏腹に、アユカは両手で目を覆いながらも指の隙間からシャンツァイを体を直視し、歓喜した。


おおおおおお!

なに、この肉体美! 細マッチョ!

無駄な脂肪も無駄な筋肉も1グラムでさえありませんっていう体。

こんなに完璧な体、見たことない。


「めちゃくちゃカッコいい!」


アユカは手で目を覆うことを忘れ、引き寄せられるようにシャンツァイに近づいた。

絵や壺などの芸術品を観察するように、シャンツァイの体を色んな角度から眺めては、熱い息を溢してしまう。


背筋の素晴らしいことよ。

ずっと見てられるわ。


「これでもまだ、シャンツァイ様相手に恋ができないと仰るんですか?」


「ううん! うち、シャンツァイ様と恋できる! シャンツァイ様がいい!」


「そうでしょう。では、シャンツァイ様の恋人兼この国の聖女になられますね」


「こ、こいびと?」


「えっと……誰かを好きになりたいだけでしたか? 遠くから見ているだけでいいみたいな……」


「ううん、違うよ。手を繋いだり、デートしたり、プレゼント贈りあったりしたいねん」


「では、恋人であっていますね」


「そ、そっか、恋人か……なんか照れるな」


完璧な肉体美を持つ人が恋人かぁと、口元が緩む。

ほんのりと頬を染めるアユカの視線の先にあるのは、シャンツァイの顔ではなく上半身の筋肉だ。


「もう、いいか?」


「はい。話し合いは終わりました」


「服を持ってきてくれ」


「破いてしまって申し訳ございませんでした!」


クレソンは今自分がしでかしたことに気づいたようで、青い顔をして慌てた様子で隣の部屋に駆けていった。


「で、アユカ。お前は俺のものだ」


シャンツァイに左手を持たれ、前触れもなく左手の薬指を噛まれた。


なななななななななにをー!!!


え? シャンツァイは遊び人?

ブイブイいわせてる人なんか?


グレコマたちが愕然しているが、テンパっているアユカには気づけない。


シャンツァイの顔が離れ、見えたアユカの薬指には、この世界に来た日に見た三日月と寝待月のようなアザができていた。


「月?」


「正解だ」


洋服を抱えて戻ってきたクレソンが、アユカの薬指を見て2回頷いた。


シャンツァイはクレソンから服を奪い取り、アユカの目の前で着替えはじめる。


目の前で着替えるんかー!

やめて! 恥ずかしい!

付き合いたてホヤホヤなんよ、うちら!


見ないようにと思っても、まだ見ぬ筋肉があれば注視してしまう。

それが、筋肉大好きアユカである。

本当に顔を背けたのは、下着を着替えている時のみだ。


「……太もももカッコいい」


シャンツァイに鼻で笑われた気がしたが、顔を見た時には無表情に戻っていた。


「行くか」


「あ! ちょっと待って」


「……今度はなんだ?」


「ずっと寝てたから、お風呂入れてないやろ。うちの魔法で綺麗にしちゃる」


「……魔法?」


『クレネス』を知らないシャンツァイたち3人は、アユカを訝しげに見てくる。

知っているエルダーとグレコマは、にんまりと口を大きく横に広げている。


「アユカ、折角だから俺たち全員いいっすか」


「全員、綺麗な姿がいいからよ」


「いいよ」


アユカは、広く手を突き出し『クレネス』と唱えた。


初めて体験するシャンツァイは手のひらと手の甲を交互に確認しているし、クレソンは顔にまた「は?」て書いているし、リンデンは腕を曲げたり伸ばしたりしている。


「アユカのことは、後で詳しく聞くとしよう。行くぞ」


詳しくって言われても、もう何も出てこーへんと思うけどな。


一緒に行くのもなぁと見送ろうとしたが、クレソンに背中を押されてついて行くことになった。




やっと登場させることができました。


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