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口移しー!
わわ!! 生キス初めて見た!!
皮と骨だけなので、動いた喉仏がよく見えた。
シャンツァイの様子に変化は感じられない。
「見たくなかったっす」
「シャンツァイ様が起きたら、瀕死まで殴られるやつだな」
「言わなければよろしいんですよ」
3人遠い目してるけど、腐女子は喜ぶシーンやと思うで。
うち、ちょっと目覚めそうやったもん。
そんなことを考えている間に、今度はポーションを口移しで飲ませている。
リンデンとシャンツァイの2度目のキスシーンだ。
飲み終わったシャンツァイの体はみるみるふっくらしていき、肌艶はよく、髪の毛も光り輝いていく。
奇跡の瞬間に、誰もが言葉を発せない。
作ったアユカでさえ、仰天しすぎて目を疑ってしまった。
リンデンは出てきそうだった涙を腕で擦ってから、栄養ドリンクを口に含んでいる。
シャンツァイに飲ませようと顔を近づけた時、シャンツァイの指が動いた。
「てめぇ、何してんだよ」
え? めっちゃいい声。
もしかして、起きた?
リンデンが覆い被さっているので、リンデン以外シャンツァイが起きたのかどうか分からない。
でも、グレコマたち3人が泣いていて、リンデンも何か言っている。
口に液体を含んだままなので、何を言っているのか誰も分からないが、モゴモゴ聞こえるのだ。
「あ? 何言ってるか分かんねぇよ。ひとまず、顔退けろ」
リンデンが体を起こすと、声の主はゆっくりと起き上がり、首を回している。
「あー、体重いな」
「「シャンツァイ様!」」
グレコマ・エルダー・クレソンの3人が、シャンツァイに飛びかかった。
全員殴られたのか叩かれたのか分からないが、アユカの横を通り過ぎて壁にぶつかっている。
おっ! あーぁ。
そんな実況感想みたいなことを思っていたら、シャンツァイと目が合った。
切れ長の真っ赤な瞳は燃えるように力強いのに、ルビーのようにきらめいている。
ここまで顔の造形が完璧な人がいるんだろうか、と思うほどの男前だった。
そして、キャラウェイが「狼」と言っていた言葉が分かった。
シャンツァイは、可愛い室内犬ではない。
野生味溢れる狼だ。
「女?」
「モゴモゴ」
「リンデン、遊んでないで喋れ」
「リンデン様、それ飲み込んでいいよ。栄養ドリンクはまだあるから」
リンデンが飲み込んだ時、壁に飛ばされた3人が横に戻ってきた。
「アユカ殿、俺に敬称は必要ない」
「分かった」
「はぁ、誰か状況を説明しろ」
クレソンが、シャンツァイが倒れた時のことからを話し出した。
倒れた後、どの医者に見せても原因不明だと言われたこと。
箝口令を敷いていたのに、サフラワーたちがやってきたこと。
城下に噂が出回ったこと。
サフラワーが、仮の王となっていること。
他国と力を合わせて、聖女を召喚したこと。
アユカの薬で、シャンツァイが目覚めたこと。
聞き終わると、シャンツァイは長い息を吐き出した。
「分かった。まずは、迷惑をかけて悪かった。そして、俺を守ってくれていて感謝している。叔父たちから守るのは大変だっただろう。よく守ってくれた。ありがとう」
「身に余るお言葉です」
「俺たちは当たり前のことをしたまでだ」
泣いている4人と優しく微笑みかけるシャンツァイの間に、温かい空気が流れている。
きっとこれが、本来のウルティーリ国の姿なんだろう。
「それと、聖女アユカ。助けてもらい、心より感謝する。ありがとうございます」
「「ありがとうございます」」
「どういたしまして」
歯を見せてニカッと笑うと、幸せが溢れている笑顔を5人から返された。
でも、それは一瞬のことで、シャンツァイの怒りに満ちた顔と雰囲気が部屋を支配した。
「とっとと王座を返してもらいにいくか」
「ちょーっと待って」
エルダーがグレコマに「この中で動けるアユカは、やっぱりおかしいっす」と言っている声は、無視をした。
「なんだ?」
「シャンツァイ様、もう1本飲んでほしいねん」
「クレソンが言ってた薬か? もう十分だが?」
「ううん、栄養ドリンク飲んでないやん。それも飲んだ方がいいから」
巾着から栄養ドリンクを取り出し、押し付けるようにシャンツァイに渡した。
「リンデン、栄養ドリンク飲んでみてどうやった? 力湧いてこーへん?」
「湧いてきているな。今ならダンジョンを1つ消せそうだ」
おお! やっぱりダンジョンもあるんや!
冒険者ギルドって聞いた時に、ダンジョンあると思ったんよね。
行ってみたいわー。
「俺、飲んでみたいっす」
「ええよ。後1本あ一一
「俺も飲みたいから、エルダーは無しな」
「俺が先に言ったっすよ」
「2人で分けたらいいやん」
2人に渡そうと、最後の1本を巾着から取り出した。
ん? めっちゃ視線感じる……
笑顔のクレソンに見られていて、今しがた巾着から取り出した最後の1本を握りしめた。
クレソンも飲みたいんか。
3等分はさすがに少なくて、効果分からんと思うんよね。
「じゃんけんやね」
「ああ、じゃんけんだ」
文句を言おうとしていたエルダーだったが、リンデンの言葉には意見できないようで、大人しくじゃんけんをしている。
数回のあいこの末、勝ったのはクレソンで、渡すとすぐに飲み干した。
そして、背中を僅かに丸め、自分の体を隈なく見ている。
「シャンツァイ様、飲んでみてください!」
興奮しているクレソンの声に、シャンツァイは「仕方ねぇか」と栄養ドリンクに口をつけ、不思議そうに手を握ったり開いたりした。
そんなシャンツァイからも、アユカは抜かりなく瓶を回収した。
スライムがいないと作れないので、洗って使いまわさないといけないからだ。




