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「あの者を捕らえなさい!」
ベレバリアの声に、壁際に並んでいた騎士がマツリカの腕を押さえつける。
力に負けたマツリカは膝をついた。
「離してよ! 私は悪くないわ! 嘘つきなあの女が悪いのよ!」
「マツリカ様、落ち着いてください」
騒ぐマツリカと、マツリカを抑える役目を代わろうとしているフラックスを、汚い物を見るような瞳でベレバリアが見ている。
「本当に野蛮で汚らしい子」
「っ……」
「元宰相の娘が、こんなに野蛮だなんて信じられないわ」
「まぁまぁ、マツリカは裏切られて傷ついてしまったんだよ」
「あら、あなたはこの子を庇うんですね」
「大切なメイドじゃないか」
「大切……ですか。まぁ、野蛮だと刺激があって楽しいんでしょうね」
冷めた面持ちのベレバリアにサフラワーは焦っているし、マツリカだけではなくフラックスも辛そうに俯いてしまった。
4人の関係性に興味はないし、このまま見守っていても時間が溶けるだけだ。
アユカにとっては、ただただ時間の無駄になる。
「王妃様、私は陛下に賛成ですよ。私はまだこの国の聖女ではありませんので、この国のメイドに何をされようが王妃様の手を煩わせる必要はありません。それと、キャラウェイ殿下。助けてくださりありがとうございました」
キャラウェイに笑顔を向けるが、顔を逸らされた。
もっと早く言っとくべきやったな。
傷つけてしまって、ごめんな。
両陛下に視線を戻して、キャラウェイに向けた笑顔とは違う、好印象に見えるのに壁があるという計算された微笑みを向ける。
「王妃様はとにかく品行方正な方を好まれているようですし、お城にお世話になるには礼儀が必要なんだろうと気づきました。
となると、粗野ばかりの私ではお役に立てそうにもありません。100万ベイも難しそうですし、この国の聖女の話はお断りさせていただきます」
「ま、待ってください」
「他の聖女でしたら、治癒も浄化もできます。他国に依頼されれば派遣してくださることでしょう。他の聖女は報酬にこだわりはなさそうでしたから、そちらの方がお安いかと思いますよ」
「そうですか。残念ですが分かりました」
「無理に引き留めるのは申し訳ないですからね」
おお、2重丸になった。
居なくなるから好かれるって、どうなん。
「ここを出られたら、どうなさるんですか?」
「そうですね。冒険者ギルドにでも登録しようと思います」
鳩が豆鉄砲食ったような顔のサフラワーたちに頭を下げて、部屋を後にした。
背筋を伸ばして謁見の間から出てきたアユカは、ドア前にいた衛兵に出口を教えてもらい、歩き出した。
キャラウェイ様には悪いことしたな。
エルダーやグレコマにも。
でも、あの両陛下の元では働きたくなかったんよ。
お城の中の雰囲気はよくないしなぁ。
フォーンシヴィ帝国のお城の雰囲気はよかったんやけどな。
門にいる兵士が2重丸なら、チコリ宛にポーション数本渡しとこう。
意図に気づいて、シャンツァイに使ってくれるかもしれんしな。
「アユカ? ここで何やってるっすか?」
声をかけられ横を見ると、エルダーとグレコマがいた。
「もう両陛下との話し合いは終わったのか?」
「うん、終わったよ。2人はどこに行く途中なん?」
「リンデン隊長に戻ってきた報告と、シャンツァイ様へのお見舞いに行く途中だ」
おお! グッドタイミング!
自分でポーション持っていけるやん。
ポーション効かんでも、鑑定で病名教えてあげられるしな。
よくしてくれたお礼できる。よかった。
「うちも一緒に行っていい?」
「いいぞ」
2人に挟まれるように並んで歩き出す。
両側を見上げるが、異議は受け付けてもらえなさそうだ。
「陛下からシャンツァイ様のこと聞いたか?」
「ううん、聞いてない」
「そうか」
重たい息やねぇ。
「でも、チコリから聞いたで」
「チコリと会ったっすか! 俺の彼女可愛いっすよね!」
「うそやろ? エルダーにはもったいないわ」
「ひどいっす!」
「俺もアユカ様に同意見だ」
「ひどいっすー!」
やいのやいのしながら、素朴だけど綺麗な白亜の宮殿に着いた。
メイドたちが、すれ違い様に頭を下げてくる。
豪華な赤いドアをグレコマがノックすると、黒のメッシが入った黄色の髪を3つ編みにしている猫、いや、虎っぽい男性が姿を見せた。
筋肉もう少しあったら、恋する候補に入るのに。
って、出て行くんやからお城内で探すんはあかんな。
街に出た方が、色んな人と出会えるやろうしな。
「グレコマとエルダーですか」
「見舞いにきた」
頷いた黒メッシュの青年の視線が下がり、アユカに止まった。
「聖女?」
「そうだ」
「あいつが、よく寄越してくれましたね」
「いいや、たまたま歩いてたんだ。一緒に来るって言うから連れてきた」
「なるほど」
グレコマたちに続いて、大きく開かれたドアを通った。
部屋は飾り立ててなく、物は多くないが、どれも高級品だと分かる。
大きなベッドの前に、茶色の短髪で筋肉の塊のような壮年の男性が座っている。
威圧感もあり、ライオンっぽい。
「リンデン隊長、昨晩戻りました。挨拶が遅くなり申し訳ございませんでした」
グレコマとエルダーが、筋肉の塊のような男性に頭を下げている。
「その子が聖女か?」
「はい」
カッコいい!
この人、めちゃくちゃ筋肉がカッコいい!!
「アユカ様、この方がリンデン隊長。こっちがクレソン。そして、眠っているお方がシャンツァイ様だ」
リンデンの筋肉を見つめていたアユカは、ベッドに視線を動かして目を見張った。
それもそのはず。
生きているのが不思議なくらい顔がコケていて、骨が丸分かりなのだ。
キャラウェイ並みに光り輝くだろう銀髪は、くすんで見える。
どんな結果だとしてもちゃんと伝えようと、震える心を奮い立たせ『アプザル』を心の中で唱えた。
シャンツァイ、23歳。
レベル92……92!? キアノティス様より上!?
火魔法。
状態は……え?……
小説のキーワードから「ざまぁなし」を消しました。
ざまぁとは、人の失敗をあざけり罵る言葉になると作者は思っています。
主人公がそのような状況にならない限り、ざまぁとは思わないのですが、展開次第ではそう思われる方も少なからずいらっしゃるかと思ったので、キーワードから消した次第です。
これ、ざまぁ? いや、ただの成敗? いや、成敗もざまぁなのか? 嘲って罵ってないのに?
「ざまぁ」難しいなぁと思う次第です。
ざまぁなしだからと読んでくださっていた方々には、本当に申し訳ないと思っています。
しかし、引き続き読んでいただければ幸いです。
物語の本番は、ここからですので!
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読んでくださっている皆様、本当にありがとうございます。




