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ちょっと量が物足りないと思いながら朝食を済ませ、呼びにきた騎士と一緒に謁見の間に向かった。
向かう途中で、飾り気がない廊下から煌びやかな廊下に変わった。
明らかな変化に苦笑いさえ出てこない。
あー、はいはい。
自分には、めちゃくちゃお金使う人ね。
謁見の間に到着すると、部屋には重たそうな宝石を身につけている両陛下と、暗い顔をしたキャラウェイがソファに座っていた。
侍従やメイドが壁際に並んでいて、その中にマツリカとフラックスもいる。
「これはこれは聖女様。お会いするのが遅くなり申し訳ございません」
「こんなにも可愛らしい方が聖女様だなんて信じられませんわ」
満面の笑みで迎えられるが、部屋に入った時に『アプザル』していたアユカには嘘の笑顔だと分かっている。
銀色のソフトモヒカンに大きな口の男性は、名前がサフラワーで32歳。
レベル30の雷魔法。1口メモには強欲。記号はバツが2個。
長い赤い髪をワンカールさせている大人しそうに見える女性は、瞳が赤色ではなく緑色。ポリティモ国出身だということだ。
そして、アユカと同じ位置に涙ボクロがある。
名前がベレバリア、28歳。
レベル15の土魔法。1口メモには傲慢。記号はバツが2個。
「はじめまして」
嫌われてるなぁと思っていたら、自己紹介を忘れてしまった。
イラッとさせただろう雰囲気が流れたが、向こうも名乗らなかったしなと気にしないことにした。
「ここまで来るのは大変だったでしょう。お越しいただきありがとうございます」
「守ってもらっていましたし、とても快適な旅でしたよ」
メイドにより淹れられたお茶が、アユカの前に置かれた。
毒入りって表示されましたやん。
堂々と殺しにきてますやん。
心の中で軽快にツッコミ、胸の中で息を吐き出した。
飲まないと無礼になるんやろうけど、そもそも毒入ってることが失礼やもんな。
お互い様ってことで飲まんとこ。
「それはよかったです。道中のことはキャラウェイから聞いております。けれども、魔物を王子に食べさせるのはやめていただきたかった」
「どうしてですか?」
「魔物ですよ」
「魔物ですね」
1拍おいて、馬鹿にするように声をあげて笑われた。
「ここまで私たちと異なるとは思いませんでした」
「あの、すみません」
「いえ、いいんです」
「じゃなくて、ちゃんと言葉で、私に分かるように、どうして魔物がダメなのか答えてほしいんです」
「え?」
「きちんと教えてほしんです」
「魔物は魔物だからですよ」
「ですから、どうして魔物というだけでダメなんですか?」
「毒があるかもしれませんよね」
「キノコだって毒があるものがありますよね。でも、毒がないものは食べているでしょう。何が違うんでしょうか?」
「魔物とキノコは違うでしょう」
「ですから、キノコはよくて魔物がダメな理由が知りたいんです」
「それは……」
「魔物を食べるなんて野蛮ではありませんか」
口ごもったサフラワーに代わり、ベレバリアが蔑むように言ってきた。
「どうして野蛮なのですか?」
「他に食べ物があるのに、わざわざおぞましい魔物を食べるんですよ。蛮行以外考えられません」
「そうですか。分かりました」
優位になったと思ったのか、サフラワーとベレバリアは目元を緩ませている。
「では、蛮行なことしかしない聖女に、何を期待されるんでしょうか?」
「なっ」
頬を引きつかせるサフラワーたちに比べて、アユカはずっと笑顔だ。
霧島に叩き込まれているのだ。
交渉ごとの時は、笑顔を絶やしてはいけないと。
「期待といいますか、キャラウェイより瘴気を浄化されたと聞いております。ですので、瘴気の浄化と負傷した騎士たちの治癒をお願いしたいのです」
「いくらいただけますか?」
「は? えっと?」
「報酬はいくらでしょうか? とおうかがいしています」
あ、サフラワーとベレバリアのバツが1個ずつ増えた。
これ、何個まで増えるんやろ。
「聖女様の身の回りのお世話をさせていただきます」
「それだけですか? 瘴気1回につき100万ベイくらいの働きだと思うんですが」
「100万ベイだと!?」
ちなみに、100万ベイはこの世界の庶民の半年分のお給料になる。
キアノティスから1000万ベイもらっているアユカは知らないお給料事情なのだ。
「私は治癒魔法が使えませんので、それでもよければの値段ですけどね」
「……治癒魔法が使えない?」
ん? 急に記号が丸に変わった。
突如、横から火が飛んできた。
銃で撃ち抜く前に、水によって蒸発している。
「聖女のくせに治癒魔法使えないなんて偽物じゃない!!」
怒りで険しい顔をしていることから、火を放ったのはマツリカなんだろう。
そして、座っていたはずのキャラウェイが立っているので、水で助けてくれたのはキャラウェイだったのだろう。
だが、心配や安堵の表情は見られない。
力なく下されている腕から、泣きそうになっている顔から、なぜ今まで言ってくれなかったのかと訴えてきている。




