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湖を見たホノカたちは、見えている景色を信じたくなくて唖然としている。


「なにこれ状態なんだけど」


「ホンマによな」


「こんなこと、よく考えられるわね」


「ど、どうやって消すの?」


「水の中に音を流すんよ」


ホノカたちの頭の上に「?」が浮かんだ時、一瞬いなくなっていたパキラが戻ってきた。

パキラの手のひらには、ダイヤのような形をした水晶が8個置かれている。


「ごめんな、パキラ。ありがとう」


「いいよ。これくらい」


アユカはパキラから水晶を受け取りながら、ホノカたちに1つずつ渡し、4個を湖に散らばるように投げ入れ、最後の1つを自身で持った。


「これは、なに?」


モエカの質問に、アユカは水晶を突き出しながら、自分が生み出したアイテムのように答えた。


「マイクとスピーカーやよ。これに向かって歌えば、湖の中に入れた水晶から流れるねん」


「そんなものあるの!?」


「ホンマに驚くこと多いよな」


アユカは、ずっと水の中の瘴気をどうやって消すか考えていた。

水の中では、歌うことも竜笛を吹くこともできない。

それに入ったが最後、死ぬだろう。


畔で吹いたところで、表面にしか音は届かない。

先にアユカたちの体力と魔力が切れて、無駄骨になりそうだと予想できる。


人間には聞こえないが、水は音を通すことを知っている。

となれば、どう音を響かせるかで浮かんだのがスピーカーだった。


「見たことないわ」と肩を落としかけたが、シャンツァイとした新年の挨拶を思い出したのだ。

それで、パキラに尋ねると、魔塔にあるということで持ってきてもらったのだ。


まぁ、賭けでもあるんやけどな。

瘴気が祓えるんは、うちらが出す音にうちらの魔力が篭ってるからやと思うんよ。


スピーカーを通す音に魔力が乗るんかどうかやけど、うちは変わらず乗ると思ってるんよね。

結局、宝石に入れても瘴気は瘴気やったやん。ってことは、音は音ってことやろ。


それに、うちらが音を乗せるんは、普通のマイクとスピーカーちゃうからな。魔術道具なわけよ。


きっと大丈夫!


「んでさ、うちは笛やから3人の歌に合わせて吹くわ。ホノカが瘴気祓う時の1回しか聞いたことないから、ズレたらごめんな」


「合唱するのも初めてなんだし、徐々に合わせられたらいいよ」


まるでコンクールの練習を楽しむように言ってくれるホノカに、アユカは嬉しくて微笑んだ。


「あ、あの、私、消したことないけど消せるかな?」


「もう誰もユウカの邪魔はできへんから、思う存分『消してやる』って歌って大丈夫。絶対、祓えるよ」


「……消してやる、か」


「うん! 黒い点1つ残らないよう消してやろう!」


「私たちは聖女だもんね。今こそ、力を証明するときよ」


お互いの心を軽くするように笑い合い、ホノカが差し出してきた拳に3人は恥ずかしそうに拳を合わせた。


これ、グータッチってやつやんな!

うわー! 密かに憧れてたやつやん!


と、興奮したのはアユカだけではない。

モエカもユウカも、飛び跳ねたいくらい喜んでいた。


4人は湖を囲うように等間隔で立ち、アユカが竜笛を吹きはじめ、ホノカの歌い出しに1拍置いてモエカとユウカがホノカに合わせるように歌いはじめる。


重なり合う聖女たちの旋律が、空気を、森を、湖を癒していく。


「僕、何十年ぶりかに感動してるよ」


「私もです」


耳を傾けずにはいられない音色に、パキラとアスプレニウムは身を委ねている。

ずっとアユカの肩に静かに留まっているミーちゃんは、アユカの頭を支えるように体を添えている。


4人の「消したい」という想いが1つになっているからだろうか、はたまた、4人がやっと協力をし合ったからだろうか、曲が3回目に入ったところで湖に変化が訪れた。


黒い中に透明の水がマーブル模様を描きはじめ、マーブル模様が回転しながら幅を広げていく。


4回目の歌が終わりかけになり、湖は金銀の粉を振りかけたように輝き、金銀の煌めきが昇った瘴気を追いかけるように空に向かいはじめた。


瞼の裏が明るくなったので、目を開けたアユカたちは顔を見合わせ頷き合いながら演奏を続けた。


湖の明らかな変化に、空の瘴気すら消してしまいそうな勢いに、自信が体に広がっていく。

力を奪われていた3人は、喜びに体が震えるほどだった。


ただ、何回繰り返せば、空の瘴気を消せるのか分からない。

ここまでできたのなら、完全に消し去りたい。


もう何回歌ったか不明だが、1時間経ったくらいで、喉が痛いとホノカたち3人は膝をついた。


アユカだけは吹き続け、アユカの限界が近づいてきた時、金銀の粉が勢いよく昇りはじめた。


「アユカ! 見て!」


ホノカの声にアユカは演奏を止め、体全体で息をしながら目を開けた。


この時見た景色を、アユカたちは一生忘れないだろう。

空には眩いばかりの星が散りばめられ、星の雫が舞っているように金銀の粉が降り注いでいる。


「うわー! 消せたー!」


両手を上げて喜ぶアユカに、ホノカが勢いよく抱きつき、泣きながら笑い合った。


アユカとホノカが肩を組んだ状態で、モエカとユウカに向かって手を広げると、嬉し恥ずかしそうに2人は輪の中に加わってくれた。


円陣を組むように4人で抱きしめ合い、「頑張ったね」「やったね」「最高だね」「うちらスゴすぎるわ」と労い合ったのだった。




4人の聖女が、大陸を救った日。


大陸全土に降り注いだ金銀の粉は、誰の胸にも温もりを灯し、あらゆる病気を治し、眠る人たちに幸せな夢を見せた。


そして、全ての魔物と瘴気は姿を消し、どの地域であろうと実り豊かな大地に姿を変えた。




残り2話で完結となりますので、明日は土曜日ですが投稿します。

明日は予約投稿ではなく、10時から12時の間に2話続けて更新します。

206話時点でも物語の区切りとしてはいいですが、よろしければ最後までお付き合いくださませ。


いいねやブックマーク登録、ありがとうございます。

読んでくださっている皆様、本当にありがとうございます。


予約投稿のはずが即時投稿……今、心臓バクバクしています……終わりを目の前にして、マジで盛大にやらかしました:(;゛゜'ω゜'):

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[一言] そんな……美味しいお肉が……消えた……っ!?(魔獣食い並感
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