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アユカが両腕を組んで、首を斜めにして、悩むように顔を歪めた。


「なぁ、ユウカ。なんでユウカは、頭の中で全部を決めつけんの? 相手のことが手に取るように分かって、自分の考えが全て合ってるなんて、そんなんユウカが書く物語の世界にしかないことやん。


確かに、うちらは転生して聖女になったよ。漫画や小説みたいな話やよ。自分の人生の主人公は自分やよ。

でもな、この世界はユウカの世界ちゃうねんで。ユウカが願った通りに進む物語ちゃうねん。この世界も、うちもみんなも、ユウカが創り出したわけちゃうやろ。


それにな、自分以外の人間は全くの他人やん。考えてることなんて、腹割って話しても全部を分かることはできへん。それでも、仲良くなりたいから、相手のことを想うから、会話を続けるんやん。


でも、何を話しても仲良くなりたくても、ユウカの頭の中の設定と違うから『嘘』って変換されるんなら、ユウカ以外の人間おらんのと一緒やん。


うち、ちゃんとユウカの目の前で生きてるんよ。他の人らも人形ちゃうんよ。


それにさ、ユウカかって、自分の声が届かんかったら悲しくならん? みんなも、ユウカに声が届かんかったら悲しくて、段々とユウカと話したくなくなるよ。そしたら、ユウカは1人になってまうよ。


なぁ、それでいいん? 折角、好感度チートの聖女になれたのに、寂しい人生になるんやで。そんなんアホみたいやん」


ユウカの太ももの上にある両手が、強く握りしめられる。


「だ、だから、なに? アユカは、私を虐めてないって言いたいの?」


「そうやよ。うちは虐めてるんやなくて、政治したことない女子高生の治める国に住みたいとは思わへんやんって言ってるねん。

ユウカは、どう? そういう国に国民として住める? 『パンがなければお菓子を食べればいいじゃない』の世界やと思うよ」


いや、これも偏見で、めっちゃスーパーな女子高生がおるかもやけど。

1を聞いて10を知るような天才は存在するやろうからな。


それに有名な言葉やけど、今はマリー様の言葉とちゃうってなってるんやったっけ?

有名人って、本当に諸説あるよなぁ。


好きな人、大切な人が害されない限り、こんな場面でも心に波が立たないアユカである。


「……いやかも」


「やろ。ユウカが女王様になりたいんやったら、この世界の勉強から始めたらいいねん。色んな人の声を受け止めて、この世界を知ったらさ、楽しいことで溢れてると思うんよね。

だってやで、魔塔主って憧れの存在やん。その人が実在する世界なんやもん」


「え? い、いるの?」


アユカがパキラを手のひらで指すと、パキラは「憧れの存在」という言葉に反応して仰け反り返っている。

ユウカは、驚きで背筋を伸ばし目を見開いた後、泣きそうな顔で目を閉じ唾を飲み込んでいた。


「うちらは知らんことがいっぱいあるわけよ。それを勉強して、政治の勉強をして、国民が愛してくれたら女王様になったらいいやん。まぁ、聖女やから愛してもらえるんは確実やけどな」


「で、でも、私はもう聖女じゃ……」


「うちが作った薬で聖女の力は戻るよ。ホノカとモエカが立証済みやから、安心して飲んで」


ようやく本題に入れたアユカは、心の中でガッツポーズをしながら、巾着から特殊回復薬を取り出した。

ユウカの側まで持っていくが、ユウカはまだ思い悩んでいるのか受け取ってくれない。


「……ア、アンゲロニア様はどうなるの?」


「それは、シャンとキアノティス様が決めることやけど、死刑にはならんと思うよ。んで、ユウカに聖女の力が戻ったら大仕事が待ってるから、それをやり遂げたら褒美としてユウカの家庭教師にでもなってもらったら?」


「ご、ご褒美をもらえるの?」


「もらえるよ。うちらは、今からこの世界を救うんやから」


アユカがシャンツァイとキアノティスを見ると、2人は困ったように微笑みながらしっかりと頷いてくれた。

「アンゲロニアには、この上ない罰かもな」と2人が思っていることは、アユカもユウカも察することはできない。


ユウカは小さく深呼吸してから、特殊回復薬を受け取ってくれた。


「ア、アユカ、ごめん……ありがとう……」


聞こえてきた言葉に耳を疑ったが、反対側を向いて薬を飲んでいるユウカが気恥ずかしそうに見えて、アユカは微笑んだのだった。




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