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本来ならおやつを食べている時間に、シャンツァイから連絡が入った。

外は、瘴気のせいで夜みたいに暗い。


「詳しい話は後でするが、問題なく制圧できた」


「よかったわー」


シャンツァイ曰く、リコティカス国の騎士の半分は戦わず投降してきたそうだ。

随分と前から違和感を覚えていたらしい。


だが、隊長たちはアルメリアを擁護するだけで、アンゲロニアからは空気のような扱いをされたそうだ。

不満はあったが、給金や生活のことを考えると辞めるわけにはいかず、ズルズルときてしまっていたらしい。


辞めていく騎士も多かったそうで、手向ってくる騎士たちの数は予想を遥かに下回っていたとのこと。

だから、たやすく制圧できたそうだ。


アルメリアたちは拘束し、アルメリアの実験棟に捕らわれていた人たちは保護したとのこと。

事後処理のため、1週間ほどリコティカス国に滞在するそうだ。


「こっちはグンネラ捕まえたから、やっと解決やね」


「まだだろ。東洋の商人が見つかっていない」


「それやねんけどな。敵ちゃうかったわ」


「……は?」


「やから、ユーフォルは敵ちゃうかってん」


「……会ったのか?」


「うん、聖女の湖でな。うちも詳しいことは後で話すとして、ユウカを迎えに一瞬だけそっち行くわ。それくらいなら大丈夫そう?」


「問題ねぇが……どうするつもりだ?」


「瘴気を消すに決まってるやん。うちらは聖女やねんで」


「そうか。俺に顔は見せてくれよ」


「もちのろんろんよ」


シャンツァイの鼻で笑った声が聞こえた。

「また後で」と通信を切った時、モエカの目が覚めたようでベッドで上半身を起こしている。


「モエカ、おはよう」


「ア、ユカ?」


呟いたことで頭が覚醒したのか、前屈みになりながら布団を鷲掴みし、部屋を見渡している。

顔色は青く、少し震えている。


「グンネラは地下牢に繋いだから、安心していいで」


「そ、そうなのね……な、なんでこんなことに……」


グンネラがいなくなったとしても、モエカの目の前でメイドが殺されかけたのだから平常心は無理だろう。


4人の聖女の中で、モエカだけが自国から出たことがない。

瘴気や治癒を行うにしても、安全な地域から行なっている。


キアノティスが過保護な性格のせいもあるが、つまりモエカは、騎士たちが戦っているところを、魔物や誰かが倒されるところを、きちんと目の当たりにしたことがないのだ。

唯一、目に触れたのはトックリランの死のみ。


クテナンテとの派閥があったとしても、不親切にされるくらいで悪口を言われるわけでもない。

そもそも関わり合いがほとんどない。


平和な空間で生きていたモエカにとって、一方的に攻撃される光景は、目の前を暗くし恐怖を植え付けるには十分だ。

気絶したくらいで忘れられるものではない。


「めっちゃ色んな事件があったんは知ってる?」


「少しだけ……」


「その犯人がグンネラやってんよ」


「そ、うなのね」


「んでな、後始末をするのにモエカの力を貸してほしいんよ」


「後始末? 私、何もできないわよ」


「そんなことあらへんよ。モエカも聖女やん」


「私、力がな、くっなったのよ……もう聖女じゃないわ」


アユカは、悲しそうに俯くモエカに近づき、ベッドの横に置いてある椅子に座り直した。


「聖女の力は、うちが作った薬で戻るよ。ホノカで立証済みやから、疑わずに飲んでくれたら嬉しいわ」


アユカは、巾着から特殊回復薬を取り出し、モエカに差し出した。

モエカは泣きそうな顔で、アユカと薬を交互に見ている。


「どうして優しくするの?」


「モエカはうちのこと嫌いかもやけど、うちはモエカを嫌いちゃうしな。それに、ホンマにモエカの力が必要なんよ。モエカがおらな解決できへんねん」


俯いたモエカの顔の真下にあるシーツに、水玉模様が浮かび上がっていく。


「ねぇ、それをやり遂げられたら、私ここにいてもいいのかな? 聖女として、今まで通り過ごしていいんだよね?」


「決めるのはうちちゃうけど、キアノティス様ならモエカが聖女ちゃうくっても好きなように過ごしていいって言うと思うで。聖女として生きるんが楽しいなら、聖女をしたらいいんちゃう。農業でも販売員でも文官でもいいと思うよ。働かな生きていかれへんのやからさ」


「聖女が職業って……アユカはバカじゃないの」


「アホって言われるんはいいけど、バカはムカつくから言ったらあかんねんで」


泣きながら小さく笑い出したモエカに、アユカは頬を緩めた。


聖女の力が無くなって、ものすごく不安だったことが、モエカから伝わってきた。

ホノカも「急に使えなくなったの」と話してくれた時、聖女の力が戻った時、アユカにしがみついて泣いていた。


きっと力を使えなくなってから、肩身の狭い思いをしてきたのだろう。

この世界に居る意味を考えると、聖女としてだからが真っ先に思い浮かぶのだから。


でも、神様が選んでくれ、もう1度生きる力を与えてくれたんだから、幸運に感謝をし、好きに生きていいと思っている。


だって、生きているのは自分の人生で、次は後悔しない日々を送りたいと誰もが思っているはずだから。


初めて笑ってくれたけど、バツのままかー。

まぁ、何でかは分からんけど、1個まで減ったから好感度は上がったってことよ。

喧嘩にならんのやったら、何でもいいわ。


特殊回復薬がきちんと効果あることを確認するために、アユカは先ほどから『アプザル』をしていた。


手のひらで涙を拭ったモエカが、アユカから特殊回復薬を受け取り、すぐに飲み干している。


「これでいいんでしょ。さっさと解決しに行きましょう」


「そうしたいのは山々なんやけど、先にユウカを治しに行ってくるわ」


「もしかして、4人必要なの?」


「うん、空に広がってる瘴気を消さなあかんからさ」


「あれ、瘴気だったの!?」


「ビビるよなぁ」


「え? あれ、消せるの?」


「聖女のうちらが消せんわけないやん」


「そ、うよね! 頑張るわ!」


手を握りしめて窓の外を見るモエカに、アユカは少し心が軽くなり、ユウカがいるリコティカスに急いで向かうことにした。


モエカは、その間に着替えと食事を済ませるそうだ。

念のため、アスプレニウムに居てもらうことにすると伝えると、モエカは安心したように微笑んでいた。




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