19
長かった旅路もようやく終わり、ウルティーリ国の王城に着いた。
到着が夜遅かったからか、陛下らしき人の姿はなく、数人のメイドの出迎えだけだった。
キャラウェイ様がいるのに少なくない?
王子様の帰宅やで。
夜中やとしても、総動員で出迎えるもんちゃうの?
色々読んできた本の中は、大袈裟すぎたんかなぁ。
ん? 殿下って呼ばれてるから王子様やでな?
王様が叔父さんってことは、王子様ちゃう?
うーん。考えても分からんし、どっちでもいいか。
フォーンシヴィ帝国の王城と変わらない大きさに見えるのに、内装は比べ物にならないくらい簡素だ。
飾り気がない廊下を進んで、1階奥にある客室に通された。
キャラウェイとは「朝食を一緒に食べようね」と、エントランスで別れている。
久しぶりに湯船に浸かれるー。
お風呂をまだ見てないけど、きっとあるよな。
魔法は便利やけど、やっぱり温もりたいもんな。
お風呂に入りたくて、案内してくれたメイドに聞いてみたが、浴場は清掃をしている時間なので入れないと言われた。
残念に思いながら、案内のお礼を伝えて、下がってもらった。
自分自身に『クレネス』をかけ、ベッドに大の字で寝転ぶ。
テントに1人っきりもお篭り感があって落ち着いたが、身を委ねることができるベッドは安心感がある。
濃い10日間やったなぁ。
うつらうつらしかけた時、テラスの方から物音が聞こえ、眠気が吹き飛んだ。
昨日の夜のこともあるので、銃を取り出して、忍び足でテラスまで行く。
勢いよくカーテンを開けて、銃口を向けた。
「エルダー?」
窓向こうのテラスで、エルダーが驚いた顔をアユカに向けている。
エルダーの足元には、昨日と同様の黒装束の人が横たわっていた。
悩んだような顔をしたエルダーに窓を叩かれたので、窓を開けてテラスに出た。
「何してんの?」
「グレコマ副隊長に言われて、アユカの護衛っすよ」
うちが狙われてるってことやんな。
そうかもと思ってたけど、本当にそうやったとは。
「ひどいっすよねぇ。自分はそそくさと奥さんの元に帰ったっすよ。俺だって彼女と会いたいっす」
「は?」
今……なんて言った?
いやいや、聞き間違いやって。
頼む! 聞き間違いであれ!
「グレコマって結婚してたん?」
「してるっすよ。俺の彼女には負けるっすが、中々の美人っす」
あああああああ!
そう、そうなんやね! 妻帯者やってんね!
あの筋肉やもんな。
そりゃ奥さんいるわな。
それに、エルダーにも彼女おるんかぁ。
全く! これっぽっちも! 相手として考えてなかったけど、ちょっと寂しなったわ。
「アユカはもう寝るっすよ。明日の英気を養うっす」
「うちの護衛するだけやったら、エルダーもソファで少し寝たら?」
「いいっす。アユカと噂になるのは勘弁っす」
「護衛やのにならんやろ」
「なるっすよ」
エルダーに、虫を追い払うように手を払われた。
これ以上言っても平行線なのは変わらないだろうから、アユカは「本人がいらんって言ってるしな」と気にしないことにした。
「ありがとうな、おやすみ」
「おやすみっす」
窓とカーテンを閉め、ベッドに潜り込む。
グレコマー!
いい相手やと思っとったのに!
また振り出しに戻ったやん。
相手がいるかどうかなんて、頭になかったわ。
リア充たちめ!
恋ができていない悔しさから布団を握りしめていたが、数分後には全身の力が抜けたように眠っていた。
朝になり、昨日とは打って変わって、元気なメイドが身支度の手伝いにやってきた。
焦茶色の髪をお団子にしたリスに似ている女の子だ。
「聖女様、おはようございます」
「おはよう」
ベッドではなくソファに座って寛いでいるアユカを見るなり、慌てた様子で側に寄ってきた。
「お着替えの手伝いができず、申し訳ございませんでした。こちら、顔を拭くためのお湯になります」
「ありがと」
「いいえ! お礼を言われることではありません」
可愛いなぁ。
淡々としたメイドしかおらんのかと思ったけど、違うんやね。
こんなにも表情豊かに接してくれる子がおったんやね。
「ううん、持ってきてくれたことへのお礼やから。それと、ごめんな。顔はもう洗ったねん」
「え? まさか……私がノロマなせいで、ご迷惑をおかけしましたか!?」
「違う違う。こうやって洗ったねん」
アユカは、メイドに『クレネス』をかけた。
メイドの大きかった瞳が落ちそうなほど見開かれ、両手は開ききり口元で小刻みに揺れている。
「ここここれは、せせせ聖女様の魔法ですか?」
「そうやで。便利やろ」
「わた私などに、かけていいものなんでしょうか?」
「いいよ。うちが、かけたいと思ったからかけたんやし。悪いことなんて1つもないやん」
「ああありがとうございます! もう死んでもいいです!」
「魔法ごときで死ぬとかあかん!」
「いいえ、聖女様は尊いお方です。聖女様の魔法は、とても貴重だと言われています。それなのに私にかけてくださるなんて、この上ない褒美であり、栄誉であり、幸福です」
お、おもい。
気持ちが重すぎへんか。




