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ウルティーリ国とフォーンシヴィ帝国が、捜索という名の進軍を始めて7日が経った。


進軍といっても、名目はアユカの捜索と指名手配犯の捜索なので、それぞれ50人規模の軍隊になる。

これ以上多くなると、捜索活動が嘘だと明言していることになるからだ。


全面戦争になれば50人ずつなんて少なすぎるが、シャンツァイとキアノティスが隊を統率し進軍している。

選ばれた50人も選りすぐりの人たちだから、もしもがあっても全滅はしないとアユカは言い聞かせられていた。


それでも心配は尽きないが、通信石から聞こえてくるシャンツァイの声は変わらず穏やかな惚れ惚れする声なので、予定通りに事を運んでいると分かって安心していた。


リコティカスに入国してからも、街や村の人たちが友好的で難なく進めていると聞いている。


この話を教えてもらった時は、聖女アニスをしていてよかったと心底思ったものだ。

無駄な争いをしなくていいのは、心身ともに余計な疲れを感じなくて済むということ。

戦わずに勝てるのなら、それにこしたことはない。


そして、とうとう明日リコティカスの王都に着き、フォーンシヴィの軍隊と合流するそうだ。

リコティカスの王城に宿泊をさせてもらうことになっていて、内側から同時に攻撃を始める手筈になっている。


侵略ではなく捜索の協力を仰がれているだけなので、リコティカスも拒むことはできない。

各国の王が来るのだから、街宿に泊まれとは言いにくい。


リコティカスに向かっている道中に、キアノティスにはアンゲロニアから了承の書信が、シャンツァイにはアルメリアから歓迎するというラブレターが届いたそうだ。


昨日の夜に、問題なく作戦を実行できると、通信石で聞いていた。


「やっとシャンに会えるわー」


進軍を開始してからというもの、シャンツァイには会えていない。

夜営している場所や宿屋に遊びに行けるわけもなく、毎日数分だけ通信石で会話をしている。


「襲撃する時間になったね」


「問題なく制圧できるだろう」


「みんながどんな怪我してもいいように薬作ってるしな。報告の連絡が入るまで、のんびりしてよ」


アユカは、大口を開けてバタークッキーを食べている。

今は、朝食後のお茶の時間だ。

パキラはケーキを食べているし、ミーちゃんも机の上で水を飲んでいる。


「雨ちゃうくってよかったわ」


「ここが降ってなくても、リコティカスは雨かもしれないよ」


「いいや、きっと向こうも晴れてる」


「晴れていればいいな」


そんな会話をしていた束の間、明るかった室内がどんどん暗くなっていく。

アユカが窓の外を見やると、日没くらいの薄暗さが広がっていた。


「雨降るん?」


窓の近くまで行き、空を見上げると、青空に雨雲のヴェールがかかっている。


「雨かー」


まぁ、こっちが降ってもリコティカスが晴れてたらいいわ。

雨の中戦うんは、視界が悪いやろうからさ。

ポーションはあるけど、極力怪我はしてほしくないもんな。


「黒い割に分厚くなさそうな雲やな。変なの」


これだけ暗いんやからモワモワした雲ちゃうのって思うけど。

それに雲って、もっと空になかったっけ? 低いよな?


実はあれ、雲ちゃうかったりして。

って、空にあるのに雲以外なわけないやん。

雨雲以外に黒い塊なんて瘴気くらいしか……


いやいや、ないない。

そんな最終手段みたいな恐ろしいことはない。


うちってば、突拍子もないこと思い付きすぎやわ。

雨雲は黒で合ってるんやから。ないよ、ない。


ないと分かっていても、点のような不安を消したくて『アプザル』してみた。


「ああああああ!!!!!」


アユカの大声にパキラとアスプレニウムが椅子から立ち上がり、ミーちゃんも部屋を大きく旋回してからアユカの肩に留まった。


「なに!?」


「どうした!?」


アユカは顔を強張らせながら、窓の外、斜め上を指した。

2人は焦った様子で窓際に駆け寄り、空を見上げている。


「瘴気や……」


「は?」


「……ちょっと待って……空に瘴気?」


「うん、空に瘴気やねん」


1拍分固まったパキラは叫び、アスプレニウムは渋い顔をしている。


「どれだけ大きいんだ?」


「分からんけど……雨みたいに落ちてきたら怖いよな」


「瘴気は魔力の塊だよ。分裂しないだろうし、塊以外を見たこともないよ」


「そうやけど、空にあるってだけで奇妙なんやから、起こってもおかしないやん」


ホンマに起こったら、怖いどころちゃうけどな


「とりあえず、何が起こるか分からんから、外に出てる人おるんなら家の中に入ってもらった方がいいと思うねん」


「すぐに連絡網を回そう」


「パキラの風魔法で、アスプレニウム様の声乗せた方が早いかも」


3人で顔を合わせ、屋敷の外に急いだ。

そして、外に出た途端、目を疑いたくなる光景に足を止めてしまった。

どこまでも続く黒い空が、瘴気の境目がないことを示している。


なんなん、これ。なんで空に瘴気が集まんの?

しかも、薄く広く集まるとか、絶対におかしいやん。

今まで見てきた瘴気と何もかも違う……ことないんか。


だってやで、薄暗く見えるところは薄かったんやろうし、今いてるテルゴルゴ地区の瘴気は大きかった。


でも、下手したら4ヵ国覆ってるんちゃうかって思うほどの瘴気が空にあるなんて、誰かがわざと集めたとしか思えんやん。


え? 瘴気って集められんの?

やったら、今までの瘴気も集められてたとか?


あーもー! 訳わからん!

けど、今うちがすることは分かる!


瘴気を消す。

もしくは、不死身の騎士をメッタメタにする。


瘴気を集めてるんなら、犯人は絶対に不死身の騎士やねん。

あいつ以外に、誰がこんなことするっていうんよ。

泣いて謝ってもズタボロにしちゃんねん。


アユカが考え事をしている間に、パキラの魔法でアスプレニウムの声は住民たちに届けられていた。




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