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アユカから連絡をもらったシャンツァイは、キアノティスに知らせるため通信石に魔力を流そうとした。
だが、それよりも早く通信石が鳴り響いた。
「正直に吐け」
繋げたシャンツァイが話す前にキアノティスの声が聞こえ、鼻で笑ってしまった。
焦っている様子も怒っている様子も感じられない。
いつも通りの声だった。
「なにをだ?」
「パキラだけじゃ足りないのか?」
パキラにキャラウェイの嫁宣言をされた日の夜に、キアノティスから連絡が入り、喚きに喚かれていた。
「パキラを奪うならアユカをくれ」と何度も言われたが、「嫌なら魔塔主を説得しろ」と突き放すと、泣き真似をしながら項垂れていたのだ。
「何度も言うが、俺が何かしたわけじゃねぇだろ」
「うううっ! それでもだ!」
シャンツァイが、小さく息を吐き出した。
「キアノティス、1人か?」
「ああ、1人だ。とりあえず、執務室を壊して全員追い払った。今はクテナンテの寝室だ」
「ったく。よく冷静に俺に通信してきたな」
「簡単だろ。誰にも見つからずに部屋から消えたんだ。パキラが何かするなら、アユカが関わっている」
「敵にも瞬間移動する奴がいるかもだろ」
「まぁ、いるかもな。で、シャンツァイ。何が起こっている」
シャンツァイは、アユカから聞いたことを話した。
アユカを探すために、仲がいいと思われる人たちを襲っているだろうこと。
キアノティス以外には、絶対に言わないでほしいこと。
クテナンテとペペロミアは、ウルティーリに来ることを。
「誰にもか?」
「誰にもだそうだ。イフェイオンには聖女ホノカのことだけを伝える。連れ去ったのがアユということは教えない」
「伝えていいのか?」
「元々、聖女ホノカを匿ってほしいと連絡があったんだ。それで、受け入れる予定だったからな。今回は、自分が迎えに行くって、アユが暴走しただけだ」
シャンツァイは、盛大にため息を吐き出した。
通信石も音を拾ったのだろう。
キアノティスの笑い声が聞こえてくる。
「聖女アニスは、すごい奴だよな」
「大人しくしてろって言ったのにな」
「俺も注意したぞ」
「疑ってねぇよ。何かやらかすとは思っていたからな」
「まぁ、何をやっても心配いらないだろ。魔塔主と元騎士団総督が一緒なんだからよ。それに、アユカは天才だ。今回の奇襲の予想もだが、リコティカスへの瞬間移動もだ。街に現れると分かっていても、相手側はどの街に現れるか分からなくて包囲すらできない」
「分かったところで包囲なんてできねぇだろ。突如現れて、奇跡を起こして、その場で消えるんだぞ。神の使いを捕まえるとなると、治してもらった国民が黙っちゃいない」
アユカの行動がよほど面白いのか、キアノティスはずっと笑っている。
確実に、お腹を抱えている。
「キアノティス、今日もアルメリアから手紙が届いたぞ」
「会いたいってか?」
「聖女を騙る魔女に国を乗っ取られそうで怖いんだと。国から助け出してほしいそうだ」
「どうして、そこで助け出してほしいになるんだろうな。アニスが消えたままのアユカだって、すぐに結びつきそうなもんなのによ」
「あれに、脳みそがあると思ってるのか?」
「いいや。アユカにまんまとやり返された、愚かな女だと思ってるよ。今回、クテナンテたちが消えたことも理解できないだろうな」
「アンゲロニアは、どうだ?」
「いまだに確信的なことは言わないな。というより、言葉を制限されているような感じだ」
「見張りがいるのか?」
「かもな。後、昨日の朝だが、イフェイオンから連絡があった。ホノカを匿ってほしいと言われたなら知っていると思うが、ホノカの力が無くなったらしい。モエカはどうだっていう確認だ。案の定、モエカも聖女の力を失った。ユウカが第1の被害者だったんだろうな。無事だといいが」
「そこは、アンゲロニアの采配を期待するしかねぇよ」
「だが、どうやって力を奪ったんだろうな。モエカとホノカには接触してるってことだろ。でも、護衛している騎士に話を聞いても、怪しい奴には会ってないって言うんだよ」
「それに関してアユが言うには、呪いの一種だそうだ」
「はぁ!? 呪い? アユカが解けたっていうのか?」
「ああ、聖女ホノカが実験体になって、薬を色々飲んだらしい。結果、貴重な薬で解けたそうだ。聖女の力は戻ったが、いつまた奪われるか分からないから黙っておく。ウルティーリが安全とも限らねぇからな」




