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2日に1回の頻度で、アユカとパキラはウルティーリに移動をしている。


昨日の夜もウルティーリに訪れ、隈が薄くなったシャンツァイに胸をときめかせ、泣きすぎて目が腫れていたキャラウェイの顔も可愛く戻っていて、楽しい夜を過ごすはずだった。


だが、アユカは昨日の夜から腹を立てている。


シャンツァイから、ホノカが護衛騎士に刺されたと聞かされたからだ。

話された直後は心配と不安が押し寄せてきたが、すぐさま別の護衛騎士が問題の騎士を殺したと教えられた。


ホノカは、アユカが渡していたポーションで助かったそうだ。


安心した後に湧き上がってきたのは、怒りだった。

「うちの親友に何してくれてんねん」と、拳を震わせていた。


そして、イフェイオンから「ホノカが聖女の力を失って立ち場が危ういので、ウルティーリで匿ってほしい」と、申し入れがあったと聞いたのだ。


「うちが迎えに行く」と言った時のシャンツァイの顔には、「そう言うと思った」と書いていた気がする。


「アニス、僕は用意できたよ」


「うちも完璧やよ」


アユカとパキラは、朝ウルティーリから戻ってきて、アスプレニウムに「こんなことがあったらしいねん」と話を聞いてもらいながら、朝食をたらふく食べていた。


今回アユカは、ホノカをウルティーリに届ける予定だが、どうせなら次に会いに行く時に一緒に行けばいいと思い、その間アスプレニウムの屋敷で過ごす許可をもらおうと思って話していた。

のだが……とめどなく憤りが増してきたのだ。


怒りに身を任せている間に、手の届く位置に朝食を準備され、話し終わる前に朝食を食べきってしまっていた。


アスプレニウムからは、快くホノカの滞在許可をもらっている。


本当はウルティーリから直接迎えに行きたかったが、アスプレニウムの許可が必要だし、そのままの姿では身元がバレてしまうので、変装をするために屋敷に寄ったのだ。


アユカは、計画した通りに、聖女アニスとして奉仕活動をしている。

護衛にはパキラとアスプレニウムがついてくれており、正体がバレないように3人とも仮面をつけ、ローブを身に纏っている。

その仮面とローブを取りに来たのだ。


リコティカスの国民の心を掌握するための奉仕活動は、パキラの瞬間移動でランダムに街に登場し、住民たちを癒している。

瞬間移動を用いているのは、拠点がアスプレニウムの屋敷になることと、騎士に待ち伏せされないためだった。


だが、そのおかげで、聖女というより神の使徒として噂が飛び交うようになってしまった、が特に気にしていない。

アユカがしたいことはアルメリアたちを追い込むことだから、自分がなんと言われようが関係ないからだ。


正体がバレないように3人とも仮面をつけているので、出だしはいつも怪しまれることが難点だが、治癒が始まると誰もが跪いて祈りを捧げてくる。


好感度がゼロから始まるよりマイナスから始まる方が、信頼や好意を持ちやすいというのは本当のことだと立証していた。


「私も一緒に行きたいが、帰りに4人になるのは神経を使うだろうからな。無事を祈って待っている」


「僕がいるんだから、誰も怪我しないよ」


アスプレニウムは、パキラに「よろしくお願いいたします」と頭を下げている。


「ホンマに腹立つわ。それに、犯人殺してどうすんよな。どうせならいたぶってから殺せや」


「慌てたのか、口封じのための共犯かだよ。ポリティモの王もそう考えて、聖女を他国に預ける選択をしたんだと思うよ」


「さっさと行って帰ってこよう」と言うパキラの手を取ると、慣れた浮遊感を覚えた後、景色はアスプレニウムの屋敷からホノカが救援活動をしているルクストブネトの街に変わった。


「ここが魔物の襲撃があった街なんだね。惨烈だね」


パキラの痛々しいという声に、アユカは唇を噛んだ。


アユカが活動をしていた、マトーネダルの街の被害が可愛らしく見えるほどの惨状なのだ。

戦争映画の一場面だと言われれば、納得する景色だ。


目を背けたくなる場所で必死で頑張っていただろうホノカを想うと、胸が苦しくなった。


「ねぇ、アニス。思ったんだけど、僕たち聖女ホノカに会えるの? 厳戒態勢を引かれてるんじゃない?」


「ん? パキラの透明になる魔法で攫おうと思ってたよ。命狙われてるんやったら、どこに行ったか分からん方がいいやん。衣装は念のためやよ」


「うーん、まぁ、面白いからいいけどね。消すよ」


アユカが頷くと、パキラは魔法を発動させた。

一緒に姿を眩ませるためにはパキラに触れてなければいけないので、手を繋ぎながら街だった場所を練り歩く。


ボロボロの服を着ている住民たちが増えはじめ、喧嘩をしている人たちも見かけだした。


朝食を配っている騎士たちの横を通り抜け、軍幕が設置されている区画にやってきた。

休憩をしている騎士たちの疲労が、目に見えて分かる。


騎士が出入り口の両側で待機している、一際大きな軍幕を見つけた。


パキラと顔を合わせ、頷き合い、パキラの魔法で突風を起こしてもらう。

騎士が咄嗟に目を閉じた瞬間に、滑り込むように軍幕の中に入った。


ホノカは椅子に座り、机に用意されている朝食を見つめたまま動かないでいる。

涙は流れていないが、泣いているように見えた。


アユカは、ホノカの横に移動をし、仮面を取ってからパキラと手を離した。


ホノカにとってはホラー以外の何者でもなく、椅子から飛び跳ねるような動きを見せた。

声は、驚きすぎて出なかったようだ。

代わりに、息を飲み込む音は大きかった。


「ホノカ様! どうされましたか!?」


騎士の1人が軍幕に入ってきたが、青い顔をしているホノカがいるだけだ。

不審者を探すように辺りを見回しているが、パキラに触れられているアユカが見えるわけない。


「ご、ご、ごめんなさい。大きな虫がいてビックリしたの」


「虫ですか? どこに?」


「虫も驚いたみたいで、逃げていったわ」


「分かりました。何かあったら叫んでくださいね」


「うん、ありがとう」


騎士が安堵したように息を吐き出した後、一礼をして軍幕から出ていった。




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