18
長かった帰路が終わるという前日の夜に、2個目の事件は起きた。
瘴気を消せたことが嬉しくて眠れなかったアユカは、あらゆる薬を錬成していた。
風邪薬や痛み止め、塗る痛み止めに傷薬、二日酔い止めや乗り物酔い止めなどを作った。
何より、万能だろうポーションは作れるだけ作っていく。
必要な素材が1本分しかなかったが、呪い返し薬も作った。
呪い消しじゃなく呪い返しにしたのは、ただ単に素材があったからだ。
素材を使い切る勢いで作っていると、なんとなく物音が聞こえた。
誰かがお手洗いに行ったんだろうかと思ったが、その割には近づいてくる足音がある。
それに、堂々と歩けばいい。
かすかに聞こえてくるなんて、おかしい。
錬成を止め、息を潜めて、耳を済ませた。
アユカのテントを囲むように止まった数個の足音に、唾を飲み込む。
落ち着け、アユカ。
ここで死んだら、また恋できへんままやで。
目を閉じ、小さく深呼吸して、どこにいるのか気配を読もうと神経を集中させる。
たぶん出入り口にはいてへんと思う。
やったら、駆け足で外に出て戦おう。
眠っているだろうみんなにも危険を知らせないとと思い、今日作ったばかりの竜笛を取り出した。
舐められたら困るわ。
何回、誘拐されてきたと思ってんねん。
その度に、どれだけしんどい修行させられたか知らんやろ。
大きく息を吸い込んで、1番高い音を響かせる。
夜の澄んだ空気は音を強く伝達するため、起こす合図にもなれば、相手を驚かせて隙を作ることもできる。
1呼吸分鳴らし終わったら外に駆け出し、電気(照明)の魔法『ラット』と叫んで辺り一面を照らした。
黒装束で目しか出ていない人たちが10人、眩しさで顔を顰めている。
「敵だー!!」
アユカが叫んだ時には、黒装束の人たちは数人地面に倒れていた。
「アユカ、無茶しすぎっすよ」
「そうだぞ」
倒したのはエルダーとグレコマだったようで、2人は話しながらも敵を斬っていく。
フラックスは、キャラウェイとマツリカを守りながら敵を倒している。
「あれ? そういえば、見張りの2人は?」と思考に引っかかった時、炎の玉が飛んできた。
「「アユカ!」」
火の玉は、アユカに当たる前に空中で弾け、白い光る粉になって消えていく。
アユカの手には、木でできた拳銃が握られている。
「なんすか? あれ」
「あー! いい、いい! アユカ様のことは気にすんな」
「はいっす」
火の玉を投げてきただろう驚いている黒装束の人に、銃口を向けた。
驚くよな。
聖女が戦えるなんて、ましてや人に拳銃向けるなんて思わへんもんな。
まぁ、本当は指先を向けたらホーリーガンは放てるんやけど、うちとしては指先よりも銃の方が狙いを定めやすいんよね。
やから、密かに木で作ってたんよ。
魔力の圧縮玉なだけらしいから、銃でもいけるって思ってな。
固まっている場合じゃないと動き出そうとした黒装束の人は、動き出す前にグレコマの風魔法で切られていた。
あっという間に立っている黒装束の人はいなくなり、エルダーたちは剣を収めている。
アユカも拳銃を巾着に入れ、緊張を解すように肩から力を抜いた。
「アユカ様!」
泣き出しそうな顔で駆けてきて、勢いよく抱きついてくるキャラウェイを受け止める。
「無事でよかった」
「キャラウェイ様も怪我してないようでよかったわ」
しがみついてくるキャラウェイの頭を撫でながら、辺りを見回す。
エルダーとグレコマが黒装束の人たちを縛り上げていて、フラックスは泣いているマツリカをあやしていた。
なんでやねん。
あかん。つい、ツッコんでもたやん。
「アユカ様、怪我してないか?」
「うちは大丈夫。それよりも見張りの騎士たちは無事なん?」
「今、エルダーが探している。殿下も無事ですか?」
「うん、僕も大丈夫」
「よかったです」
「副隊長! 見つけたっすー!」
馬車向こうから、エルダーの声が聞こえた。
どうやら見張りだった騎士2人は、縄で縛られた状態で眠っていたそうだ。
「護衛騎士失格だ」と、グレコマに叩き起こされていた。
ここに留まってこれ以上の襲撃も困るが、夜に移動する方が危ないらしい。
魔物は、夜の方が活発になるからとのことだった。
だから、魔物に会わなかったのかと、アユカは納得した。
騎士たちは高速移動しながら時折戦っていたのかもしれないが、アユカが出会った魔物はスライムとモンペキングのみ。
魔物で困っている世界に見えなかったのだ。
明るくなったらすぐに移動することが決まり、黒装束の人たちを木に結んだ後、朝が来るまで眠ることになった。
そして起きたら、アユカはテントから出してもらえなかった。
テント越しに聞いた説明では、生かしておいたはずの黒装束の人たちが全員死んでいたそうだ。
その死体を処置するまでテントからは出せない、と言われたのだ。
失敗した時の口封じなんだろうと想像できたが、誰が何の目的で襲ってきたのかが分からない。
とりあえず、会う人全員に鑑定をかけて警戒せーなな。
恋するまで死んでなるもんか。
と、気合いを入れて、ウルティーリ国の王城に向かう最後の日を過ごしたのだった。
明日からお城です。
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