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次に豪奢な宮に辿り着くと、庭園で優雅にお茶をしている一行を見つけた。
アユカは目を丸くして、「は?」と声に出していた。
「水色の髪の女が、アルメリアだよ」
へー、あの人がアルメリアかぁ。
めちゃくちゃ綺麗やん。クテナンテ様と張るくらいの絶世の美女やん。
しかも、体にちゃんと凹凸ありそうやん。
あれか?
絶世の美女って言われる人たちは、絶対ボンキュボンなんか?
あの美貌に落ちへんかったシャンは、やっぱり目がおかしいわ。
今度、目薬作ってあげよう。
「興味深いな。イレシネがいるとはな」
『アプザル』しているアユカには、もちろん全員の名前が分かる。
アスプレニウムが注目した女性へと、目を向けた。
あの黄緑色の髪の人か。有名人なんかな。
綺麗な部類に入るけど、アルメリアと並んでるからか、そこまで綺麗とは思わんな。
「イレシネって?」
「トックリランの娘だ。行方不明だと言われている」
「残りは、誰だろうね」
お茶会をしているのは、全員で4人だ。
そして、会ったことがある人物が4人の中にいる。
カッコ付き髑髏だったはずなのに髑髏に変わっていて、なんとも悲しい現実だ。
「ショートカットの女の子は分かるで。アンゼリカやわ。ウルティーリの魔術機関に属していて、瘴気の研究をしてる人物やわ」
「なるほど。そして、誰かは分からないけど、ポリティモの女性ね」
「アニス、もう少し蜂を近づけて」とパキラに言われ、東屋の柱の上に蜂を留まらせた。
蜂はきちんと音声を拾えるようになっているので、景色は柱になってしまったが、話し声を聞き取ることができる。
「アンゼリカさん、初めてですから緊張しますわよね。でも、イレシネもラペルージアも優しい方なので、緊張されなくて大丈夫ですよ。楽しく会話をしましょうね」
「はい。ありがとうございます」
「そちらの国の聖女のことで、進展があったと聞きましたわ。何か掴んだのですか?」
「ええ、その報告のためのお茶会なんでしょう」
「すみません。聖女様のことは、公表されているカルユレト地区の目撃情報しかありません」
「そうなのね。早く見つけなければいけませんのに、どこに隠れているのかしら」
「聖女のことでなければ、どうされましたの?」
「シャンツァイ陛下のことです」
「まぁ、シャンツァイ様のことですの」
「はい。アルメリア様にとって、いい話かどうかは分かりませんが……」
「なにかしら?」
「一昨日の夜、娼婦を宮に招かれたそうです」
ん? 一昨日? 娼婦?
アユカの隣で、パキラがソファを叩きながら笑っている。
「シャンツァイ様のそのようなお話は初めてですわ。確かですの?」
「はい。父が言うには、メイドたちが『こんな時に正気ですか?』と怒って陛下に抗議したそうです」
みんなに好かれてるって分かって嬉しいけど、それが真実を何も言われへんシャンを犠牲にして得たモノやと思うと……シャン、ごめん……今度からベッドが乱れんようにしよな。
「それで、陛下が『淋しい夜には、そんなこともある』と言われたそうで、今、宮殿内では対立が起こっているそうです。それで、父が『娼婦だからダメであって、婚姻を結ぶ相手なら問題ない』と、私を押しはじめたんです」
「失礼。あなた、アルメリア様のお気持ちをご存知よね?」
「もちろんです! 私は断っていますし、シャンツァイ陛下とどうこうなろうとは思っていません。早々にお伝えしようと思った理由は、アルメリア様ならシャンツァイ陛下を慰められるんじゃないかと思ったからです」
「それならいいんだけど」
「アルメリア様、どうされますか?」
「会いたいですが、手紙を送ったばかりですので今は待ちますわ。先に、チャービルからペンダントの在処を聞かなければいけませんしね」
「すみません! 私が取られてしまったばっかりに!」
「いいんですのよ。廃棄する勇気はないでしょうから、じきに見つかりますわ」
「まだ口を割らないんですか?」
「ええ、行方不明の妹を探してあげると言っているのに、首を縦に振らないんですよ」
ってことは、今チャービルは、めちゃくちゃ苦しんでるんやな。
アーティの無事も分からんし、ペンダントの在処を言うわけにもいかんしって。
ううっ、あんなに小さい子が耐えてるとか、辛い……辛いわ……
チャービルにアーティの安全を教えてあげたいけど、今は蜂やからな。
伝える手段なくて、ホンマにごめんな。
「あ、アルメリア様。まだご一緒したいのですが、お暇させていただきます。明日の夜に帰宅するためには、そろそろ出発しないと間に合いませんので」
「気になさらないで。夫人によろしくお伝えくださいね」
「はい。では、失礼いたします」




