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朝食後に応接室に移動し、水晶板に魔力を流して蜂の操作を練習した。
さほど難しくなく、5分もすれば慣れた。
しかし、アスプレニウムの家からリコティカス国の王宮まで蜂を飛ばすには、何日かかるんだろうという道のりだ。
とても険しい道のりだ。
ずっと操作をし続ければならないのだから。
それでも飛ばすしかないと腹を決めた時、パキラが「リコティカスの郊外まで、瞬間移動で蜂を運んであげるよ」と言ってくれたのだ。
アユカは、パキラに飛びつくように抱きついて、お礼を伝えたのだった。
「さぁ、覗き見ようじゃないか」
15秒もかからずアスプレニウム邸とリコティカス国を往復したパキラは、上機嫌でアユカの右隣に座った。
アユカの左隣にはアスプレニウムが腰をかけていて、3人で水晶板を覗き込むような体勢だ。
アユカが魔力を流すと、画面には枝や葉が映った。
どうやらパキラが瞬間移動した先は森だったようで、安全に蜂を置いて来られたんだと分かり安心した。
蜂が森を抜け、王宮だと思われる建物が遠目に映っている。
「めっちゃ大きいお城やん」
「そうだろうね。リコティカスの城はどの国よりも大きいはずだよ」
「お金持ちのフォーンシヴィよりもって、めっちゃお金持ちなん?」
「いいや、4ヵ国の中なら3番目だね」
そうなんか。
それでも、こんなに大きなお城建てられるんか。
「でも、資源は多いし、武具の売り上げは大層なものだろうから、どの国よりも裕福だと思うよ」
「裕福やのに、3番目なん?」
「資源が多いという裕福だからね。今みたいに武具にばかり頼らず、王がキアノティス並みなら、それこそフォーンシヴィを超えられる土地だよ」
蜂が王都に到達すると、画面を見ていた3人は顔を顰めた。
歩いている人がまばらなのだ。
街は寂れてしまっていて、まるで敗戦国のようにも見える。
だが、アユカが顔を顰めた理由は、そのことではない。
「最悪やわ。街の人ら、全員呪われるっぽい」
「「は?」」
蜂を操作して、窓から覗いた家の中にいる人たちは感染病で伏せっている。
「何の呪いかは分からんけど、病気と呪いのダブルパンチ状態やわ」
シャンが綺麗薬をあげたって言ってたけど、綺麗薬が行き渡らず、飲んだ人も効果が切れたら再感染するからな。
猛威を奮っているっていう言葉だけやと足りんほどやわ。
呪いにかかってるのは分かるけど、呪いの種類は分からんからな。
こんなん、全員死んで国が滅びてもおかしないで。
蜂は街を散策した後、王宮の塀の上を飛び、城内を映し出した。
騎士たちが談笑している姿や、使用人たちが忙しなく動いている姿が、街の様子と違いすぎて嫌悪感が湧き上がってくる。
「アンゲロニアは、王失格だね」
「こんな人と思わんかった」
「2人とも、まだ決まったわけではない。アンゲロニア王も手立てがないだけじゃないだろうか」
「それを望むわ」
アンゲロニアの様子を見るために主城を目指してもよかったが、見たいのは悪さを行っている中心人物の人たちだ。
なので、居住スペースだと思われる方向に、蜂を操作する。
こじんまりとした青色の宮が見え、手前の窓から順番に室内を確認していく。
すると、1箇所カーテンが閉まっている窓があった。
幸い隙間があり、中を覗くことができた。
「ユウカやん。何やってんの?」
薄暗い部屋で、ベッドの上で三角座りに顔を埋めて丸まっているユウカがいる。
ん? ユウカまで呪い受けてるやん。
しかも、赤文字で「異常発生中」って、なんじゃいな。
「アニスは聞いてないんだね。リコティカスの聖女は、治癒も浄化もできないそうだよ」
「はい?」
マジで言ってるんやんな。
鑑定では、聖女のままなんやけどな。
なんで、治癒も浄化もできへんなんてことになってんやろ?
やから、異常が発生中なんかな?
「使用人とは仲が悪いそうだよ。まぁ、おかしいほどに、リコティカスではアルメリアの人気が高いからね。アルメリアの病気を治せていたら、ただの女の子になったとしても爪弾きにはされなかっただろうね」
ユウカをじっと見ているが、動く素振りさえない。
その格好のまま、寝ているんじゃないかと思うほど微動だにしない。
「アルメリアは病気なん?」
「アニスが解明したっていう、魔力欠乏症を患っているんだよ。僕は信じてないけどね」
「なんで?」
「一般人に比べたら体は弱いと思うよ。魔法も使えないらしいしね。でも、あの難病にしては元気すぎるんだよ」
アルメリアって謎の人やわ。
人によって印象が違いすぎるんよ。
シャンたちは嫌ってるのに、国民からは支持があってさ。
使用人に人気があるから優しいのかと思えば、ユウカを助けようとはせんかったり、悍ましい事件を起こしたりして普通に人が死んでるんよね。
チグハグなんよな。
「自分の目で確かめるんが1番やわ」と、ユウカを見ていた蜂を移動させた。
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