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午前中アスプレニウムと一緒に畑仕事をしたアユカは、午後からはアスプレニウムと薬草の採取にダンジョンに出かけた。
人生2回目のダンジョンで、今回はアスプレニウムと2人だけでの攻略になる。
そう、2人だけのはずなのに、1回目よりもサクサクと潜っていき、15階まで身の危険すら感じず降りてきたのだ。
そのおかげで普段手に入れることができない薬草を、たんまりと採取することができていた。
パキラと約束した、ハイポーションとエーテルも問題なく作れる。
「え? このダンジョン、見つかったばっかやったん?」
「レベルも決まっていないダンジョンだな」
「レベルが決まったとしたら、どれくらいなん?」
「9くらいだろうが、ボスも歯応えなさそうだ」
んんんんんん? きゅー?
めっちゃ簡単に倒してたやん。瞬殺やったやん。
しかも、次の階にボスがおるって言うてなかった?
あれ? ボス倒したら、ダンジョン壊れるって聞いたような。
やから、資源調達のためにも敢えてボスは倒さへんダンジョンが多いって、説明されたはずやねんけどな。
それにやで、このダンジョンのおかげで特殊回復薬作れるようになってんで。
ていうても、必要な材料はどれもほんの少ししか生えてなかったから、数個作れたらいいくらいやけどな。
そのことからも分かるように、特殊回復薬は貴重な最上級の薬なんよ!
このダンジョンは宝の山なんよ!
「ダンジョン壊していいん?」
「フォーンシヴィでは、レベル7以上のダンジョンは壊しているんだ。気持ちが大きくなりすぎた冒険者が無茶をするのを防ぐためにな。身分証の提示さえすれば入れるから、時々馬鹿な奴らがでてくるんだ」
なるほどなぁ。無駄死にを防ぐためなんやろうな。
やったら、うちが何か言う立場ではない。
ささっと壊してもらおう。
「ダンジョンのボスが落とす宝石は高値で売買される。アニス嬢に受け取ってほしい」
「いいん!? めっちゃ嬉しい! 今は無理やけど、ウルティーリに帰る前に街の人ら全員健康にするから」
「いいのか?」
「いいよ、いいよ。貴重な宝石もらうお礼には足りんくらいやわ」
アスプレニウムからすれば、ダンジョンのボスの宝石が、クテナンテたちや瘴気の浄化のお礼になればという想いだった。
なのに、アユカはお礼にお礼を返そうとしてくる。
大変な目に遭っているのに笑顔を絶やさない小さな少女に対して、彼女が幸せでいられるように手を貸そうと強く誓ったのだった。
そんなことを想われているとは微塵にも予想できないアユカは、ボスが落とした宝石を見て、全身で喜びを表現していた。
宝石を両手で持ち上げ、頬を擦り寄せたのだ。
この宝石、鑑定ではインバーテルの心臓って表示されるんやけど、なんと! エリクサーの材料やって。
エリクサーって伝説上の代物やん。
よく錬金術師の夢とか目標で物語に登場するヤツやんな。
すごくない? すごくなーい?
とまぁ、喜んだのは喜んだんやけど、他の材料が揃ってないんよね。
それに、作れるってことを知れたんは嬉しいけどさ、エリクサーって不老不死ちゃうかったっけ?
今まさに不死身の騎士相手にゴチャついてんのに、その歴史を繰り返すようなもん作られへんわ。
やから、もう1個表示された「レットラ」っていう薬を錬成してみよ。
何の薬なんかは分からんけど、エリクサーの材料を使うんやから腰抜かすような薬やと思うんよね。
楽しみやわー。
頬を擦り寄せて瞳を輝かせているアユカを見て、アスプレニウムは何度も頷いていた。
アユカが宝石好きだと、アスプレニウムが思い込んでしまった瞬間である。
その日の夜に次から次へと錬成したアユカは、錬成したばかりのレットラを『アプザル』して首を傾げていた。
【呪いを無効化し戻す】という説明文に、「呪い返しと何が違うんやろ」と思いながら空間収納に片づけたのだった。
今日もダンジョンに行くかどうかを、アスプレニウムと話していると、瞬間移動でパキラがやってきた。
来るなり、ご飯の用意をさせ、アユカたちと朝食を共にしている。
「アニス、本当に待たせて悪かったよ。最終調整に戸惑っていたみたいでね。僕が手を加えたから完璧だよ」
ドヤ顔をしながら渡されたのは、小指の爪ほどの蜜蜂と15センチ正方の水晶の板だった。
水晶の板には、赤い丸が4辺の中央それぞれについている。
「水晶に魔力を流せば、蜂が飛ぶよ。赤い丸を触れば、蜂は上下左右に向きを変えるから」
「すっごー! マジで凄すぎて頭が上がらんわ。パキラがおってホンマによかった」
「だよね、だよね」
拍手をして褒め称えるアユカに、パキラは椅子に仰け反るように胸を張っている。
「アニス嬢は、それで何を見たいんだ?」
「リコティカスのお城と城下町やよ」
賑やかな食卓を楽しみながら質問をしてきたアスプレニウムは、アユカの答えに飲み物が変なところに入ったのか咽せている。
パキラは、アユカの答えもアスプレニウムの反応も面白いようで、お腹を抱えて笑い声を上げている。
「うちな、今回ばかりは許すつもりないねん。シャンに心労を負わせたし、シャンが大切にしてる国民を傷つけた。その身を持って償わせちゃるねん。
でも、シャンやキアノティス様には内緒やで。うちのやり方で地獄を味合わせるんやから」
黒い笑顔で「フッフッフッフ」と笑うアユカに、パキラも悪巧みをしているような顔で笑っている。
「楽しそうだから協力するよ」
「私も微力だが手伝うよ」
2人が一緒に戦ってくれるんなら鬼に金棒やわ。
絶対に負けへんやん。
でも、武力で簡単に勝つのは嫌なんよな。
色んな人を利用して、傷つけてきた罪は重たいって分かってもらわなあかんからな。
まずは、リコティカスの内情を知る必要がある。
犯人の顔を拝ませてもらわなな。




