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「後、キャラウェイをフォーンシヴィに移住させたくないから、住むんはウルティーリになる。出勤は毎日瞬間移動になるし、もし戦争が起こったらキャラウェイを優先してもらう」


「僕が嫁になったら、僕のものになるしね。世界を滅ぼしてでも守るよ」


ホンマに根絶やせる力あるからな。

これで、キャラウェイは寿命以外では死なへんな。


「後、最大の壁だろうキアノティス様は、パキラが説得してな」


「そんなことでいいの?」


「パキラの人となりは知ってるし、うちはパキラが好きやから家族になれるんは大歓迎やよ。キャラウェイのことを幸せにしてくれると思うしな。

ただ、パキラは天才魔法使いやん。ウルティーリの王族と婚姻ってなると、しがらみが巻きつくことになるやん。それにキャラウェイを巻き込みたくないんよ」


「アニスは、まだ僕を分かってないね。僕はキアノティスより偉いんだよ。僕に意見できる人間なんていないんだから」


そっか。なら、2国間の問題は丸投げしよう。

それに、こっちで働いてほしいって言うてるわけちゃうしな。

所属は魔塔のままやから、シャンに余計な仕事は増えへんやろ。


「これが最後というか、試験になる」


「よし」


「結婚はキャラウェイと仲良くなって、キャラウェイからパキラにキスしたいって思ったらになる。キャラウェイの発情期やパキラが誘導してのキスはカウント外やから」


「あああ姉上!」


「僕の天才的な頭では解決できない問題だね」


真っ赤になって慌てふためくキャラウェイとは正反対に、パキラは実験中の問題定義の道筋を考えているような雰囲気だ。


「形がない心は、人のものなのに人では解読できないものだからね。それを証明するように、僕の胸はキャラウェイを見るたびに弾むという珍妙な現象を起こしている。これが、愛というものなんだろう。キャラウェイを弄りたい食べたい捏ね回したいと思うのは、本能が目覚めた証拠なんだろうね」


めっちゃ怖いこと言いますやん。捏ね回したいって、何ですの?

研究材料をいじくり回すサイエンティストの言葉に聞こえるんは、うちだけなんやろうか。

まだ子供のキャラウェイの教育にはよくないけど、ヤラしい意味であってほしいと思うわ。


ってか、本能を目覚めさせんといて。

天才魔法使いの本能なんて、世界滅亡のカウントダウンにしか感じられへんから。


まぁ、でも、これがパキラの愛情表現なんやろうな。

めっちゃ独特やけど、キャラウェイへの恋慕は感じるから上手くいってほしいと思うよ。

優しすぎるキャラウェイには、パキラのように引っ張っていってくれる人が合いそうな気がするしな。


「では、キャラウェイ」


「は、はい」


パキラが、キャラウェイに向かって手を差し出している。


「僕は今から君の婚約者だ。これから親睦を深めていこう」


「えっと、その、頑張ります」


キャラウェイは、アユカと繋いでいない方の手を、パキラの手の上に乗せた。

すると、パキラはキャラウェイの指先に口づけをした。


その姿が童話に出てくる騎士のように見え、アユカは叫びたいほど胸を躍らせている。


「キスしたくなったら、いつでも歓迎するよ。僕が襲う前に襲ってよ」


「……カッコいい」


キャラウェイの惚けるような呟きは、一般の耳を持つアユカに届いている。

ということは、シャンツァイとパキラにも当然聞こえている。

シャンツァイは笑いを堪えているし、パキラは顎を上げて満更でもない表情だ。


「そうや。これから、うちが数時間だけ帰ってくる時はパキラは絶対一緒やから、その時にキャラウェイとパキラのお茶の時間を設けたらいいんちゃん」


「姉上、やっぱり何処かに行かれるのですか?」


涙を溜めるキャラウェイを見て、パキラが「僕のライバルはアニスなのか」と漏らしている。


「詳しいことはシャンに教えてもらって。そろそろ本当に消えなあかんから」


「分かりました……」


アユカはしゃがみ、キャラウェイを柔らかく抱きしめた。


「うちは元気に生きてるし、しょっちゅう夜中に帰ってくるから安心して。んで、全部解決したら、街に買い物に行ったり、森に出かけたり、ご飯一緒に作ったりもしよ」


「はいっ、待っています」


キャラウェイの頭を撫でながら、アユカは立ち上がった。

廊下から、メイドや侍従が歩いている足音が聞こえはじめる。


アユカは、シャンツァイとキャラウェイから離れ、パキラと手を繋いだ。


「姉上、パキラ様。無事でいてください」


「呼び捨てでいいよ」


「キャラウェイも無事でおってな。シャンも無茶したらあかんで」


「アユ、大人しくしてるんだぞ」


「うちは大人しいわー」


拗ねたようなアユカの声を最後に、アユカとパキラの姿は影さえも残さず消えてなくなった。


聞いていた通りの夢物語と思うような移動を目撃したシャンツァイは顔を強ばらせ、瞬間移動の言葉さえ知らないキャラウェイは両手で目を擦っている。


「兄上……姉上たちは?」


小さく息を吐き出したシャンツァイが、キャラウェイの頭に手を置きながら答えた。


「魔塔主の魔法だそうだ」


「……本当にすごい方なんですね」


「お前の婚約者だろ」


「ほ、ほんとうにこんやくを」


「キャラウェイ、覚悟を決めろ。あのタイプからは決して逃げられないからな」


「わ、分かりました。幸せにできるよう頑張ります」


キャラウェイの頭を優しく撫でながらシャンツァイは、「こいつも苦労するだろうな」と苦労することが楽しいかのように、かすかに微笑んだのだった。




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