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アユカたちは、誰にも見つからないように、アスプレニウムの屋敷に戻らなければならない。

そのため、夜明け前にシャンツァイに起こされていた。


ほとんどの時間をイチャつきに使って、睡眠時間が短かったアユカは、半分眠りながら着替えている。

盛大に欠伸をした時に、同じくシャンツァイに起こされただろうパキラが部屋にやってきた。


「パキラ、おはよう」


「おはよう。こっそり帰るにしても、こんな朝早くになるとは思わなかったよ」


「悪いな。アユが早く見つかるようにって、早朝からミナーテ様に祈祷する奴らが多いんだよ」


「そうなん!? 嬉しいわ。帰ってくる時にはお土産いっぱい買ってくるな」


「なくていい。みんな、アユが帰ってきてくれるだけで嬉しいんだから」


シャンツァイに頭や頬を撫でられ、幸せそうに顔を溶かしているアユカを見て、パキラが小さく息を吐き出している。

短時間しか糖度が高いやり取りに遭遇していないのに、パキラはもう胸焼けを起こしそうだった。


「だったら、早く戻ろうか」


「待ってくれ。本来はダメなんだが、1人アユに会わせたいんだ」


「これが王とか呆れた。広がったらどうするの?」


「大丈夫だ」


シャンツァイの言葉に被るようにドアがノックされた。


「1人で入ってこい」


「はい!」


ん? この可愛い声は……


ゆっくりと開いたドアから、おずおずとキャラウェイが姿を見せた。

まるで叱られる前の子供のように、小さくなりながらドアを開けている。


「あ一一


「キャラウェイ、ドアを閉めろ」


大声を出しそうだったキャラウェイが、両手で口を隠し、大きく何度も頷いている。

ボロボロと大量に涙を零しながらドアを閉めたキャラウェイが、アユカを目指して駆けてきた。


「姉上!」


アユカは腰を落とし、飛び込んできたキャラウェイを抱き止めた。


「無事でよかったです!」


「うん、心配してくれてありがとうな」


「とても会いたかったです」


「うちも会いたかったから、会えてよかったわ」


「え? ……どこかに行かれるのですか?」


不安を顔いっぱいに広げて見上げてくるキャラウェイの涙を、アユカは服の袖に吸い込ませていく。

アユカが説明をしようとする前に、隣から奇声が発せられた。


「なんだい! なんだい! この愛くるしい生き物は!?」


パキラだ。

キャラウェイを見ながら頬を染め、体を震わせている。


「あ、姉上、あの、こちらの方は?」


「キョトン顔も最高に可愛いね。君は僕の好みのようだ」


んーっと。今、何が起こってるんやろか?

よく分からんけど、キャラウェイの涙が止まったからいっか。

キャラウェイが可愛いんも、ホンマのことやしな。


アユカは立ち上がり、キャラウェイと手を繋いだ。

離さないというように強く握られ、アユカから笑みが漏れる。


「キャラウェイ。その方は、アユに力を貸してくれているフォーンシヴィの魔塔主だ。挨拶を」


アユカはパキラの存在を知らなかったが、パキラはきっと物凄く有名なんだろう。

キャラウェイが口を半開きにして困惑しながら、アユカとパキラを交互に見ている。


アユカは、シャンツァイの言葉を肯定するように、微笑みながら頷いてみせた。


「え? え? こんなに可愛らしい方が魔塔主様なんですか? ぼ、ぼく、ウルティーリ国国王陛下であらせられるシャンツァイ陛下の実弟でキャラウェイと申します。姉上であるアユカ様を助けていただき、誠にありがとうございます」


アユカと手を繋ぎながらも、繋いでいない方の手を胸にあて、小さくお辞儀をしている。


パキラは、両手を頬に当てて、キャラウェイの一挙手一投足を見逃さないように瞬きさえしていない。


アユカがキャラウェイではなくパキラを見ていたら、「そのうちビーム出そうやな」と思ったに違いない。


「確かに僕はアニスを助けているし、今後も助ける予定だよ」


大きくニヤけているパキラが、シャンツァイに視線を投げた。


「シャンツァイ。お前は、昨日僕にお礼をすると言ったよね」


「言ったな」


「では、キャラウェイの嫁の座をもらうよ」


は? はぁぁぁぁ?

いやいや、シャンってば笑ってる場合ちゃうで!

キャラウェイの目玉、落ちそうやん。


落ちたらハイポーションで治してあげるからな。

って、ちゃうちゃう。落ちる前に、はめ込んであげらなやったわ。


「いいよね?」


「俺としては、王族の嫁としては申し分ないし、キャラウェイに婚約者はいないから問題はない。だが、残念ながらキャラウェイの嫁を決める権利は俺にはないんだ」


「お前が、この国の王じゃないか」


「この国の王は俺だが、キャラウェイの嫁を決める権利はアユにある。嫁として相応しいか試験をするって言ってたしな」


言うた! 確かに、うちがそう言うた!

でも、こんな形で、まだ小さいキャラウェイのお嫁さんを決めるとか思ってなかったって。


「試験か。まぁ、僕には簡単だろうからね。アニス、出してみて」


「あー、ちょっと待って。試験の前に確認したいことがあるんやけど」


「ん?」


「まず、見た目。パキラは自由に変えられんの?」


「どんな風に変えればいいの?」


「キャラウェイと同じように年をとるとかはできるん? 同じちゃうくっても、似たような年齢でいいんやけど」


ずっと今の姿のままっていうんも問題ないんやけど、一緒に成長できるんなら成長したいと思うと思うんよ。

うちの理想の押し付けで申し訳ないけど、お互いの手がシワシワになっても手を繋いでるって素敵やからさ。


「可能だよ。何歳がいい?」


「キャラウェイと同じ11歳で、毎年一緒に1歳ずつ増やしてほしい」


「簡単なことだね」


パキラが指を鳴らすと、瞬きの時間でパキラが子供になった。

どこからどう見ても、10歳前後の女の子だ。


マジで、天才魔法使い半端ないわー。




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