181
パキラを見送った後、ドアが閉まるなり、アユカとシャンツァイは強くキツく抱きしめあった。
2人とも、愛の言葉以外、口から出てこない。
互いを求め合い、熱い吐息と体を交じらわせ、溶けるように重なり合った。
「髪の毛、切ったんだな」
本気で体当たりした遊戯が終わり、シャンツァイがくすぐるように毛先を触ってくる。
「うん、こっちの方がバレにくいと思って。長い方がよかった?」
「髪型なんて何でもいい。アユに似合わねぇ髪型なんてないからな」
ぐはっ! 久しぶりの甘すぎる言葉に、心臓止まるかと思った。
「シャンに可愛いって言ってもらえるんが、1番嬉しいわ」
「本当のことだからな、何度でも言ってやる。アユだけが可愛いよ」
少し恥ずかしくて照れたように微笑むと、シャンツァイに柔らかいキスを落とされる。
2人は寄り添いながら、会話を楽しむことにした。
「魔塔主が使った瞬間移動というのは、誰にでも使えるのか?」
「魔力が多かったら使えるって。うちは使えるって言ってもらえたよ」
「そうか。俺も使えたらいいんだがな。そうすれば、俺からも会いにいけるだろ」
「嬉しいけど、シャンが動くとなるとバレやすくなるからあかんよ。それに、この事件が解決したら、ずっと一緒におれるやん。瞬間移動なんていらんよ」
「それもそうだな」
シャンツァイになぞるように触られ、くすぐったくて笑い声が漏れてしまう。
可笑しくて笑うのはもちろんなのだが、頬を緩ませているシャンツァイにつられてというのもある。
「そうや! パキラが教えてくれてんけどな。映像付きの通信石が完成してるんやって。買えるようなら買って、シャンにプレゼントするな」
「……映像か」
「イヤ?」
「違う。声だけでも会いたくて仕方がねぇのに、触れない映像なんて、もっと会いたくなるなと思っただけだ」
あっかーん! シャンと離れている間に、うちの恋愛経験値が減ってる!
中級者にまで成れたはずやのに、初心者に戻ってしまってる。
絶対、心臓の音シャンに聞こえてるわ。
その証拠に肩揺らして笑ってるもん。恥ずかしいわー。
「うちも会いたくなると思うから、夜の瞬間移動だけで我慢するわ」
「なぁ、アユ」
「ん?」
「この事件が終わっても、国内は慌ただしいままだと思う。復興しないといけない街もあるし、外交問題も山積みだ」
「そうやね。うちもマトーネダルの救助活動に復帰したいし、まだ行けてない孤児院にも行きたいしな」
「アユはやりたいことをすればいい。でもな、何よりもまず、結婚式を挙げるぞ」
「け、っこん、しき?」
「そうだ。今更、俺と結婚したくないって言っても逃さねぇからな。覚悟しろよ」
「逃げへんよ! シャン以外に好きな人おらんもん!」
言いながら起き上がったアユカの頬を撫でながら、シャンツァイも体を起こした。
「結婚式は落ち着いてからって言ってたから、ビックリしてん」
「俺もそう思ってたけど、なんかもういつ落ち着くんだって状況だろ。過労で倒れそうな日々になるはずなんだよ。そんなもん、名実ともにアユが俺のじゃねぇとやってらんないだろ」
「そっか、うちはシャンの聖女やからね。シャンを誰よりも癒すんが生き甲斐やもんな」
「俺も、アユを笑顔にすることが生き甲斐だよ」
どちらからともなくキスをして、シャンツァイがアユカの腰に腕を回した。
アユカが、もたれるように頭をシャンツァイの肩に預ける。
「後、ペペロミアと遊ぶアユを見て、俺たちの子供がほしいなと思ったんだ。アユとの子供は可愛いだろうし、家族が増えるのは楽しいだろうからな」
「うん。シャンとならめっちゃ幸せな家族になれるって、うち確信してるねん。やから、めっちゃ嬉しいわ」
子供かぁ。
シャンがそこまで考えてくれてるなんて、うち愛されてるわー。
いや、うちの方がシャンのこと愛してるけどな。
でもでも、漠然としてた結婚がはっきりとした形になってきたから、こう、なんていうか、むず痒いというか気恥ずかしいというか。
あああ! 嬉しい! 幸せすぎて怖い!
って、ホンマは怖くないけど言ってみたかっただけ。
うちが言える日が来るなんて、シャンには感謝やわ。
まぁ、うちは「幸せは噛みしめろ」派やから、今めちゃくちゃ噛みしめてる! 幸せやわー。
結婚かぁ。
こっちの世界の結婚式って、どんな結婚式なんやろか?
ウエディングドレスなんかな? 指輪の交換あるでな?
結婚指輪は2人で決めて……
「ああああああ!」
「……どうした?」
「指輪! シャンからもらった指輪!」
「分からねぇが、泣くな。指輪がどうしたんだ?」
突然、大粒の涙を流しはじめたアユカの頬を、シャンツァイは驚いたり慌てたりせず優しく拭ってくれている。
「誘拐された時に取られてん。うちの指輪やのに。あいつら、マジでボコボコに殴っちゃんねん」
「そんなことか」
「そんなことちゃうよ。シャンからもらった指輪やのにー」
「泣くな。指輪はグレコマが持ってくれてる」
「へ? なんで?」
「誘拐犯が、アユの髪の毛と一緒に置いてったんだよ」
「そうなんや。よかったわ。あいつらは急所を蹴るだけにしとくわ」
体から力を抜くように柔らかく言うアユカに、シャンツァイは肩を揺らして笑っている。
殴るから蹴るになっただけで、何も変わっていないことが面白いのだ。
ただ、アユカがどう言おうと、シャンツァイは誰1人として許すつもりはない。
奈落の底に落とす前に、アユカが蹴れるよう取り計らうだけだ。
首を傾げるアユカを軽く抱き寄せ、触れるだけのキスをした。
「久しぶりに、ゆっくり眠れそうだ」
「おやすみ」を言い合い、速攻で眠りに落ちたアユカを抱きしめて、シャンツァイも深い眠りに誘われていった。
いいねやブックマーク登録、ありがとうございます。
読んでくださっている皆様、本当にありがとうございます。




