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いよいよ明日、ウルティーリ国のお城に着くというところまでやってきた。

気まずい雰囲気は続いていて、休憩時間に空を見上げることが日課になっている。


「早く休憩にならへんかなぁ」と窓から景色を眺めていたアユカは、黒っぽい灰色の部分が1部あることに気づいた。


奇妙に感じて、昼食時にエルダーに尋ねてみたら、瘴気が漂っている場所だと教えてくれた。


「ほら。この川の向こう側も、ほんのり黒いっす」


言われてみれば、川向こうだけ曇っているように見えるし、草も木も生気がないような気がする。


「濃くなったら、植物は枯れるし、魔物すら死んでしまうっす」


「聖女やとアレを払えるんやろ。どうやって払うん?」


「歌って聞いたことあるっすね。シャンツァイ様なら知ってると思うっす」


「誰?」


「シャンツァイ様っす」


やから、それが誰かって聞いてんやけど……まぁ、いっか。


「折角やし、やってみよっか」


「今、歌うんすか?」


「どうせ払うために、ここに来ることになるんやろ。やったら、今払えたら来んでよくなるやん。効率いいやん」


って言っても、うち下手くそなんよなぁ。

それを大声で歌うんはなぁ。


うーん……


歌ってことは音楽ってことやから、楽器でもいいんかなぁ。

じいちゃんの趣味で、日本楽器は一通り叩き込まれたんよな。


うん! 木はあるから楽器作ろう!


1番好きなんは三線やけど、弦になりそうなもんないから竜笛にしよう。

本来は竹やけど、木でもいけるやろ。


「アユカ、どこ行くっすか?」


「楽器作ろう思って」


「歌うんじゃないんすか?」


「ふふん」と悪戯好きっぽい顔でエルダーをかわし、太い枝を伸ばす木を探した。


これでいいやろ。

枝、もらうな。

ごめんやで。ありがとう。


木の枝で竜笛を作り終えた時、お手洗いに行っていただろうキャラウェイが寄ってきた。

護衛についていたと思われるフラックスは、マツリカに向かって歩いてる。


「アユカ様、それは何?」


「横笛やよ。これで瘴気払えるか試してみよう思って」


「見てみたい!」


期待に満ちた顔をしているキャラウェイと一緒に川辺に戻ると、エルダーがグレコマを呼んできていた。


「俺1人じゃ対処できないっすから」


「問題なんて起こさへんて。実験するだけなんやから」


「意味不明なことが起きるかもっす」


「まぁ、どうすれば払えるかは、伝承でしか聞いたことないはずだからな。本当に音楽で払えるんなら証人は多い方がいいだろう」


「でもさ、1つ問題に気づいたねん。ここで吹いても遠くまで届かんと思うねん。向こう側に行くにしても橋がないと無理やん。どうしよっか」


「向こうに行っちゃダメだよ、アユカ様! 瘴気は、魔物さえも死んじゃうんだよ。アユカ様も死んじゃうよ」


そういや、さっきエルダーも言うてた気がする。


「風魔法で飛ばしてみるか」


「風魔法って、そんなことできるん?」


「どうだろな。でも、笛だって試すだけだろ。風魔法だって試していいだろ」


「そやね!」


うち、キアノティス様と恋できるかもと思ってたけど、今後会うかどうか分からんし、グレコマのこういう発想大好き。

いい筋肉してるしな。

グレコマ、優しいし明るいしな。

ウルティーリ国に住むなら、グレコマ狙い目やな。


的が絞れ目標が決まったアユカの心は、晴れ渡るように軽くなった。

今なら何でもできる気がして、自信に満ちた瞳で川向こうを見据える。

真っ直ぐに立ち、竜笛に唇をつけた。

楽譜は体が覚えていて、吹けば指が勝手に動いてくれる。


瘴気無くなれー! って、思いながら吹いた方がいいんかな?

思わんより思った方がいいよな。


音を奏ではじめたら、グレコマが起こしただろう風を感じた。


竜笛は、雅楽の演奏に使われる横笛で、天と地の間を飛翔する竜の鳴き声にたとえられる楽器だ。

軽やかで、力強く生き生きとした音色をしている。


目を閉じて音に集中しているアユカには見えていないが、生命力が溢れている音は自由気ままに舞うように瘴気を消していった。

濃度を薄めていくように、段々と景色がはっきりと見えるようになっていったのだ。


そして、活力が降り注いでいるように、草木が色鮮やかに蘇っていく。


幻想的であり神秘的でもある光景は、見ていた者全てにアユカが聖女であると知らしめる事象だったに違いない。


吹き終わると、キャラウェイから拍手をもらった。

尊敬の眼差しで見つめてくるキャラウェイに少し面映ゆくなり、照れたように微笑む。


家族や組員以外から純粋に褒められたのは、教えてくれていた先生以来だ。


「マジか……」


「マジっすね……」


呆然と信じられないという表情をしているエルダーとグレコマは、川向こうに顔を向けている。

吹き終わったことにも気づいていなさそうだ。


キャラウェイの拍手や顔から成功に近いものを感じていても、本当に浄化できたんだろうかと心拍数が上がっているアユカは、窺うように川向こうを見て詠嘆の声を上げた。


薄暗かった川辺や奥に見えていた森は、瑞々しい光を纏っているように見える。


「やった! 綺麗になってる!」


「うん、本当にすごいよ! アユカ様!」


弾んでいる元気な声と、アユカとキャラウェイがハイタッチした音に、エルダーたちの意識が戻ってきた。

そして、腹の底から湧き上がる感動と喜びからか雄叫びを上げ、飛び跳ねるようにアユカとハイタッチをした。


キャラウェイが「僕も」という風に、エルダーたちとハイタッチしている。


歌わんでも瘴気消せてよかったー。

歌詞全部覚えてる歌なんて、星マークがあるボールを集める戦闘漫画の、陽気で力強いあの歌しかなかったからね。

うちではあの歌の良さを伝えられへんから、竜笛で消せて本当によかったわ。


ハイテンションの4人も、それを静かに見ていた4人も、8人の様子を窺うように隠れていた黒装束の集団には気づいていなかった。




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