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「あの、状況を確認させていただいてもよろしいでしょうか?」


クテナンテだ。

もう冷静さを取り戻したのか、瞳は真っ直ぐアユカとパキラを見据えている。


「僕、お腹が空いた」


「直ちに用意させます」


クテナンテが机に置かれている手持ちのベルを鳴らすと、廊下で待機していたメイドが部屋に入ってきた。

いなかったはずのパキラの姿に一瞬立ち止まっていたが、すぐさま腰を折っている。


頭を下げるメイドに新しいお茶とお菓子の用意をクテナンテが指示している間に、アユカとパキラはソファに腰を下ろした。


もう大丈夫と判断したミーちゃんが、アユカの肩に戻ってくる。


「懐きすぎだよね」


不貞腐れながらも、ミーちゃんの頭を撫でるパキラの手は優しいのだろう。

ミーちゃんは、頭を差し出すような形で撫でられている。


微笑んだパキラの視線が、机の上に置かれている古びた本で止まった。


「これ、聖女の本かもってやつ?」


「はい。アニス様にお持ちしました」


「へー、アニスならって思ったんだね。どうだったの?」


「ドロドロやったわ」


「「え?」」


もちろん、クテナンテとパキラの「え?」は異なる。

クテナンテはアユカが読めた上での意味が分からない「え?」に対し、パキラの「え?」は読めたと言ってるようなアユカに対しての一言だからだ。


「すごいね。アニスは本当に愉快だよ」


パキラが続けて内容を聞こうとした時、メイドがお茶とお菓子を運んできた。

机いっぱいにお菓子を並べて、1杯目のお茶だけは淹れてくれ、静かに退出している。


パキラはフィナンシェを食べながら、可笑しそうに目を細めてアユカを見てきた。


「どんな内容だったの?」


「日記やったけど、ほとんどは好きな人の話やった」


「有益な情報はなさそうだね」


「そうでもないよ。もしかしたら、というか、確実に今回の黒幕やわ」


「どういうことでしょうか?」


「なんかな、聖女様の好きな人は聖女様の護衛騎士やってんけど、婚約者がおったらしいねん。んで、聖女様がアタックしても靡かんかってんて。でも、周りが味方してくれて結婚できるようになったらしいわ。やけど、結婚式の日に騎士と元婚約者は心中してな。その時に使った魔法が蘇りの魔法なんやって」


ホンマにありえへんわ。

人の恋路を邪魔する奴は、馬に蹴られたらいいねん。


そりゃ好きな人と結ばれへんのは悲しいし、辛いと思うよ。

うちは、シャンのおかげで経験ないけど。


やからって、告白して振られたんなら、潔く諦めるべきやねん。

どうせ当て馬にしかならへんって、余計に悲しいやん。

傷を増やす必要ないねん。


だってやで、それで靡くような奴なら不誠実ってことやん。

付き合えたとしても、同じようにどっか行くかもやねんから。


スパッと諦めるんがってか、そもそも婚約者おる人を好きにならんかったらよかったのにと思うけど、気持ちって動いたらしゃーないんか?


ううん、しゃーないことないわ! 対象から外せや! やわ。


「アーニス! 聞こえてる? アニス!」


「へ?」


「あ、戻ってきた」


「ごめんごめん」


恋愛中級者のうちが出せる答えは、主観しかなかったわ。


「だからね、それが黒幕と、どう関係があるの?」


「騎士が自分を裏切って死んだことで泣き狂ったらしいんやけど、諦められんくて持てる全ての魔力を注いで蘇らせたんやって。でも、1人だけ生き返りたくなかった騎士は、聖女様を責めたらしいわ。結婚しようとしたんも元婚約者を人質に取られてたからで、地獄のような日々やったって。自分にとっては聖女ちゃうくって悪魔と一緒やったって言われたんやって。


まぁ、恨み辛みを言われても、好きな気持ちは変わらんかったみたいやけどな。


で、騎士は生きていたくなくて死のうとすんねんけど、死なれへん体になったっぽい。息せんくなっても、どれだけ血を流しても、数分後には生き返ったんやって」


「聖女の魔法が消えないで残ったままということだね」


「そうみたい。でもな、死ぬ度に変化は起こったらしいわ。生き返ると、消えへん傷が必ず1つ増えてるんやって」


「それは……」


クテナンテが唾を飲み込み、パキラは「愉快だね」と妖しく笑っている。


「犯人を予測できましたが、困りましたね。まさか不死身だとは……」


「どうして? 面白いじゃない。どこまで切り刻めば死ぬんだろうね」


パキラの顔、ヤバいなぁ。狂気じみてるやん。


「直ちに、陛下にお伝えいたしますわ。対策が必要になりますもの。それと、パキラ様が新しい魔法を編み出されたことも報告いたします。よろしいでしょうか?」


「いいよ。ていっても、教えてくれたのはアニスだよ」


クテナンテは顔に力を入れて、表情が変わらないようにしたのだろう。

そのせいで、わずかに強張っている。




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