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巾着から新たに古びた本が取り出され、アユカは「フォーンシヴィはやっぱりすごいんやな」と感心しながら受け取った。


ミーちゃんは、その本に顔を向けてから、アユカの肩に戻ってきた。

どうやらペペロミアは眠ったようだ。

可愛い寝息が聞こえている。


「これは?」


「パキラ様も判読不可な本になりますので、私どもにはさっぱりです。ですが、異国の文字や紙の古さから、聖女様に関する本だと思っているのです」


アユカは受け取った後、先ほどと同じように表紙を開いた。

1ページ目には何もなく、2ページ目から文字が綴られている。


英語や……ってか、これに関しては翻訳機能働かへんのか。

日本語として読めたら楽やのに。

人様の筆記体ほど読みにくいものはない。

うちはそう思うから、癖のない文字を書くように心がけてるんよね。


「これ、聖女様の日記やわ」


「……に、っきですか? え? え? アニス様、読めるんですか?」


「読めるよ。うちが住んでたとこの文字ちゃうけど、勉強はさせられてたから」


驚愕して狼狽えているクテナンテを見ずに、日記に目を走らせた。


はぁ?

いやいや、日本人なら日本語で日記書いてや。

英語の方がカッコいいと思って英語で書こうちゃうわ。

誰にも読まれへんやろうから見た目重視ってさー。

誰にも読まれへんのやったら、日本語でいいやん。


うん? うん……うーん、うん……壮大やな。

古書が大袈裟やったわけちゃうんか。

本人も、自分の力に驚きっぱなしやもんな。


日記のページを捲るアユカの手は止まらない。


アユカの顔が時々歪むが、クテナンテはアユカを阻害しないように見守っていて、アユカのコップからお茶がなくなればクテナンテ自ら淹れてくれている。


でも、集中して読んでいるアユカは気づいていない。


アユカが出す音とペペロミアの寝息以外聞こえない時間が続き、ようやく最後のページを読み終わったアユカから呆れ返ったような息が吐き出された。


「ないわ、ない」


「どうされました?」


「それがさ、ふざけ一一


「成功したね!」


アユカの言葉を遮った声に緊張が走り、声が聞こえた方にアユカとクテナンテは同時に顔を向ける。


そこにはパキラが笑顔が立っていて、アユカとクテナンテの思考は完全に止まった。


だって、部屋のドアは開いていないのだ。

声が聞こえるまで、音もなかった。


前触れなく急に姿を現したのだから、時が止まるほど驚くのは無理もない。


「え? パキラ……まさか……」


「ふふん。アニス、そうだよ。そのまさかだよ」


「マジで!? 天才すぎるわ!」


ソファから跳ねながら立ち上がり拍手をするアユカに、パキラは仰け反るように胸を張っている。


ミーちゃんは、アユカのジャンプにバランスを崩しかけ、素早く空中へ飛び立っていた。

アユカが落ち着くまで、安全ではないと思ったのだろう。

ソファの腰掛けに留まり直して、アユカを眺めている。


アユカはパキラの側まで行き、「すごいわー」と拍手を止めない。


「アニス様、パキラ様、あの、何が起こったのでしょう?」


淑女の鏡であるはずのクテナンテが、動揺を隠しきれずに、お伺いを立てるように恐る恐る尋ねてきた。

それもそのはずだ。

自分だけが理解できない事柄が起こったのだから。


「ああ、クテナンテ。久しぶり。結婚式以来だね」


「はい、お久しぶりでございます」


「結婚式! うちも見たかったなぁ。クテナンテ様、絶対絶世の美女やったと思うもん!」


「そうだね。クテナンテを見て何人も倒れてたもんね」


「やっぱり! そうやと思ったわー。結婚式かぁ。憧れるわ」


「アニスは、もうすぐあげるんじゃないの?」


「そ、そうやんな。うちも結婚するもんな。恥ずかしいわー」


うちとシャンの結婚式の場合は、シャンの秀麗さに倒れる人が続出しそうやわ。

何より、うちが倒れんようにせーなやわ。


結婚式を妄想しているアユカの思考を、遠慮がちな声が遮った。




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