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170 〜 リコティカス国 〜

そして、リコティカス国では、執務室でアンゲロニアが頭を抱えながら重たい息を吐き出していた。


「陛下、いかがされますか?」


執務机から頭が出るくらいの身長で、目は少し離れている美丈夫から低めの声が放たれた。

リコティカス国の宰相で、名はカランコエだ。


「あの子は狙われないから護衛は増やさないよ。そんなところに人員をさけない」


「私も同意見です。今もまた部屋に籠られて、1歩も外に出られる気配すらないそうですから」


アンゲロニアが、もう1度深い息を吐き出している。


「本当に頭が痛いよ。議会ではあの子が来てから災いが起こりすぎだと主張してくるし、国民は聖女様が助けてくれないのは本物じゃないからだとか言い出しはじめたし」


「仕方がありませんよ。風魔法を組み合わせても瘴気を祓えず、治癒魔法も使えなくなったんですから。国民の前で『私のせいじゃない』って叫ばれたことも、よろしくありませんでした」


「だからって、罪人でもないのに罪人にしようと躍起になってる奴らも変なんだよ。1人の女の子を攻撃するほどのことじゃないでしょ。できなかっただけで悪いことをしたんじゃないんだから」


「全くもってそうですが、他3国の聖女様方は治癒魔法も浄化もできますから。どうして我が国だけがと、不満が集まるのも理解できます。私は、その不満が陛下に集まっていないことが救いです」


「そうも言ってられないよ。どうせ最後には僕に向くことになるんだ。きっと、そういうシナリオだよ」


辛そうに目を閉じ、何度目か分からないため息を吐き出してから瞳を開けた。


「アルメリアは?」


「機嫌がよろしかったのが嘘みたいに、使用人にきつくあたっているそうです。何人かが働けないほどの折檻を受けております」


「あー、やだ。女性不信になりそうだよ。でも、機嫌が悪いってことは、アユカ様は逃げたのかな?」


「陛下」


諌めるように言われ、アンゲロニアは肩を軽くすくめた。


「盗聴防止を作動させているから問題ないよ。王城の中が敵だらけだと分かっているからね。しかし、どうしてアユカ様の誘拐が必要だったんだろうね」


「単に邪魔だったんじゃないでしょうか。王妹殿下は側室ではなく王妃になりたいのでしょう」


「王妃ねぇ。僕を追いやって、リコティカスをウルティーリに贈与することで婚姻を結びたいんだろうけど、国をあげるって言ってもシャンツァイは頷かないと思うけどね。だってさ、どんなものを用意しても、鞭を振る時点で無理なのにね。どうして分からないのか謎だよ」


「ええ、同感です。ウルティーリの前王妃と随分と馬が合ったということは、それだけシャンツァイ陛下に嫌悪されるということ。前王妃が殺していたという人たちの中に、王妹殿下に殺された人も混じっていそうです」


「だよねぇ。シャンツァイは、いまだに僕を見る瞳に不愉快を滲ませるんだよ。いつ喉元を食いちぎられるんだろうって怖いよね」


「まぁ、本当に怖いのはキアノティスだけどね」と声を落として放たれたが、もちろんカランコエには届いている。


「キアノティス陛下は気づかれたでしょうか?」


「気づかないわけないよ。僕が危険を冒してまで茶葉を持って行ったんだよ。もし見つかっていたら、僕はここにはいないよ」


「さてと」と言いながら立ち上がり、表情から全ての色を消した。


「アルメリアにウルティーリのことを伝えに行くよ。アユカ様が逃げていれば、憂さ晴らしに数人死ぬかもしれない。捕まったままなら、アユカ様を殺してウルティーリに行くだろうから王宮に平穏が訪れる。どちらにしろ、嫌な未来だね」


歩き出そうとしたが、ふと窓の外に視線が止まった。

見える景色に目を閉じてしまいそうになる。


例年なら緑が生い茂はじめる季節なのに、今年は曇り空が続いているせいか草木が育っているように見えない。

どんよりとした景色が、まるで心を映しているように感じてしまう。


「ねぇ、カランコエ。どうして、こんなことになってしまったのだろうか? アルメリアの病気を治せていたら違ったんだろうか?」


「例え、難病を克服されていたとしても、シャンツァイ陛下と婚姻ができなければ、王妹殿下は同じ選択をされたのではないでしょうか。もし過去に戻り、食い止められるとしたら、あの者と王妹殿下の交流を断つべきだと思います。国民全員を人質に取るなど、相当な手練れですから」


「そうだね。何もかも手遅れだなんて不甲斐ないことだよ」


アンゲロニアは、崩れそうになる無表情を歯を食いしばることで耐えた。




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