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169 〜 フォーンシヴィ帝国 〜

一方、フォーンシヴィ帝国でも、ウルティーリ国から書簡が届いた時点で目眩しの捜索を開始した。

自分が何も知らない状態であれば、必ず捜索をするからだ。

敵もそう認識しているだろうと想定しての、なんちゃって捜索になる。


モエカの護衛を増やす説明をするために、キアノティスはモエカの部屋を訪れた。

昼食後なのでお茶だけを用意してもらい、ソファで向かい合わせに座った。


「モエカ、アユカが誘拐された」


目が落ちると思うほど見開かれた瞳に、少しも関わっていないと分かり、表には出さないが心の底から安堵した。


モエカは、バレていないと思っているだろうが、嘘をつくのが下手だ。

本人は艶美に微笑んでいるつもりだろうが、何もかも顔に全て現れている。


だから、クテナンテとペペロミアの時も、利用されていただけだと分かったのだ。

でなければ、いくら聖女でも自由を制限し、働き蟻のように働かせるだけにしている。


優しく見えるように微笑んでいる姿が、モエカにとっての聖女像なのだろうと思って放っているのだ。

悪人でなければ、何をしてもらってもかまわないからだ。


それに、最近は瘴気の浄化に精を出してくれている。

風魔法との融合のおかげで綺麗に祓うことができるようになり、拍手喝采されるようになったからだろう。


キアノティスがいなくても、行ってくれるようになったことも有り難い。

グンネラが説き伏せたそうだが、何をどう説得したかは聞いていない。


アユカが誘拐された経緯を伝え、トックリランと繋がっていた商人が犯人だろうという話もした。

そして、他の聖女も狙われることを危惧して、護衛を増やすことを説明した。


頷くモエカに、本題を切り出す。


「グンネラから聞かれていると思うが、トックリランが言う商人に心当たりはないか? もしくは、トックリランの娘と話したことがあるなら教えてほしい」


「心当たりはないわ。トックリランは『商人に用意させます』って言うばかりで、名前を出さなかったもの。後、トックリランの娘に手紙をもらったことはあるけど、会ったことはないわ」


「手紙? いつだ?」


「去年の年末よ。私のことが好きで、私のメイドになりたいって書かれてたの。だから、私にメイドを決める権限はないってトックリランに断ったら、友達にでもって言われたの。でも、その時はリコティカスに旅行に行っているから、帰ってきたら会ってやってほしいって言われたわ」


「それで、会ってないのか?」


「うん。それから何も言われなかったし、私も忘れていたから」


「そうか」


モエカから情報を得られなくても、関わっていないと分かったから収穫はあったようなものかと思っていたら、モエカが気まずそうに見てきた。


「アユカは、無事なのかな?」


「願うしかないな。心配か?」


「もちろん」


嘘だと分かった。


理由は分からないが、モエカがアユカを嫌っていることは召喚の時から感じている。

向こうの世界で知り合いだったのかと思ったが、会話を聞く限り聖女たちに繋がりはなかったようだ。


生理的に受け付けないのは仕方がないので、気にしないことにしている。

国に損害があるわけでも、国民に被害があるわけでもないからだ。


「本当に心配だね」


「ああ、早く見つけてやりたいが、手がかりが何一つとしてないからな。シャンツァイが血眼になって探しているが、足取りさえ掴めないそうだ。移動手段と方向が分かれば探しやすいんだろうけどな」


「獣馬じゃないの?」


「獣馬だろうけど、近隣の街や村をあたっても獣馬で移動している奴を見た者がいないんだ。かといって、普通の馬も見ていない。誰の目にも触れていないんだ。まるで魔法だよ」


何が引っかかったのか、モエカが斜め上を見ながら首を捻っている。


「どうした?」


「うん……トックリランが言ってたんだけど……」


「何をだ?」


「娘が旅行してるって話の時に、リコティカスと共同で新しい乗り物を開発中で、それの試運転を兼ねている旅行だからすぐに戻ってくるって。その乗り物が獣馬よりも速いから完成すれば移動が楽になるって。

もしかして、アユカを攫ったのって……まさかだよね?」


「どうだろうな。犯人も攫われた理由も分かっていない状態だから何とも言えないな。トックリランの屋敷をもう1度調べてみよう。何か分かるかもしれない」


「娘に聞けば分かるんじゃない?」


「行方不明中だ」


「え?」


「トックリランが死んだ直後に屋敷に騎士を送ったが、夫人は何者かに刺されて死んでいた。そして、娘は見つかっていない。屋敷中探したはずなんだがな。どこかで死んでいるのか、連れ去られたのか、逃走したのか。まぁ、犯罪に加担していた商人と逃げているとみて捜索している最中だ」


「みんな、消えたようにいなくなるのね」


目を伏せるモエカに、優しく微笑みかけた。


「心配するな。フォーンシヴィの騎士は強い。必ず守るから、モエカは自由に過ごしていればいい。お前を傷つける奴を俺は許さないからな」


「とても心強いわ、ありがとう」


顔を上げて安心したように微笑んだモエカに笑顔を返し、キアノティスは部屋を後にした。




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