16
エルダーとグレコマは片付けがあるので、アユカは1人で森の入り口付近で素材採取をしようとした。
「アユカ様……あの……」
「キャラウェイ様、手伝ってくれる?」
「うん!」
食事中も曇っていた顔が、弾けるように元気になった。
この小さい体で、想うことがたくさんあるんだろう。
霧島なら、こんな時どうすればいいか知ってるんやろうな。
前世死ぬ直前まで一緒にいた、祖父に忠義を誓っている男性を思い出した。
彼は父の友人であり、子煩悩で、彼のおかげで捻くれずにすみ、小さなことを気にしない、怖いもの知らずになったと思っている。
他の組員に色々気にした方がいいと口を酸っぱくされたが、気にする性格になっていたら病んでいたと思う。
大勢の大人たちと接してきた。
多種多様な人たちを見てきた。
霧島に救われていたと、この世界に来て1人になって初めて気づいたことだった。
そんなアユカは、キャラウェイとの関係性をイマイチ掴みきれていない。
ウルティーリ国にお世話になるからといって、一生一緒に過ごすわけじゃない。
いつまで一緒なのか分からない。
変に首を突っ込んで、自分に何ができるというのだろう。
だから、何事もなかったように接するしかない。
一緒にいる間だけでも、楽しく過ごせたらそれでいいなと思っている。
「今日は、この実を採ろうと思うねん」
「この先、なにかと入れ物が必要になるな」と思い、キャラウェイに声をかけられる前に、木で箱を何個も錬成していた。
その箱の1つに実を入れながら、キャラウェイに渡す。
「この実は、何になるの?」
マツリカは、今までよりも少し離れたところで俯いている。
もしかしたら、キャラウェイにも謝るように言われたのかもしれない。
アユカに謝りたくない彼女なりの抵抗なんじゃないかと思う。
「この実は調味料の代わりになるんよ。赤い実がお砂糖、白い実がお塩、茶色の実が胡椒、緑の実がわさび」
生姜とお醤油も欲しいな。
そんな味がする葉っぱとかでもいいんやけどな。
ないよなぁ。
「わさび?」
「鼻にツーンとくる辛い香辛料やね」
「辛いんだ。苦手だから食べられないや」
「大人になったら食べられるよ。うちもキャラウェイ様くらいの時、嫌いやったもん」
「大人になったら美味しく感じるようになるの?」
「そういう人が多いってこと」
「早く大人になりたいな」
辛そうな声色に、わさびのことだけじゃないんだろうと分かった。
「赤い実、味見してみる?」
「うん。食べてみたい」
持っている箱から赤い実を1粒取り、キャラウェイの口に入れた。
真っ赤になるキャラウェイが、実を飲み込んでしまっただろう音が聞こえる。
「え? 噛まな味せんで」
「び、びっくりして。僕1人で食べられるよ」
それは知っているけどと思いながら、今度は手渡しした。
照れくさそうに食べている理由は分からないが、幸せそうな顔に変わったので気にしないことにした。
「甘い。この実があれば、本当にお砂糖の代わりにも、お菓子の代わりにもなるね」
「そうやね」
「これって、みんなに教えてもいい?」
「ええよ。自然の恵みは、みんなのものやからね」
「ありがとう。それと、その……」
「ん? お塩や胡椒は、実だけで食べへん方がいいで」
「そうじゃなくて……魔物のお肉……僕も食べたくて……それで……」
「んじゃ、夜に一緒に食べよっか」
「うん!」
エルダーに大声で呼ばれたので、「戻ろっか」と立ち上がると、キャラウェイも笑顔で膝を伸ばしている。
キャラウェイから木箱をもらう時に「ごめんね。ありがとう」と言われ、どう返事をしても違う気がして、柔らかく頭を撫でるだけになった。
重たい空気のまま夜になり、キャラウェイが魔物の肉を食べる時にひと騒動あった。
マツリカとフラックスが反対したのだ。
グレコマが「毒はないし、体調に変化もない」とキャラウェイの味方をして、どうにかキャラウェイは蛇肉を食べることができた。
キャラウェイの頬に手をあてて悶えている姿を見て、マツリカは夕食をとらずにテントに引きこもってしまった。
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