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168 〜 ポリティモ国 〜

アユカが誘拐されたと発表され、各国にもウルティーリ国から捜索依頼の書簡が到着した。


加えて、ポリティモ国にはキアノティスからの連絡も入った。

イフェイオンは、苦虫を噛み潰したような顔でキアノティスの話を聞き、「仰せのままに」と声を振り絞った。


通信を切ると、すぐさまホノカの護衛を倍に増やすように命じ、ホノカに説明をするために通信石を取り出した。


今、ホノカは、魔物の襲撃で全壊してしまったルクストブネトの街に赴いている。


「はい、ホノカです」


「イフェイオンです。本日もお疲れ様でした」


「イフェイオン様もお疲れでしょう。なので、本当に毎日連絡してこなくていいですよ。休んでください」


「私は、あなたと話す方が癒されるんです」


「そうですか。今日の報告をしますね」


「いえ、ホノカ。大切な話があります。盗聴防止の魔道具を使用してください」


「通信石が鳴った時点で発動させていますので、安心してください」


「では、話しますね。アユカ様が誘拐されました」


「え? ……誘拐?」


「はい。あなたと同じように魔物に襲撃された街に行き、救助活動をしていたそうです。そして、夜に騎士たちは眠らされ、アユカ様は攫われたそうです」


「誰が……どうして……」


「他の聖女を狙う可能性があるので、護衛を増やした方がいいとのことでした。数名の騎士をルクストブネトの街へ向けて出発させますが、到着まで日数を要します。次は自分が攫われるかもしれないと、気を引きしめて用心してください」


「そういうことじゃなくて……」


「そういうことです。アユカ様のことは、シャンツァイが狂ったように探しているそうですので、すぐに見つかるでしょう。吉報を待ちましょう」


「待とうって言われても……全く何も分からないんですか?」


「ええ、何一つ手がかりはないそうです」


通信石からホノカの声が聞こえなくなった。

辛そうに顔を歪ませているのだろうと、想像ができる。


国際会議の後に、ようやく手に入れることができた恋人は、見ていて息が詰まりそうなほど頑張り屋で、素直に甘えてくれない。

限界を越えた時だけ、胸にしがみついて泣いてくれる。


日々の救助活動で心身共に疲弊をしている状態での、仲がいいアユカの誘拐事件だ。


今も、きっと泣き叫びたいだろう。

でも、ぶつけられる相手が側にいない。

いますぐ抱きしめたいが、駆けつけられる場所ではない。


心を無にするようにし、ポリティモ国にとっては大切なことを話しはじめる。


「今回の魔物襲撃について、情報を提供してもらいました。やはり、人為的なものだったようです」


「……もしかして、聖女を誘き寄せるためですか?」


「それもありますが、どうやら住民たちに謀反を起こさせて国に混乱を招きたいようです。ホノカも、住民の様子がおかしいと言っていたでしょう。その理由がペペロミア様と同じだそうです」


「悪意ですか?」


「ええ。今回は公共の水飲み場を使っての憎悪とのことです。そして、憎しみを集めるために魔物に襲撃をさせた、という結論になっているそうです」


「ひどい……」


「はい、許し難い行いです。これは、さすがアユカ様という話になりますが、瘴気の浄化と同じように憎悪が消えることも確認済みとのことです」


「分かりました。恥ずかしいですが、明日から歌います」


「身の安全のためにも、そうしてください。今回の事件の犯人にとって、憎悪を消せる聖女は邪魔な存在でしょう。ですので、本当に気をつけてください。私が、そこに行ければいいのですが行けませんので……」


「騎士の人たちに守ってもらいます。大丈夫です」


「そう願っています。それと、ホノカにおうかがいしたいことがあります」


「なんですか?」


「嫌な記憶だと思いますが、ラペルージアのことです」


「あー、はい、なんですか?」


「ラペルージアの印象はどうでしたか? 頭がおかしいと思うような行動はありましたか?」


「んー、あのケバい人ですよね。嫌味を言われたくらいでしたので、頭がおかしいとは思いませんでしたよ。

あ、でも『私が誰よりも利益をもたらせられるのに』って言われて、『お金持ちなのに装飾品身につけないんだ』って変に思ったくらいですね。他の人たちは眩しいほど着飾っていたので」


「そうですか。ありがとうございます」


「アユカの件に関わっているんですか?」


「どうでしょうね」


「アユカのことで何か分かったら、すぐに教えてくださいね。じゃないと、私も探しに行きますからね」


「分かっています。すぐにお伝えしますよ」


「絶対ですよ」と強く言われ、通信石の向こう側で、辛そうに顔を俯かせて、アユカの無事を願っているんだろうと感じた。


「ホノカ、愛しています。あなたを抱いて眠りたい。あなたの可愛い唇に口づけしたい。あなたの頬を体を、私で赤く染め上げたい。あなたを激しく揺さぶって私にしがみつか一一


「あーあーあー」


「ホノカ、大好きです。あなたがいれば何もいりません」


「私がいても衣食住はいります! 必要です!」


少しは、気を紛らわせられただろうか。

頬を赤らめて怒っているだろうホノカを想像して、安堵の息を小さく吐き出した。


「そうですね。あなたを養えるように頑張ります」


「もう、急になんですか」


「伝えたかっただけですよ」


その後は、ホノカの今日の活動内容を聞いて、通信を切った。


最後にもう1度「ホノカ、愛しています」と伝えると、「ほんの少しだけ好きです」と早口で返されたことが胸を温めてくれたのだった。




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