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アユカは、ニヤける口元を隠さずに、人差し指を立ててパキラに向かって押し出した。


「実は、人工魔石を作る予定やねん」


「じ、んこぅ、ませき……」


パキラはたまげたように言葉を溢した後、お腹を抱えて笑い出した。

隣にいるアスプレニウムは、丸くした目を向けてくる。


「愉快だね。一大事業じゃないか」


「やろ。再利用できるもんは再利用せーなやん。これはウルティーリの資源にしたいから作らんとってな」


「人工魔石はってことは、他のことは提案してくれるんだね」


「もちろん! っていうか、天才のパキラにしか頼めんことやと思うねん。うち、パキラに会うまで『無理やろうから言うだけ言うてみよ』って思ってたけど、パキラなら叶えてくれると確信したわ」


「僕ならか。ふふ、まぁ、そうだよね。僕は天才だからね。何でも相談してよ」


「んじゃ、言うで」


アユカは、わざとらしく1つ咳払いをした。

パキラはずっと楽しそうな瞳をしているが、その中にはアユカを品定めするような色も含まれている。


「一瞬でどこでも好きに移動できる、瞬間移動がしたいねん」


アユカの真剣な声に、パキラは目を点にした後、ソファを叩きながら大笑いし出した。

思う存分笑ったパキラは、笑いすぎて流している涙を脱ぐながら「お腹痛い」と息を吐き出している


「本気で言ってるの?」


「本気も本気。ワープゲートの移動、つまり門や建物同士を繋げて行き来するとかは、数年後とかにはできてそうな気がするんよ。でも、今うちが欲しいのは自由自在に移動できる魔術道具やねんな」


「なるほど。アニスの発想は素晴らしいね」


発想というか、そういう異世界漫画を読んだことがあるだけやねんけど。

まぁ、いいか。


「でも、自由自在は難しいね。火を灯すのに空気を燃やすイメージがいるように、移動する場所の情報が必ず必要になってくる。だから、何処に移動するかを明確に羅列しないと存在しない場所になってしまう。明確に記述できれば、アニスが言ったワープゲートの完成になる。自由自在は無理だね」


「そこはさ、行ったことある場所とか、人物を思い浮かべたら移動できるとかは無理なんかな」


「人の意識の部分に作用するようにするんだね」


「もしくは、住所を言えばいいとか」


「そうだねぇ、どちらかといえば、人の意識の方がいいね。思い出せなくても見てきた全てを記憶しているものだからね」


「じゃあ、作れる!?」


顎を掴むように手をあてて思考を巡らせながら話すパキラに、アユカは期待一杯の眼差しを向けている。


「正直、難しいかな」


「なんで?」


「人1人を移動させるための魔力量が分からないからね。人の体積や移動距離などによって、必要な魔力量が変わるかもしれないしね」


「でも、それはワープゲートにも言えることやん」


「ワープゲートも未来の話でしょ」


「そうやったわ」


「楽しそうだから研究はしてみるよ。完成したら僕は間違いなく使えるからね」


肩を落とすアユカに対して、パキラは鼻歌を口ずさみそうなほど機嫌がいい。

考えるよりも体を動かすことが好きなアスプレニウムは、ずっと瞳を白黒させている。


「まぁ、いいわ。瞬間移動は無理やと思ってたし」


ただ指を2本、額にあてて瞬間移動してみたいなぁって、この世界なら可能かもなぁって、夢見ただけやから。


「ということは、本当に欲しいものはなに?」


「遠く離れた場所を見られる魔術道具」


「例えば?」


「鳥でも虫でもいいんやけど、その生き物が見た景色や音を共有したいねん。通信石を応用してでけへんかな?」


パキラは、先ほどと同じようにソファを叩きながら大笑いをはじめた。

アユカもアスプレニウムも、パキラが笑い終わるのを待つしかない。

数分後、笑い終わったパキラが呼吸を整えている。


「はぁ、今日は気持ちよく眠れそうだよ」


「いいことやん」


また笑い出した。

そういえば、キノアティス様もよく笑うよなぁ。

2人は似たもの同士なんかもな。


パキラが指を3本立てて、見せてきた。


「3日、待って」


「ええ!? 3日で作れるん!? スゴいやん!」


「実は先日、映像付きの通信石を完成させたばかりなんだよ。それを応用すればいいからね」


テレビ電話やん!


アユカは、無我夢中で拍手をした。

胸を張るパキラは、満更でもない顔をしている。


「なぁなぁ、パキラ。映像を繋げることができるんなら、文字を送り合うことってできへんかな?」


「話せばいいのに、どうして文字を?」


「タイミングで話せん時や『おはよう』や『おやすみ』を送り合いたいやん。それに、手紙より早いやん」


何でもないことを送り合うっていう、カップルの定番やん!

まだ見てないなとか、既読スルーとかの駆け引きは無理やろうけどさ。

メールのやり取りって楽しいんやろ?

やってみたいやん。


「送り合う文字で挨拶する意味は分からないけど、確かに手紙より早いし、書簡にするほどじゃないことをやり取りするには便利だね。作ってみるよ」


「やったー!」


シャンとメールができるー!

「愛してる」とか送られてきたらどうしよう。

そんなん恥ずかしいけど嬉しいに決まってるやん!

んで、「うちもハートマーク」とか返したらいいよな。

シャン、喜んでくれるかな。


まだ完成もしてない通信石を思い浮かべて涎を流しそうなほどニヤけるアユカを、パキラとアスプレニウムは引き攣った表情で見ていた。




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