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久しぶりにふわふわのベッドで深く眠ったせいか、目を覚ましたらお昼を過ぎていた。


欠伸をしながら部屋で朝食兼昼食を取り、アスプレニウムがつけてくれたメイドに身支度を整えてもらった。

新しい服や巾着は、アスプレニウムが用意してくれたそうだ。


支度が終わり、アスプレニウムに挨拶をしようとメイドに尋ねてみると、畑仕事に出かけていると教えてもらい、浮かれ気分で屋敷を後にした。


逃げるように移動していた外出ではなく、自由という名のお出かけに心が軽いのだ。


メイドに教えてもらった畑で、すぐにアスプレニウムを発見することができた。


体を丸めて作業をしているが、それでも岩があると思うほどの筋肉の塊だ。

筋肉好きのアユカにとっては、よじ登りたいと思うほどの塊だ。


「アスプレニウム様ー!」


アユカの大声にアスプレニウムが立ち上がり、アユカに手を振りながら向かって来てくれている。

アユカは、両手を大きく振って応え、数回ジャンプもしてみた。


「アニス嬢、おはよう」


昨日、キアノティスたちと話して、名前はアニスで通すことになっている。


そして、アスプレニウムには敬語をやめてもらっている。

「聖女様相手に無礼なことはできません」と言われたが、バレないためだと言いくるめ渋々了承してもらっていた。


「アスプレニウム様、おはよう。めっちゃ寝てもたわ」


「何日も移動だったから体が疲れていたんだろう。まだ眠っててもいいくらいだ。しかし……」


アスプレニウムの視線が、アユカの髪の毛に移った。

アユカは、大きく微笑みながら指で毛先を摘んだ。


「短くなっても、可愛いやろ?」


誘拐されてから今日初めて鏡を見て、束で短い髪の毛があることに気づいた。

「隠しようないやん」と思い、「髪型変えた方がバレにくいし、伸びてきてたからな」と、いっそのことショートカットにしてしまえばいいと整えてもらっていた。


「よく似合ってる」


いやー、深く刻まれている皺があるとはいえ、アスプレニウム様とも恋愛できたと思うわ。

ホンマにめちゃくちゃカッコいいお爺さまやから、年齢関係ないって思ってまうわ。


「髪の毛もそうだが、瞳が……自由自在なのかい?」


「まぁね。黄色の瞳にも憧れてたねん」


アユカは、ステビアたちとの移動途中でも、お手洗いで離れるときに薬草を採取していた。

その薬草を用いて、黄色の瞳になる目薬を就寝前に錬成していたのだ。


「孫が1人増えた気分だ」


「そう言ってもらえると嬉しいわ」


「アニス嬢が孫になってくれたら光栄すぎることだな」


微笑み合っていると、畑作業をしている住民たちに声をかけられた。

「遠戚の子だ」と紹介され、住民たちと挨拶を交わした。


そして、アスプレニウムがキリのいいところまで手伝うと言うので、アユカも農作業を手伝った結果、住民たちと親交を広めすぎて魔塔に行く時間はなくなってしまったのだった。


次の日は朝にちゃんと起きられたので、午前中は畑作業を手伝い、午後から魔塔に移動することにした。

畑作業の手伝いをアスプレニウムには遠慮されたが、世話になっているし楽しいからとアユカが押し切ったのだ。


元気に働くアユカは、住民たちと更に親睦を深めてしまい、歓迎会をしてもらえることになった。

そのため、予定していた魔塔には行けなくなり、歓迎会のお礼にと三線を弾き人気者になったのだった。


そして、その次の日の午後にようやく魔塔を訪れると、可愛い女の子が唇を尖らせていた。


亜麻色の髪の毛でカントリー調のツインテールをした、長いローブを着ている15歳くらい女の子だ。


この子が怒っていたので、深い森にそびえ立つ魔塔に感激していた気持ちが消え去ったのだ。


「遅いよ!」


「えっと……」


どうして怒鳴られたのか分からず視線を彷徨わせていると、また怒られた。


「キアノティスから面白い子が来るって聞いたのに、全然来ないんだもん! ずっと待ってたんだよ!」


女の子は、両腕を組んで頬を膨らませている。

どう考えても、怒られている理由が思いつかない。


「この方が、魔塔主様なんだよ」


アスプレニウムの言葉に耳を大きくした女の子は、腰に手を当て、これでもかっというほど胸を張っている。


「マジで!? こんなに可愛い子が天才なん!? めっちゃすごいやん!」


女の子は「へへん」と誇らしげに、更に空へと顔を上げている。


「僕は大陸1天才だよ。すごいでしょ」


「うん、めちゃくちゃすごい!」


「でしょでしょ」


アユカが拍手をすると、すっかり機嫌が治ったようで、魔塔主の面持ちが笑顔に変わった。


「僕はパキラ。よろしくね」


「うちはアニス。来るのが遅なってごめんな」


「ううん。きっとキアノティスの勘違いだと思うからいいよ。いい加減な男だからね」


うっ……違うんやけど、そうしとこう。

キアノティス様、ごめんやで。

でも、発想を提供するから許してな。


「そうそう。それと、君の正体を知っている1人だから。気兼ねせずに何でも言ってね」


「そうなん? それは助かるわ」


「じゃあ、何を作りたいのか話をしよう。アスプレニウムも一緒に来るんだよね?」


「はい。護衛を兼ねていますから」


おおう! うちよりも若いだろう子にアスプレニウム様が敬語使ってる!

うわー、鑑定してみよ。




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