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「アユカ、シャンツァイに内緒で全部教えてやるから、フォーンシヴィで何をしようとしているのか話してくれ」


「色んな人と会って、遊ぼうと思ってるだけやよ」


キアノティスは口角を上げて微笑んでいるが、目が「面白い」と語っている。

アユカは他の聖女とは異なると思っていたが、ここまで冷静に物事を考えられると思っていなかったのだ。

何か絶対に愉快なことを仕出かす、という確信が胸に灯ったのだ。


「俺の力があればできないことはないぞ。どうだ?」


「うーん……分かった。どっちみち遊びに行くのにキアノティス様の許可はいるやろうしな」


さっきよりも笑みが深くなったキアノティスが、右手を差し出してきた。

歓迎の握手ではなく仲間としての握手だと分かり、アユカは力を込めて握り返した。


アユカとキアノティスが握手をした後、ステビアたちが道中の出来事を報告して部屋を出て行った。

アユカの臨時護衛は終わったので、任務に戻るそうだ。

「また会おうね」と、笑顔で手を振り合った。


「少し早いが夕食にしよう」と同室で食事をしながらキアノティスは、アルメリアと東洋の商人のこと、東洋の国についてと聖女の召喚のことを教えてくれた。


「必要に迫られていたからとはいえ、東洋から侮られていたと思うと腹が立つ。馬鹿げた召喚を手伝わされていたとはな」


そう毒づくように話したキアノティスの言葉に、アユカは無意識に頷いていた。


そういえば、ハムちゃんも「馬鹿げた召喚」て言ってたな。

いや、可愛い顔で「クッソ馬鹿げた召喚」て言ってたんやったわ。

あの言葉に、これほどまでの物語が詰まってたとは。


でも、あの時の言い方やと、東洋が絡んでる感じちゃうと思うんやけどな。

世界を救ってもらいたくての召喚やろ?

それに、治癒魔法使えんかったら云々の話はどうなるん?


「なぁ、キアノティス様。聖女については古書があるんやろ? それには召喚するって書いてんの?」


「いいや。そこには、世界が滅びる時に異世界からやってくるって記載されている。

今回の召喚は、俺が商人に『滅亡するよりももっと前に来てもらうことができたらな。どこかにあるという召喚の魔法陣を知らないか?』と言ったことがキッカケだ」


キアノティス様がキッカケ?

でも、ハムちゃんはフォーンシヴィ帝国の宰相がって言ってたよな?

キアノティス様の悩みを解決するために、グンネラが発案したってこと?

まぁ、グンネラは丸やったし、変に勘繰る必要ないやろ。


「召喚の魔法陣と古書って、うちが見ても問題ないん?」


「本来はダメだが特別にいいぞ。次、来る時に持ってこよう」


「やった! ありがとう」


「礼はいい。シャンツァイは早期決着を望んでいるみたいだが、俺としては数ヶ月かかると思っているからな。そのお詫びだ」


「そうなん?」


「ああ、アルメリアが動いてくれないことには、こっちも動きようないからな」


「何するか聞いていいんやんな?」


笑顔で頷いたキアノティスが、フォークとナイフを置いている。

クテナンテとアスプレニウムも食べることを止めたので、アユカも大きく切った肉を口に含んだ後、フォークとナイフを置いた。


「明日、アユカが誘拐されたことを公表する」


「うん? そんなことしていいん?」


「アユカが戻ってきたからいいんだよ。でも、アユカが戻ってきたことを知っているのは一握りの人間だ。ウルティーリの騎士たちには死に物狂いで探してもらわないとだからな。そして、シャンツァイにも演技をしてもらわないといけない」


「だからって、なんで公表なん?」


「『聖女アユカを見つけた者の願いは、どんな願いだろうと1つ叶える』と添えて公表するんだよ。金じゃないところが、より必死さを伝えているだろ。それに、金だとアルメリアは動かないだろうからな」


「うちの偽物を仕立て上げ、連れ戻した暁には、シャンとの結婚を願うってこと?」


キアノティスは、楽しそうな表情を崩さない。

まるでアユカと宴会を満喫しているような雰囲気だ。


「そこまで動いてくれれば簡単なんだがな。はじめはアユカを探すだろう。本物を見つけて殺してしまった方が、シャンツァイの愛を独占できると思うだろ。でも、見つけられず焦れば偽物を仕立て上げるだろうな」


「やから、早期解決は難しいんか」


「すまないな。しかし、根絶やせる時に叩いておきたいんだ。アルメリアを監視する体制は昨日整った。どう動こうが捕まえられるだろう」


「うーん、無理ちゃう?」


「なにがだ?」


「だってやで、アルメリアはうちを殺すつもりないと思うねん。東洋の国に渡さなあかんはずやもん。結局のところ、うちをシャンに渡すことはできへんやん」


「まぁ、そうだな。だったら、どうすればいいと思う?」


「キアノティス様的には、うちを見かけたという噂を流して、そこに来る奴らを捕まえるって言ってほしいんやろ?」


キアノティスが、声を出して笑いだした。

「王妃に必要な資質ですわ」というクテナンテの言葉に、アスプレニウムも微笑んでいる。


「どこから分かった?」


「うちでも導き出せることを、シャンとキアノティス様が分からんわけないと思ったとこから。それに、アルメリアが絶対に動くって確信もあるんやろ」


「どうしてだ?」


「うちの生死や居場所が分からん限り、偽物を仕立てても不安しか残らんやん。シャンを騙せたとしても、後からうちが見つかったら困るもんな」


キアノティスは、今度はお腹を抱えて笑っている。


「あー、面白いな。シャンツァイとアユカの組み合わせなら、今度のウルティーリは本当に問題なさそうだ」


「うちは試験に合格したんやね。ご褒美は?」


「どこだろうと自由に動いていいぞ。俺が全部責任を取ってやる」


「ホンマに!? 明日、早速魔術機関に行きたいんやけど」


「悪いが、フォーンシヴィにあるのは魔塔だ。それでもいいか?」


「魔塔!? うわー! めっちゃいいやん! 天才魔術師とかおるん?」


「今の魔塔主がそうだな」


拍手した後に万歳をして喜ぶアユカを見て、キアノティスたちは微笑み合った。


「それにしても、どうしてシャンツァイは作戦を言いたくなかったんだろうな」


「真実味のある噂にするために、うちが直接移動するって言うと思ったんちゃうかな」


驚愕しているキアノティスたちの顔が面白くて、アユカは笑った。


「しないよな?」


「せーへんよ。うちはうちでやりたいことあるから」


「フッフッフッフ」と左の口角だけを上げて笑うアユカに、キアノティスたちは表情を引き攣らせていた。




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