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ステビアたちと快調に移動し、テルゴルゴ地区のアスプレニウムの屋敷にやってきた。

裏口に到着すると、屋敷の執事であるシッサスが待ってくれていた。


シッサスの名前は鑑定をしたから知っているだけで、本人が自己紹介をしたことはない。


瘴気の浄化に来た時に昼食をどこに用意するかとアスプレニウムに尋ねた執事で、食事時に部屋にいたので鑑定に引っかかっただけだ。


「お待ちしておりました。応接室にご案内いたします」


歩き出したシッサスの後ろを、ステビアたちに囲まれながらついていく。


「よい時間に到着してくださいました。同時刻に両陛下が正面に到着しておりますので、聖女様の目眩しになったと思われます」


「キアノティス様たち来てくれたんや。会ってお礼言えるわ。よかった」


来てくれるだろうとは思っていたが、本当に来てくれたということに心が温かくなっていく。

嬉しそうに微笑んでいるアユカに、ステビアたちも頬を緩めている。


移動中、誘拐で怖い想いをしただろうと、ステビアたちはアユカにたくさん話しかけていた。

思い出したり、考え込んだりしないように、楽しい話をし続けていた。

ステビアに至っては、アユカを必死で口説いていた。


そのおかげか、アユカはずっと笑っていた。

だが、夜に月を見上げては、左手の薬指にある印にキスを落としていた。

その時だけは、寂しそうな顔を隠せていなかった。


誰に会いたいのかは、一目瞭然だ。

でも、我慢をしてもらうしかない。

早くカタが付けばいいのにと、ステビアたちは思っていた。


だからこそ、アユカが喜んでいる姿に笑みが溢れたのだ。


応接室に着くと、すでにキアノティスたちがいて、お茶の準備もされていた。


「アユカ! よかった!」


目が合うなり、駆け寄ってきたキアノティスに強く抱きしめられる。


「キアノティス様が助けてくれたからやよ。ホンマにありがとう」


「ああ、助けることができてよかったよ」


少し体を離したキアノティスに、頭を撫でられる。


ステビアたちと仲良くなったとはいえ、キアノティスの安心感は別格だ。

涙が溢れそうになるほどの安堵が込み上げてくる。


「もう大丈夫だからな。ひとまず、ゆっくり話をしよう」


「うん」


キアノティスが離れると、クテナンテからも「ご無事で安心しました。ここまで来てくださりありがとうございます」と抱きしめられた。

アユカはキツく抱きしめ返し、クテナンテと微笑み合ったのだった。


ソファに腰を落とし、誘拐された時の状況を事細かく話した。


「なるほどな。特別な獣馬なんだろうな」


「そうでしょうね。しかし、どう手に入れたんでしょうか? 噂ですら聞いたことありませんよ」


同意するアスプレニウムの言葉に、キアノティスは「だよな」と頷いている。


「アユカ。その男2人は話し方に特徴はなかったか?」


「なかったよ。訛ってるとかも思わんかったし」


「そうか。目星い言葉は、アルメリアの名前だけなんだな」


アルメリアの名前の時にクテナンテの顔が険しくなったような気がしたが、あくまで気のせいだったようだ。


キアノティスからクテナンテは嫌っていると聞いたから、そう見えたのかもしれない。

じゃないと、女神よりも美しいと思うクテナンテが、山姥に化けるわけがないのだから。


そう思っても、アユカは1度目を擦ってしまっていた。


「どうかされました?」


「ううん、見間違いやと思う」


うんうん。きっと目の錯覚やわ。

シャンの後ろに蔓延る黒い靄なみに怖かったとか、ありえへんもんな。


「なぁ、キアノティス様。何をしようとしてるんか教えてほしいねん」


「教えてあげたいのは山々だが、シャンツァイからアユカには言わないようにって念押しされてんだよ」


「なんで?」


「絶対じっとできないだろうからってよ」


「うち、そんなにお転婆ちゃうのに」


いつもなら入るエルダーの横槍がなくて寂しくなる。

聞こえないフリをしていたが、無かったから無かったで落ち着かない。


言葉や表情とはあべこべな雰囲気を纏うアユカを見て、キアノティスは巾着から通信石を取り出し、机に置いている。


「アユカ。通信石を繋げるためには、1度通信石同士を合わせないといけないんだ。だから、俺の通信石を渡すことはできないが、今なら繋げてやれる。説得してみろ」


キアノティスが通信石に触れると、「ピピピ。ピピピ」と聞こえはじめた。

アユカは、通信石と柔らかく微笑むキアノティスを交互に見ている。


「毎日かけてくんな。鬱陶しい」


イライラしていると分かる声だが、アユカからすれば涙を我慢できないほど恋焦がれた声だ。

目は熱くなるし、喉がつっかえたように息ができなくなる。


「キアノティスじゃねぇのか? まぁいいか。何もないなら切るぞ」


「あー! 待て待て待て!」


「はぁ……名乗るぐらいしろ。で、どうした?」


「あーえっとな、うん、そうだな」


「切るぞ」


本当に切ったようで、「ピッ」と音が聞こえてきた。

もちろん「おーい」とキアノティスが話しかけても、返事は返ってこない。




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