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午前中は、食事を配給して竜笛を吹き、まだ会っていない住民たちを訪問した。

午後からは、森に行き薬草を採取し、崩れた街に置かれたままの魔物を錬成した。


そんな日を3日ほど過ごしたが、初日に見た4人と騎士以外に髑髏マークはおらず、その4人とも会っていない。


そして明日の朝、交代というか物取りをするための増員の騎士が到着する前日の夜。


マトーネダルに来て、1週間働き詰めだったからだろうか。

アユカはいつも以上に眠たく、シャンツァイたちとの会議が終わった後、すぐに休むことにした。


ベッドに潜ったことまでは覚えている。

だが、潜った刹那に眠ったのか、ベッドの上でゴロゴロした記憶はない。


はぁ……マジで意味不明や……


寒いと思って起きたら両手両足を縛られていて、こじんまりとした暗闇の中だった。

この世界では感じたことのない、移動特有の揺れを感じる。

機械で動く乗り物はないはずなので、馬車だと予想した。


全く記憶にないけど、どう考えても誘拐されたんやんな。

ってことは、連れ去られてから、どれくらい経ったかが重要になるな。


いや、ちゃうわ。

前世での誘拐と同じ基準で考えたらあかんわ。

獣馬で移動してるやろうから距離を測ることはできへんし、犯人の目的が何一つ分からんし、目星すらつかへん。

それは、シャンたちもそう思うやろうしな。


ってか、グレコマとエルダーがめちゃくちゃ怒られるんやろうなぁ。


何がどうなってこうなってるんか分からんから心配ではあるけど、みんなが無事であることを願おう。

うち怪我してないっぽいし、みんなも怪我してませんように。


ってことで、まずは情報収集やな。


横向きに寝転がっていた状態から上向きに変え、お腹に力を入れて上半身を起こす。

足をお尻まで引き寄せ、振り子のように上半身を揺らして立ち上がった。


縄抜けできるけど、急にドア開けられて動けることバレたら、手足切られるかもやしな。

あー、怖い怖い。痛いのは嫌やわ。


平然とそんなことを思いながら奥側に飛び跳ねて移動し、御者台との接している壁に耳を付ける。


くぅ! 何も聞こえへん。

窓もないしなぁ。今が夜か朝かも分からん。


どうしようかなと考えていたら、馬車が急停車したようで体に重力が加わり転けてしまった。


いった! 何やねん、もう!


先ほどまで体に伝わってきていた揺れを感じなくなり、外で何か会話している声が聞こえる。

だが、何を話しているかは聞き取れない。


ドアが開く音がし、咄嗟に目を閉じた。


「どうしてあんなに奥にいるんだ?」


「はぁ? お前がさっき無理矢理止まったせいだろうが!」


「んな怒るなよ」


馬車に乗ってきているような音が聞こえる。


「まだ起きねぇな。睡眠薬効きすぎじゃないか?」


「起きない方がいいんだよ。こいつが起きないってことは、宿舎の奴らもまだ眠ったままってことだ」


「ああ、そうだな。強力な睡眠薬って言ってたしな。今のうちに獣馬を休ませて、俺たちも飯にしようぜ」


「そうするか。長い道のりだしな」


男の足音が聞こえ出した。

馬車を降りるのだろう。

でも、まだ近くに気配を感じる。


「なぁ、こんなに明るい子が、本当に邪悪なのか?」


「何を言い出してんだよ」


足音が止まった。


「だってよ、この子、ずっと笑顔だったじゃねぇか。野蛮な奴らに対してだぜ」


「何言ってんだ。それこそが、その子も野蛮だって証拠だろが。簡単に暴力振るうって聞いてるだろ」


「そうだけどよ……」


「それに、その子のせいで、どれだけアルメリア様が泣いてると思ってんだ」


「……そうだったな。アルメリア様の幸せのためにも悪を正さなきゃな」


足音が遠ざかり、ドアが閉まる音がした。

アユカは、本当に誰もいないのか薄目で確認をしてから、目を開けた。


なるほどなぁ。

めっちゃ眠たかったんは、睡眠薬のせいやったんか。


でも、毒が怖いから食堂では『アプザル』してたのにな。

いつ飲まされたんやろか?

それとも、嗅がされた?


まぁ、今はどっちでもいいか。


もし、うちみたいに自然と起きへんくても、今日新たに騎士隊が着く予定やったから、宿舎の方は大丈夫やろう。


ってかさ、どこまで運ぶ予定なんやろか?

大陸が大きすぎるから、どこ行くんも長い道のりやもんなぁ。


まぁ、行くとこは、アルメリア様のところなんやろうけどさ。


そもそも、アルメリア様って誰やねん。

会ったことないのに、泣かしたことなんてないわ。


んで、なんでうちが、悪やら邪悪やら言われなあかんねん。

この世界では、そんな肩書きないはずやと思ってたのに。ひどいわ。


小さく息を吐き出して、懐かしくも感じる暗い気持ちを外に追い出した。


さて、逃げよか。

誘拐犯は2名みたいやから、逃げるんは簡単やわ。

2人おるんなら1人は運転して、もう1人は見張らなあかんもんやのに。


どうせ目を覚ましても、怯えて動かれへんと思ってんやろな。

やから、2人して御者台におるんやろう。


しかも、服着た状態で放っとくなんて、逃げてくださいって言うてるみたいなもんやで。

こちとら、誘拐されるプロなんよ。

舐めてもらったら困るわ。


「フッフッフッフ」と口角を上げて笑い、馬車が動き出すのを待った。




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