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まぁ、いいや。
特殊回復薬は、何で作れるんかなっと。
前触れもなく、肩を落として影を背負い、首を垂れて廃人と化すアユカに、グレコマとエルダーは慌てて声をかけてくれた。
「アユカ、どうしたっすか?」
「貧血か? 体調が悪くなったのか?」
「いや、うん、体調は大丈夫。だたちょっとショックなことが……」
「何があったっていうんすか?」
何がって、相当ショックなことやよ!
だって、特殊回復薬の素材、1つも見たことないんやって!
なぁ!? そんなことある!?
うち、めちゃくちゃ移動した先々で採取してるで。
1回しか行ったことないけど、ダンジョンでも見つかってないんやで。
どこにあるって言うん!?
おーしーえーてー!
アユカが、沈んだ気持ちを全て吐き出すように、長い息を吐いた。
「猛毒の解毒剤は作れるんやけど、今のうちにはまだ作られへんねん」
「あるのに作れないって、どういうことっすか?」
「俺たちと同じでレベルの問題か?」
あ! それ、いい考えやん。いただき。
「うん、そうみたい。まぁ、うちの場合、採取した素材の種類や数で変わってくるみたい」
「アユカは、そういうところも変なんすね」
「本当にな」
それ、言わんでいいことやん。
ホンマにグレコマとエルダーは、うちをおかしな子に仕立てあげたいんやから。
「とりあえず、この実は取っておいて、交代の時に第3騎士隊に持って帰ってもらうか」
「そうやね。1個あればいいやろうし、他にも見つけたら燃やそう」
グレコマが皮の袋を裏返し、手を入れ、実を掴んだ。
袋をひっくり返して、実に触れずに中に入れている。
よく頭が回るもんだと拍手したら、ドヤ顔で2回ほど頷かれた。
その後も、アユカは辺りを隈なく見渡しては魔物を錬成し、グレコマが素材を集め、エルダーがいらないモノを焼失させるを繰り返した。
夜になり、昨日同様、アユカの部屋でシャンツァイたちとの会議が始まった。
グレコマが今日あったことを報告し、ズカードの実のところでは重たい息が何個も聞こえた。
「すぐに掲示板で報じたいところだが……はぁ、先にボリジ、報告を聞かせてくれ」
「かしこまりました。本日は昨日よりも穏やかな住民が増え、また手伝いを申し出る者も増えました。街に笑顔が戻ってきたようだと、騎士たちが話しておりました。
例の騎士に関しては、昨日の陛下のお考え通り、音を遮っていたようです。肩を叩いたらようやく反応したらしく、その後歯を食いしばったそうです」
「え? 竜笛の音が、むちゃくちゃ嫌いってことやん」
「嫌いくらいで任務中に音を遮りませんよ。命令があったらどうするんですか」
顔見えへんけど、声からモナルダの呆れ具合が良く分かるわー。
「……アユ、どれくらいの住民と会った? 全員はまだ無理だよな?」
「うん、まだ回れてないところあるから」
「今の時点で、敵の組織の人間は分かるか?」
「ごめん、分からへん。初日以降、見かけてないねん」
「そうか……もういないのか、潜伏しているのか。もし、もういないのなら騎士を絶対に逃せねぇ。夜も見張りは付けてるんだよな?」
「はい、廊下と窓の外に付けております」
通信石の向こうで顔でも見合わせていたのだろうか、シャンツァイが話し出すまで1拍の間があった。
「予定より大分と早いが、第2弾の騎士を送る。その騎士たちが到着後、裏切り者を捕縛すると同時に、掲示板にてピンクの実は魔物の大好物とだけ知らせる。敵が毒だとチラつかせてこなかったのは、毒だと知らないのかもしれねぇからな。情報を与えてやる必要はない。
そして、裏切り者を捕縛後は、怪しい住民がいたら取り押さえることにする。
聖女が街にいるんだ。ここまでのことをしているのに、何もしねぇなんてことないだろう」
「仰せのままに」
「グレコマ、エルダー」
「「はい」」
「どれだけ重要任務か分かるな?」
「この命に代えてもお守りします」
「はいっす」
シャンツァイから見えていないのに、グレコマとエルダーは胸に手を当てお辞儀をしている。
「まぁまぁ、大丈夫やって。うちかって戦えるんやし、敵を見つけたらすぐに教えるから。大船に乗った気持ちでおってよ」
「頼むからジッとしててほしいっすー!」「本当にな」といういつものやり取りに加え、通信石の向こうからモナルダの「落ち着きがほしいですね」という声も聞こえてきた。
ボリジは、どことなく苦い顔をしている。
「アユ、絶対に無茶はするなよ」
「せーへんて」
微かにシャンツァイのため息が聞こえたような気がしたが、シャンツァイはもう1度グレコマとエルダーにアユカを守るように命令をしていた。
明日、事態は動きます。
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