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昨日の夜に話し合った通り、アユカは午前中に竜笛を吹きながら中傷者の元を巡り、午後から森の中に入った。
「魔物がいっぱい攻めてきたわりには、森に被害はないんやな」
「謎っすね」
「暴走じゃなかったってことか?」
「分からんけど、そうなんかもな」
3時間ほど薬草を摘んでいたが、魔物に会うことはなく、余計に街が襲われたという事実が奇怪に感じてくる。
森に来たのだし帰り道だからと、崩れている区域に寄ることにした。
大地震が起こったような景色やわ……
瓦礫になってしまった家だろうモノたちを見ながら、『アプザル』をして進んでいく。
もし体の1部分でも視界に入れば、鑑定が働くと思ったからだ。
日にちが経っているから生きている可能性は低いが、瓦礫の中からは助けられるかもしれない。
それに、飲み水場のように怪しい物を発見できるかもしれない。
アユカは、見落としがないようにじっくりと見回している。
なんか、大きい魔物ばっかやな。
魔物を錬成できたらと思ったけど、生肉を放置してるようなもんやから、さすがにあかんよな。
でも、素材は売れるから、あった方が街のためにはいいか。
「エルダー、うち錬成して素材だけ取ろうと思うから、残りは焼いてもらっていい?」
「そうっすね。ずっとこのままっていうのも住民は嫌っすもんね」
アユカは、手前にあった魔物から錬成を始めた。
魔物は1部瓦礫に埋もれていたり、瓦礫の上で倒れていたりするので、素材はグレコマが集めてくれた。
グレコマの手によって道の真ん中に投げられる素材以外のモノは、エルダーが火魔法で焼き消している。
「ん? これって……アユカ様! エルダー!」
小山になっている瓦礫の上で、素材を集めてくれていたグレコマに呼ばれた。
エルダーに引っ張ってもらいながら、グレコマの横に行くと、グレコマが足元を指した。
元々は、瓢箪のような形のモノなのだろう。
大きく膨らんでいる部分の半分が消失している。
「ピンクの実やん」
「崩れてるっすが、あの子が言ってた実っぽいすね」
「魔物の胃の中に残ってたとかか?」
「やろうね。この実、魔物の大好物で名前はズカード。そして猛毒やわ」
「猛毒? 魔物の大好物なのにか?」
「魔物以外に対して猛毒なんよ。スプーン1杯でも体内に入れば、あっという間にあの世行きになる。どんなに耐えてももって5分。恐ろしすぎるわ」
実の汁が、魔物にしか分からん匂いを放つんか。
シリールルといい魔物が好きな果物は、人間には害にしかならんってことやね。
「この実で、魔物を誘き寄せたんやわ」
「だから森は無事で、歩き回れない街は壊されたってことっすか?」
「森の中歩けるんやったら街でも歩けるやろ。誰かが攻撃して魔物が暴れたんちゃうかな? もしくは、魔物を見た住民が騒いで刺激をしたとか。それに、家の屋根に実を置かれてたんかもしれんしな」
「全部あり得るな」
グレコマの声に、エルダーも頷いている。
「アユカ様、この実を持ち帰ることってできそうか?」
「この場で焼かへんの?」
「シャンツァイ様なら、毒の成分を分析して、薬を作れるなら作っておきたいと言うんじゃないかと思ってな。でも、アユカ様が教えてくれた毒消しで治せるなら、ここで焼いて問題ないと思う」
うーん……うちの毒消しで解毒できるんやろうか?
だって、これ猛毒やで、猛毒。
でも、毒消し以外に、毒に関する薬の表示って見たことないはずやしなぁ。
毒消しにハイポーションみたいなワンランク上の毒消しがあれば、表示されててもおかしくないと思うんよね。
まさか……その材料が1つも採ったことないものなんてことないでな?
まぁ、1回「ポチッとな」しとこかな。
百面相を始めたアユカを、グレコマとエルダーは静かに見守っている。
2人は、アユカに解毒できると言ってほしいのだ。
怪我をした女の子は、大量にあったと話していた。
ということは、まだ敵が持っているのなら大量殺人も可能ということ。
恐ろしい未来が、頭を過って仕方がない。
シリールルと一緒で、ズカードの名前ではヒットなしか。
何で検索したらいいんやろ?
猛毒? いや、解毒剤の方がいいか。
そしたら、あらゆる解毒剤出てきそうやもんな。
ハムちゃん先生、何卒、よろしくお願いいたしますだぁ! っと。
おお! 検索結果早すぎる!
最高やわ! 帰ったら何曲だろうと演奏するからな。
んで、ヒットした解毒剤は3つか……なになに……
1つは、知ってる毒消し。ある程度の毒に対して有効。
もう1つは、異常回復薬。痺れ薬や睡眠薬などでの異常状態を治す。
残る1つは、特殊回復薬。どんな毒でもどんな異常でも治す。
ってことはさ、綺麗薬の時も風邪薬との違いがよく分からんかったけど、今回も全部、特殊回復薬ってやつでいいんちゃうの?
わざわざ分ける必要あるんかな?




